Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

日本にも「白熱教室」はあった

2010-07-22 20:10:07 | Weblog
NHKで放映された「ハーバード白熱教室」。二階席もあるような大教室で,学生を議論に参加させつつ倫理学あるいは政治哲学の難解なテーマを扱った授業を行うサンデル教授の手腕に多くの人々が驚いた。そのサンデル教授が,この夏,東京大学安田講堂で「特別講義」を行うという。同時通訳付きで募集人員は500人。500字程度の番組への感想と応募動機を書かせて選考するようだが,どうやって選ぶのだろう・・・。

SAPIO (サピオ) 2010年 8/4号
小学館

それはともかく,SAPIO の最新号がサンデル教授のインタビューとともに,「日本にも『白熱教室』はあった」という記事を載せている。とりあげられているのは,以下の3つ:

早稲田大学 全学部  原孝氏(組織改革コンサルタント)「自己表現論」
東京大学  教養学部 小松美彦氏(東京海洋大学教授) 「科学史」
千葉大学  法経学部 小林正弥氏(千葉大学教授)   「公共哲学」

最初の2つが非常勤講師による講義である点も興味深いが,それはともかく,学生に考えさせ,発言させることに成功している授業があるということだ。最初の授業は,学生が自己の体験を開示するのが特徴だ。それだけでなく講師も自己の体験をときとして涙ながらに語るという。この授業には5年連続で参加しているリピーターや,東大生のもぐりがいたりと,相当な人気があるという。

あとの2つは,よりサンデル教授のスタイルに近い。つまり,社会的に共有された「正解」のない,きわめて論争的なテーマを掲げて,学生に議論させている。この記事で紹介されている例では,小松氏は臓器移植法案の持つ問題点を学生に発見させ,「脳死」を議論することで死について考えさせる。小林氏は,坂本龍馬の脱藩を例にとって,コミュニティと正義について考えさせている。

最後に勝間和代,浜田宏一,若田部昌澄の3氏による鼎談がある。そのなかで,サンデル教授の授業が成り立つ背景の1つとして,米国の大学の授業では一般に,膨大なリーディングリストが与えられ,それらを事前に読んでくることが前提になっていると指摘されている。なるほど・・・討論型の授業が成功するには,参加者にそれ相応の量の文献の読み込みが欠かせないというわけだ。

だが,ぼくの直面する現実はそれからほど遠い。ゼミで発表者以外は,指定の文献をほとんど読んでこない(としか思えない)。発表者でさえ,どこまできちんと読んできたのか疑いたくなるときがある。だったら,いっそのこと発表者を決めずに,全員読んできたことを前提に議論したらどうだろう?それが成立する世界は日本にもあると思うが,それがいま自分が住む世界かどうか。

本日,ぼくは前期の授業を終えた。教室を歩き回って学生に質問を投げかけたが,まだまだ中途半端だ。実務経験のない学部学生とマーケティングを議論することができるのか?もっと身近な,消費者サイドに立った議論なら可能なのか?正解のない議論を通じて洞察力が深まるような,適当なテーマがあるだろうか?どんな資料を事前に読んでもらえばいいか(それができるか)?

白熱は無理でも微熱ぐらいは起こしたいと,密かに思う。

それにしても,1,000人の受講者がいるというサンデル先生の授業で,どうやって学生の評価をしているのだろう? 多数のTAを動員するのだろうか?