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Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

起業の「顧客開発」パラダイム

2010-01-15 22:47:22 | Weblog
2年生ゼミで『アントレプレナーの教科書』輪読を本日「ほぼ」終了。「ほぼ」というのは,ゼミ生の勘違いで一部飛ばしたのと,最後の付録は対象外としたためである。この本については前にも触れたが,「顧客開発」という視点から起業(あるいは製品開発や事業開発)のノウハウを論じたもので,類書にはないユニークさがある。学生には身近に感じられない部分もあるだろうが,ビジネスに多少とも関わったことがある人間には,なるほどと思う点が少なくないと思う。

アントレプレナーの教科書
スティーブン・G・ブランク
翔泳社

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著者のスティーブン・ブランク氏はシリコンバレーで数々の起業に関わった経験を持ち,本書にも実名での事例や体験談が次々出てくる。彼は,多くのスタートアップが優れた技術と熱い情熱を持ちながら,顧客への十分な理解がないまま突っ走って失敗するのを目撃してきた。こうした経験を踏まえ,彼は標準的な製品開発モデルに代わる(あるいはそれを補完する)「顧客開発」という新たなモデルを提案している。それは,よくある顧客志向の主張とは同じではない。

新しい技術やアイデアが生まれたとき,顧客はまだ明確に存在していない。したがって,試行錯誤を通じて顧客を探索し,対話しながら漸進的に製品・事業開発を進めるべきだと著者はいう。そのプロセスで,対象とする顧客は変わる。ターゲットが既存市場なのか新規市場なのか,その中間なのかでも変わる。ムーアの「キャズム」論を継承しながら,実体験を踏まえて発展させている。著者によれば,キャズム越えもさることながら,そこに行くまでが大変だという。

起業の教科書ではあるが,大企業の製品開発や新事業開発にも示唆するところが多い本だと思う。特にそれが,未知の市場への進出であるならば。ただし,B2B が主に念頭に置かれているので,B2C 市場での起業や新製品開発に応用する場合には,若干の修正や補足が必要になるように思われる。ぼく自身には起業経験がないので,起業家たちが「顧客開発」の考え方をどう評価するか聞いてみたい。おそらく,試行錯誤を通じてすでに体得している方が多いのではないか。