Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

脳科学+哲学@明治大学(駿河台)

2010-01-28 08:30:03 | Weblog
明治大学では茂木健一郎氏を招いて「脳科学と哲学との対話」と題する連続講義が行なわれてきた。最終日となる27日,今回は時間が取れたので聴講に行く。ホストは,明治大学文学部の合田正人教授。フランス哲学の研究で有名な方である。冒頭に合田氏が,練りに練られた何とも味わい深い哲学者のことばで語る。次に茂木健一郎氏が登壇し,合田氏の問題提起に答えていく。テレビで語られる断片ではなく,深く考え抜かれた発言をじっくり聴くことができた。両者がともに尊敬の念を抱きながら,相手の胸元に直球やときには変化球を投げ込む力の入ったキャッチボールが展開される。

では,そこで何が語られ,自分として何がわかったのかというと,正直よくわからなかったというしかない。クオリアの問題,心身問題,自由意志の問題・・・ふだん自分はそのようなことを考えていないというより,考えないようにしているテーマが次々議論の俎上に上がる。スピノザ,ヴィトゲンシュタイン,フレーゲ,マッハ,デリダ,ラッセル,ドゥルーズ,ベルグソン・・・今回名前の挙がったと思われる哲学者の名前をランダムに並べてみたが,哲学を本業とする合田氏はもちろん,茂木氏もまた彼らの言説を縦横無断に論じていく。悲しいことに,その速さにぼくの凡庸な頭がついていかない。

それでも印象に残ったいくつかの発言を書いておこう。茂木氏が今回の連続講義で合田氏と対話するなかで気づいたのが,彼が取り組んできたクオリアの問題は,分析哲学の問題であること(という表現が正確かどうか自信はないが・・・)。また,アポリアを見つけることが,最も真実に近づいた瞬間ではないのか,という指摘。ただし,それは「香ばしい」(と聴こえた)アポリアでなくてはならないと。その例として,茂木氏はラッセルのパラドックス,ゲーデルの不完全性定理を挙げる。つまり「これ以上わかりません」という立ち入り禁止の札の前で,人は真実の末端に触れることができるという。

アポリアとまでいえるかどうかわからないが,経済学においてもアローの不可能性定理,アレの逆説が理論の発展を引き起こしたという歴史がある。何らかの逆説や矛盾が人間の真実を照らし,新たな研究フロンティアを用意する。トゥバスキーやカーネマンの系譜につながる行動経済学は,そういう役割を担っているはずだ。ということは,マーケティング・サイエンスなるものも,そうした普遍的な難問を抱えない限り,真の発展はあり得ないのではないか・・・。両碩学による「脳科学と哲学の対話」を聴きながら,そんなちっちぇーことを考えていたのは,ぼくぐらいかもしれない。

なお,この投稿は,この講義の真髄を少しも伝えていない。関心のある方は,もぎけんPodcast から音声ファイルをダウンロードできるので,どうぞ。