Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

DM学会@早稲田大学

2010-07-03 22:40:46 | Weblog
早稲田大学で開かれた日本ダイレクト・マーケティング学会に参加した。ぼくの使命は,オプトの長谷川琢,海老根智仁両氏による「ユーザー行動データ分析を基にした画期的マーケティング手法」という発表のコメンテータをすることだ。インターネット・マーケティングの実務最先端の報告にどんなコメントができるだろうか・・・。

発表は,同社が導入したツールバーを使って,個々のユーザのウェブサイトの閲覧からオンラインショップでの購入までを記録する。そうして集めた大量のデータに対して URL のカテゴライゼーション→因子分析→クラスタリングを行なっている。一見簡単な分析に見えるが,元データのラベルづけだけでも,大変な手間がかかる。

1年以上試行錯誤して得られたユーザ類型は,実務家の目から見て妥当性が高いという。ただ,例として示された個人の履歴もまた非常に面白かった。質問紙では出てこない,タブー性の強い検索や消費の実態も赤裸々に出てくるという。こういう特質を活かして,ネット・エスノグラフィを行なうのも面白いと思った。これだけデータがあれば,「極端例」についてすら,一定規模のサンプルを確保できる。

この発表の前後に,損保ひまわり生命保険の諸吉純一氏「購買段階におけるオンラインチャネル選択の要因―民間医療保険のインターネット通販の考察を中心にして」,大阪市大院の方慧美氏「インターネットを活用した小売業態―「クリック&モルタル」に至る経緯とその後の展開」を聴いた。それぞれ若手の発表だが,既存研究のサーベイで頑張っている。

基調講演は,流通研究の重鎮・田村正紀氏。講演タイトルは「ネット通販のインパクト:その将来展望」である。停滞する日本経済のなかで,例外的に急成長を見せているネット通販を概観。独自のサーベイ調査から,簡単なマルコフ連鎖で,潜在的に今後成長しそうな分野を予測する。それによれば「趣味・園芸」の潜在成長性がダントツに高い。さらに主要な流通企業のネット通販比率と財務指標の関係が分析される。

いまなお精力的に流通の最先端を研究し続けておられるその姿は,研究者の鑑といえる。最後に田村先生は若い研究者に向けて,海外のジャーナルでの流行を追うことなく(そんなものは数年経てば,終わってしまうと),目の前にある現実をしっかり追いかけるべきだというメッセージを残された。このような精神が,神戸大学の経営学あるいはマーケティング研究に脈々と受け継がれているのかもしれない。

さて,そのあとの特別講演は,一転して笑いに包まれるものになった。ソフトバンクモバイルの蓮実一隆氏が「いまケータイに、何が起きているのか?―情報とコミュニケーションの核となるケータイ、その変化とは」について語る。蓮実氏はテレビ朝日で「ビートたけしの TV タックル」や「報道ステーション」のプロデューサを経験したあと,ソフトバンクに移り,コンテンツ開発に取り組んでいる。

冒頭,蓮実氏は「放送は回転寿司,通信はカウンター寿司」だという。ただし,いままでは回転寿司のほうが美味しいという,奇妙な世界だったと。そして,これまでのケータイ・ビジネスモデルをふんだんのユーモアで語る。ライトユーザには食欲を亢進させるこじゃれた寿司を出し,ヘビーユーザには一貫で満腹してくれそうな巨大な寿司を出す。こうしたアナロジーが楽しく,鋭く,示唆的である。

アップルとグーグルの対比も面白い。限られた製品ラインに粋をこらし,そこにコンテンツを垂直統合していくアップル。ありとあらゆるメディアを標準化し,そこを広告スペースに変えていくグーグル。そのベクトルは完全に直交していると,蓮実氏は見る。そこに,iPad が先鞭をつけたタブロイド PC が普及していく。いままでのケータイにはできなかった,新たなコンテンツの可能性が生まれてきた。

で,SB はビューンを立ち上げ,蓮実氏はその責任者になった。約30の主要雑誌の半分近い記事が月額450円で読める。これを買わないなんて考えられない,と冗談めかして語る。そして初日のサーバダウン。最近 2ch では,iPad がアクセスできなくて歯車風アイコンが回っている姿を「ビューンしている」と呼ぶ,というエピソードまでご紹介いただいた。しかし,数日前に仕切り直して再開した。

DM学会は実務家が多い学会で,現実との接点が乏しくなりがちなマーケティング研究者にとって,1つの有用なチャネルになると思う。そして,きりっとしたキャリアウーマン風美女の参加者の姿が目立つ・・・などというと,肉食系マーケティング研究者の入会が増えるかもしれない(いま一瞬,何人かのお顔が思い浮かんだ)。