日本のミュージシャン主体の数あるトリビュート盤の中で、個人的にもっとも「愛」を
感じるのが96年に出たモット・ザ・フープル・トリビュート「MOTH POET HOTEL」
である。後期メンバーだったモーガン・フィッシャーの肝いりプロジェクトなので
手を抜くヤツなんかいるわけないのだが、それを抜きにしても参加した皆が楽しそうに
歌い演奏し或いは独自の日本語詩を載せているのが面白い。
ミック・ロンスンの70年代の2枚のアルバムが最初に国内CD化された時に、思い入れ
たっぷりのコメントを寄せた吉井和哉の日本語詩が冴えるのが『HONALOOCHIE
BOOGIE』。語りの部分にも原曲とかけはなれた語りを入れるのだが、これが最高で
モットが持つ煌びやかなのに何だか寂しい感じがよく表れている。
「社会のルールよすいません いつかロックン・ロールで返します」
この一行だけで私は泣けてしまった、と遠い目になる。(笑)
このトリビュート盤に収録された曲中、『I WISH YOU WERE MOTHER』『THE
GOLDEN AGE OF ROCK AND ROLL』『BALLAD OF THE MOTT THE HOOPLE』が
日本語で歌われるのだが、中でも『BALLAD OF THE MOTT THE HOOPLE』が
カバーされたというのが個人的には驚きだった。バンドにとって余りにもパーソナルな
内容の歌詞だけに、この曲のカバーなんて有り得ないと思っていたのだ。しかし、
山口洋が日本語で歌うこの曲を聴くと、これもまたモット独特のウェットな感覚が
心の中に拡がり、「ああ、俺はモットのファンで良かったなぁ。」と思うのだ。
モーガン・フィッシャーのオリジナル『MOTH POET HOTEL』は高らかなモット賛歌。
メンバーの名前はもとより、プロデューサーのガイ・スティーヴンスの名前も歌いこまれる。
「ミック(ミック・ロンスン、93年逝去)は何処にいる?、ガイ(81年逝去)はどうした?」と
歌われるのが泣かせる。もっとも、私たちはここでモーガンが宣言したように、「親父は
77で死んだけど、俺は100までやるぜ」を実践すべきだろう。
えっ、何をやるのかって?。そりゃあ、『ALL THE YOUNG DUDES』を歌うことに
決まっている。
洋楽ファン(笑)の琴線を擽るのがブライアン・メイの演奏する『ALL THE WAY FROM
MEMPHIS』だろう。かつて自身が作ったクイーンの『NOW I'M HERE』にフープルの名前を
忍び込ませた男である。クレジットではドラムス(コージー・パウエル)とバック・コーラス以外は
全て自身の演奏となっている。念の入ったことに「語り」の部分でイアン・ハンターが参加しているの
のも聴き逃せない。
アルバムの最後にフランク・ザッパの映画「BABY SNAKES」の中でザッパが言った一言が
収録されているのが個人的には嬉しかった。これは『DISCO BOY』のリハーサル中に
テリー・ボッジオにザッパがいろいろと指示している場面の出来事で、ザッパはこう言った。
「モット・ザ・フープルばりの見せ場だぞ。」
ああ、誰か格好いい『ROLL AWAY THE STONE』のカバーをやってくれないかなぁ。(笑)