期せずして、ブランドに関する研究の到達点を示す2冊の書物が出版された。1つは、田中洋・編『ブランド戦略全書』。書名が示すようにブランド戦略のあらゆる側面を扱いながら、非常にコンパクトにまとめられている。研究者だけでなく実務家も加わっているのが特徴だ。
もう1つは守口剛・佐藤栄作編『ブランド評価手法』。こちらは主に購買データからブランド価値を測定するマーケティング・サイエンス手法を紹介する。『全書』が、どちらかというと消費者行動研究(やマーケティング戦略論)の立場から書かれていることと対照をなしている。
消費者行動研究(CB)とマーケティングサイエンス(クオンツ)は、現代のマーケティング研究の双璧をなす。それぞれがブランドをいかに捉えているかを比べる上で、この2冊は格好の材料になる。実際、ブランドという謎に満ちた対象は、複合的な接近なしには理解できないはずだ。
ブランド研究の最初のピークは、アーカーの著作が出版された90年代だろう。その頃、ブランドのレバレッジを生かす戦略として注目された「ブランド拡張」(*)の話題が、どちらの書でもほとんど扱われていない点が興味深い。そこに、当時と現在の関心の差が現れているかもしれない。
*あるカテゴリーで成功したブランドを他のカテゴリーに適用すること。
90年頃は、特に日本では、「企業ブランド」の問題もまた大きな関心を集めていた。それもまた、現代の日本のマーケターにとって、さほど重要な問題ではない、ということだ。ブランドは大きな傘としてではなく、研ぎ澄まされたエッジとしての側面を強めている、ということだろうか。
ブランドのそのような進化は、マーケティングの基盤をゆっくりと変えつつある。そうであれば、これらの書物が示すブランド研究の到達点は、現時点での最高峰ではあっても終着地ではなく、いぜんとして中間点なのだ。その先は,現在の最高峰に立つことで見えてくると期待したい。
ご恵贈いただき感謝いたします。
![]() | ブランド戦略全書 |
田中洋・編 | |
有斐閣 |
もう1つは守口剛・佐藤栄作編『ブランド評価手法』。こちらは主に購買データからブランド価値を測定するマーケティング・サイエンス手法を紹介する。『全書』が、どちらかというと消費者行動研究(やマーケティング戦略論)の立場から書かれていることと対照をなしている。
![]() | ブランド評価手法 ―マーケティング視点によるアプローチ― (シリーズ“マーケティング・エンジニアリング”) |
守口剛・佐藤栄作・編著 | |
朝倉書店 |
消費者行動研究(CB)とマーケティングサイエンス(クオンツ)は、現代のマーケティング研究の双璧をなす。それぞれがブランドをいかに捉えているかを比べる上で、この2冊は格好の材料になる。実際、ブランドという謎に満ちた対象は、複合的な接近なしには理解できないはずだ。
ブランド研究の最初のピークは、アーカーの著作が出版された90年代だろう。その頃、ブランドのレバレッジを生かす戦略として注目された「ブランド拡張」(*)の話題が、どちらの書でもほとんど扱われていない点が興味深い。そこに、当時と現在の関心の差が現れているかもしれない。
*あるカテゴリーで成功したブランドを他のカテゴリーに適用すること。
90年頃は、特に日本では、「企業ブランド」の問題もまた大きな関心を集めていた。それもまた、現代の日本のマーケターにとって、さほど重要な問題ではない、ということだ。ブランドは大きな傘としてではなく、研ぎ澄まされたエッジとしての側面を強めている、ということだろうか。
ブランドのそのような進化は、マーケティングの基盤をゆっくりと変えつつある。そうであれば、これらの書物が示すブランド研究の到達点は、現時点での最高峰ではあっても終着地ではなく、いぜんとして中間点なのだ。その先は,現在の最高峰に立つことで見えてくると期待したい。
ご恵贈いただき感謝いたします。