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Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

ブランド研究の最高峰にして中間地点

2014-12-22 08:13:36 | Weblog
期せずして、ブランドに関する研究の到達点を示す2冊の書物が出版された。1つは、田中洋・編『ブランド戦略全書』。書名が示すようにブランド戦略のあらゆる側面を扱いながら、非常にコンパクトにまとめられている。研究者だけでなく実務家も加わっているのが特徴だ。

ブランド戦略全書
田中洋・編
有斐閣

もう1つは守口剛・佐藤栄作編『ブランド評価手法』。こちらは主に購買データからブランド価値を測定するマーケティング・サイエンス手法を紹介する。『全書』が、どちらかというと消費者行動研究(やマーケティング戦略論)の立場から書かれていることと対照をなしている。

ブランド評価手法
―マーケティング視点によるアプローチ― (シリーズ“マーケティング・エンジニアリング”)
守口剛・佐藤栄作・編著
朝倉書店


消費者行動研究(CB)とマーケティングサイエンス(クオンツ)は、現代のマーケティング研究の双璧をなす。それぞれがブランドをいかに捉えているかを比べる上で、この2冊は格好の材料になる。実際、ブランドという謎に満ちた対象は、複合的な接近なしには理解できないはずだ。

ブランド研究の最初のピークは、アーカーの著作が出版された90年代だろう。その頃、ブランドのレバレッジを生かす戦略として注目された「ブランド拡張」(*)の話題が、どちらの書でもほとんど扱われていない点が興味深い。そこに、当時と現在の関心の差が現れているかもしれない。

*あるカテゴリーで成功したブランドを他のカテゴリーに適用すること。

90年頃は、特に日本では、「企業ブランド」の問題もまた大きな関心を集めていた。それもまた、現代の日本のマーケターにとって、さほど重要な問題ではない、ということだ。ブランドは大きな傘としてではなく、研ぎ澄まされたエッジとしての側面を強めている、ということだろうか。

ブランドのそのような進化は、マーケティングの基盤をゆっくりと変えつつある。そうであれば、これらの書物が示すブランド研究の到達点は、現時点での最高峰ではあっても終着地ではなく、いぜんとして中間点なのだ。その先は,現在の最高峰に立つことで見えてくると期待したい。

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