Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

Creative Marketing 元年

2008-01-02 23:25:12 | Weblog
今年は,クリエイティブ・マーケティングの体系を考える最初の年になる。クリエイティブ・マーケティングとは,いうまでもなく,マーケティング業界で定着した概念ではない。クリエイティブということばから,コンテンツやアートを扱うマーケティング,あるいは画期的な手法を用いるマーケティングが思い浮かぶかもしれない。ぼく自身はより一般的に,創造的な新製品やサービス,新事業をサポートするマーケティングだと定義したい。

マーケティング・サイエンスは,そうしたクリエイティブ・マーケティングを扱うことができるのだろうか。その候補といえるのが,新製品の市場規模の推移を占う普及モデルの研究である。最近は,そこに消費者間ネットワークを組み込んだ研究が急速に拡大している。したがって普及モデルは,クリエイティブ・マーケティングの重要な構成要素になるが,その役割は限定的だと思われる。なぜなら,それはあまりに俯瞰的で,新しいアイデアの創出そのものに肉薄していないからだ。

アイデア創出は,マーケティング・サイエンスをベースとする新製品開発の教科書(e.g., Urban and Hauser)でも言及されているが,よく知られた発想法が羅列されている程度である。アイデア創出は科学的アプローチの外側にある,というのが従来の通念だった。しかし,最近になって,アイデア創出に関する科学的研究が進展している。また,マーケターの思考と行動を研究対象とするという意味では,R&Dに関する組織論の研究に学ぶ点も多いはずだ。

組織論の研究では,創出されたアイデアが具体的な製品・サービス,さらには事業システムにどのように転換されるかに関心が持たれているようにみえる。マーケティングにとっては,それらが消費者にどう受容されるかが重要である。革新的な製品・サービスであるほど,消費者の知識は不完全になり,複雑性と不確実性に直面する。そこで消費者がいかに選好を形成していくのか…それを理論化することが,最大の課題となる。

この最後の部分は,自分の元来の関心,博士論文でのテーマである。そこに,クリエイティブ・マーケティングということばを咬ませることで,理論上の関心と実務上の関心が結びつくかもしれない。下手すれば,陳腐な宣伝文句に終わりそうな概念だが,潜在的な可能性は大きいと思う。現状はいろいろな思いつきだけで,体系をなしていない。だが,多少の偶然もあって,ここ数年の取り組みのベクトルを揃える契機が生まれたという思いがある。ともかく,今年はすでに始まった。