米国はともかく、日本における「EPIC レーベル」は嫌いなレーベルであった。とにかく
所属するバンドやアーティストのほとんどに興味が無かったのだが、数少ない例外が佐野元春と
エレファントカシマシであった。CDを販売する仕事をしていた時期は、それでも頑張って顔に出さない
ようにしていたのだが、仕事が終わってバイト連中を引き連れて飯を食べに行く車中で遂に
言ってしまった。「くだらねぇCDだ」と。
バイトの一人がヒット曲だかプッシュ曲だかしらないが、エピック所属ミュージシャンを集めたお手軽な
コンピCDを車中でかけたのだが、流れて来る曲のどれもこれもが気に障る。飯屋への往復の道中で
40分ほどCDを聴いたのだが、そのCDに対して先のような言葉を言ってしまったのだ。
「それでも1曲だけ良い曲があったな。」
「えっ、それは何ですか。」
「『おはよう こんにちは』だな。」
「え~、本当ですか。あの曲は飛ばそうと思っていたんですよ。」
最初に彼らを聴いた時、直ぐにエレファントカシマシが、当時のどのバンドとも違った立ち位置にいて、
真実のみを誠実に正直に歌っていると了解した。ロック・バンドだからといって
ファンに表面上優しく接したりニコニコ笑う必要なんて、これっぽっちもないのだ。バンド・ブームとやらの
気持ち悪い風潮の中で彼らは特異であったが、それこそがロックだった。
すぐに気分の波が変わるように表情が変わる宮本浩次の、気まぐれにつきあうメンバーの信頼感というか
宮本を信じる姿勢というのも、なんとなく素敵に思えた。
掲載写真はエレファントカシマシがエピックに在籍した時期の映像を集めたDVD。収録時間は150分
近くあるのだが、その2/3近くを私は過去に見たことがあった。エピックも「eZ」も嫌いだったのに、それだけ
見ていたのは自分でも意外だった。
何の装飾も無くステージの全てが剥き出しの88年渋谷公会堂の『ファイティングマン』、パイプ椅子に座って
歌うも前のめりになりすぎて椅子が倒れて、途中から立って歌う89年の『珍奇男』、渋谷PARCO前の
スクランブル交差点に突っ立った4人を延々映した『男は行く』。テレビの公開録画で客を凍りつかせた
93年の『奴隷天国』、たまたま千葉テレビを見ていたら流れてきた、アルバム「東京の空」のダイジェスト・
プロモ。全てが懐かしく、今でもリアルだ。
このDVDに収録された映像で一番好きなのは、EPIC最後期の94年9月15日の日比谷野音の映像。
粗い画質とラフなカット。ここに捉えられたのはたった5曲だが、この映像からはロック・バンドである必然と
格好良さ、そして彼らが持ち続ける自由と優しさを感じる。当時のアルバム「東京の空」のタイトル曲に
参加した近藤等則が同曲でのゲスト参加で聞かせるトランペットは鳥肌もの。最後の『ファイティングマン』を
演奏中に宮本めがけて乱入してきた男を、ギターの石森がショルダー・タックルで追い払うシーンも
今となっては伝説だろう。
おはよう こんにちは さようなら。言葉じり合わせ 日がくれた。
私は死ぬまで、こんな人生を送るのだろう。それが私のロックンロール。
最近は、言葉尻を合わすのさえ億劫に思えてきたが。(笑)
宮本浩次には、ずっと「あいつら」の化けの皮を剥がし続けてほしい。
折角のロックンロールバンドなのだから。