クリエイティブ・マーケティング論の大前提の一つは,消費者は,それを意識しているかどうかに関わらず,消費にクリエイティビティを求めている,というものだ。なぜ iPod がここまで支持を受け,iPhone が待望されるのかは,クリエイティビティ欲求なるもので,説明されると。だが,それだけでは何もいっていないに等しい。
博多で買って年末に読んだ『イノベーションの神話』は,イノベーションに関する過去の研究を幅広くサーベイしながら,「誤った」通説=神話として,以下の点をあげている:
私たちはイノベーションの歴史を理解している
イノベーションを生み出す方法が存在する
人は新しいアイデアを好む
たった一人の発案者
優れたアイデアは見つけづらい
上司はイノベーションについてあなたより詳しい
最も優れたアイデアが生き残る
解決策こそが重要である
イノベーションは常に良いものをもたらす
このなかで,マーケティングにとって重要な「神話」は,「人は新しいアイデアを好む」というやつだろう。こんなに画期的なアイデアがなぜ受け入れられないのか・・・と嘆く発明家や起業家はこれまで数多くいたに違いない。新しいだけではダメ・・・という命題に照らして,開発された製品・サービスのクリエイティビティが,消費者にとってどういう意味を持つかを考える必要がある。
そのためには,消費者へのデプスインタビューを繰り返す必要があるかもしれない。もちろん,消費者が自分の行動を解釈して発することばを,すべて信頼するわけにはいかない。無意識の心理学が示すように,跡づけの理屈が多分に含まれるだろう。だが,それも含めて,たとえば初期の段階で iPod を買った消費者から,オーラルヒストリーを聞く価値はある。
ふつうの消費者であれば,選択の基準として,クリエイティビティなどという概念を意識しているとは考えにくい。ただ,カッコいい,デザインが傑出している,カワイイ,何だか知らないけどスゴイ,といったことばで,選択の理由を語るだけだろう。だが,その深層を突き詰めていくと,クリエイティビティとしかいいようがない概念が浮かび上がるのではないか・・・と期待している。