Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

消費者行動論を超えた消費者行動研究書

2013-12-28 10:17:19 | Weblog
今年のマーケティング研究書、最後に紹介するのは、東北大学の澁谷覚先生の『類似性の構造と判断』だ。題名からは、哲学か認知科学の研究書でだと見間違う。副題に小さく「消費者行動」と書かれているが、見逃してしまいそうだ。

これは偶然ではなく、むしろ著者の矜持が現れていると解すべきだろう。本書はマーケティング・消費者行動という領域を超えた、心理学・認知科学の研究書として書かれている。そして、そのような書として読まれるべき書物である。

類似性の構造と判断
―他者との比較が消費者行動を変える
澁谷覚
有斐閣

本書が取り上げるテーマは、自己と他者の類似性である。それが重要なのは、他者から影響の背後にある、重要な認知メカニズムになるからである。本書はそれに関連する膨大な研究を概観し、著者自らの独自の研究を紹介している。

本書のマーケティング上の関心は、オンライン上のクチコミや顧客事例など、他者経験のコミュニケーションの効果にある。しかし、澁谷さんの研究は狭義の消費行動を超えて、人間の認知全体に拡張されるポテンシャルを秘めている。

著者の澁谷さんによれば、本書は各章が独立しており、どこかの章を読めば,全体がおぼろげにわかる、というわけにはいかないようだ。読者にとってタフな本であるが、これを書き上げた著者の頭脳が相当にタフであることの証左である。

ふと思ったのは、類似性とは引力であり、求心力だとすれば、その逆は、差異性、斥力、遠心力だということ。澁谷さんの円満な人柄が類似性の研究に向かわせるなら、その真逆のはぐれ者は、人間の差異性や孤立を研究すべきかもしれない。