Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

マーケティング・サイエンティストの世代論

2013-12-13 11:00:44 | Weblog
先週の土曜、汐留の電通ホールで日本マーケティング・サイエンス学会の研究大会が開かれた。代表理事の小川孔輔先生(法政大)が懇親会の挨拶で、マーケティング・サイエンスの研究者の世代論を語っておられた。第一世代は大澤豊先生(当時阪大)など、すでに鬼籍に入られた方もいる。

第一世代は、米国で1960~70年代に生まれたマーケティング・サイエンスを学び、日本に導入した。彼らに育てられた第二世代が片平秀貴先生(元東京大)や小川先生で、海外の学会で発表したりジャーナルに投稿することで、欧米と同等に活動するレベルまで学会を進化させてこられた。

その次の世代は、おそらく現在40代から50代の研究者だという。彼らに残された課題は、他の研究分野ともっと交流すること、そして産業ともっと連携することだと小川先生は語る。自分はいったいどの世代なのか、実年齢で考えるべきなのか、それとも番外なのか、考えるほど悩みが深まる。

この学会の大会は、最近2つのトラックからなる。例外はあるが、どうもハードコアMSとペリフェラルMSで分けられている気がする。前者は、顧客の購買履歴データを用い、高度な選択モデルや時系列モデル(やその混合)をMCMCで推定する、といった研究が並ぶ。それ以外が後者になる。

ペリフェラルMSは、ソフトMSといったほうが聞こえがいい。消費の心理的・社会的側面が取り上げられ、データは質問紙調査が中心で、分析手法はさまざまだが、統計パッケージで済む分析も少なくない。今回の(というかここ数年の)ぼくの発表は、ソフトMSのトラックで行われている。

意外なのが、実務家を含むこの学会の聴衆の多くが、ソフトMSよりハードMSのトラックのほうを好んでいるということだ。研究としてはそちらのほうが「高度」で「主流」だということもあるだろうし、スーパーマーケットでの購買行動に関心を持つマーケターがいまだ多いのだろう。

さて、自分は小沢佳奈(流通経済大)・戸谷圭子(同志社大)両先生と連名で「サービス業における価値共創のモデル化について」というタイトルで報告した。やや漠然としたタイトルだが、やったことは、ある法人向け地域金融機関からいただいた顧客調査と顧客別利益データの分析である。

この研究では、価値共創を、顧客と企業がそれぞれ受け取る価値が特定のサービス活動でともに高まることと定義している。しかし、このことばは最近さまざまな意味で使われており、それぞれの分野での期待がある。諸先生からいただいたコメントから、その難しさを感じることになった。

自分としては、それをどう呼ぶかはともかく、価値の相互ダイナミクスをどう取り込むかが課題である。この研究は、会計学者や物理学者を含むプロジェクトの一部なので、彼らの助けを借りながら、「本丸」に切り込めないかと思っている。つまり、エージェントベース・モデルに何とか・・・。

忙しさにかまけて投稿をサボっていたが、研究大会の約1週間前に部会を開き、本報告とともに小野譲司先生(青山学院大)から「サービスエクセレンスのダイナミクス:JCSI(2009-2013)からの知見」というご報告をいただいた。これは、マクロレベルでの価値ダイナミクスの研究といえる。

小川先生の世代論でいえば、小野先生の世代が日本のマーケティング・サイエンスの第三世代になるのだろう(小野先生は残念ながら JIMS 会員ではないが)。この世代には、他にも優秀な研究者が多い。産業界との交流という第二の課題については、かなり実績を上げている方々が少なくない。

実年齢はともかく、学位取得や教職に就いた時期でいえば、自分も第三世代か第四世代なので、小川先生のいう第一の課題、異分野の研究者との交流で貢献するしかない。とはいえ、サービス・マーケティングですら自分にとっては「異分野」だという不勉強ぶりなので、学は成り難し・・・。