Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

食と家族の崩壊?

2008-01-05 23:15:45 | Weblog
正月に相応しい本として,岩村暢子『普通の家族がいちばん怖い 徹底調査! 破滅する日本の食卓』を読んだ。本書は,ADKが行った,延べ200世帯を対象とする,クリスマスと正月の献立調査(日記と写真)と主婦へのグループインタビューの結果に基づいている。それによれば,御節料理を自宅で作ったり,親から子へ伝承したりすることはもちろん,家族一緒に食事すること自体,なくなりつつある。一方,クリスマスはイベントとして重視され,高校生になってもサンタの存在を信じる(ふりをする?)子どもたちがいるという。だが,家族でケーキを作るにしろ,共同ではなく,個別に作ったケーキをあとで合体させたり,外で各人の好みに合わせてピースケーキを買ってきたりと,伝統的なスタイルからほど遠くなっている。

この本については,上野千鶴子氏や,松原隆一郎氏の書評がネット上に公開されている。上野氏はそのなかで「家族のミニマムの定義に『共食共同体』がある。食卓を共にする者が家族、というもの。だが、すでに現代家族は『個食』から『バラバラ食』へと変化している。ひとりずつ食事時間が違うだけでなく、食べるものも違う。食卓にカップ麺、菓子パン、パック入り総菜が並び、それをてんでの好みで選ぶ『ビュッフェ』スタイルだ。家族はもはや『同じ釜の飯』を食べる仲間ではなくなった」と述べている。また,この本の帯で「『崩食』からみた家族崩壊は二世代眼のサイクルを迎えた。家族はもはや『幻想』から『虚構』になった」と書いている。

現代日本の家族を考えるうえで,この本が非常に価値のある資料を提供していることは間違いない。ただ,気になる部分もある。インタビューに対する主婦の発言を引きながら,「・・・と当然のことのように言う」とか「臆面もなく言う」とかいった修飾が高い頻度で付け加えられている点だ。この本は「普通の家族」の食の実態に驚き,呆れ,非難するというトーンで一貫している。この調査に(当然謝礼はもらいつつも)協力した主婦たちは,自分に対する描写を知ったとき,どのように感じるだろうか? マーケティングリサーチでは,最初に「皆様の生活の実態や欲求を探り,製品開発や広告づくりに役立てたい」などと断ることが多い。それが建前だとしても,対象者の発言を批評の対象とするようなことはしない。

現在50代以上の人々が幼少期に体験したような家族のあり方を,いまの時代に求めることには無理がある。当時は正月には大半のお店や食堂が閉まり,インスタント食品は出始めの頃だった。それ以外にも,家族を取り巻く環境の変化はあまりに大きい。当時を「標準」と考えれば,いまは異常な時代ということになるが,当時もまた,上の世代(の一部)から伝統を破壊していると非難されてはいなかったか。家族のあり様は,時代とともに変化する。80年代に小此木啓吾氏は,互いにバラバラのまま,緩く結びついた家族像を描いている(ホテル家族)。「家族のミニマムの定義」として,共食よりもよりも本質的で,持続する機能があるのではないか。昔を懐かしむだけで終わらない議論が必要だと思う。