ロニー・スペクターという名前から想起するのは、まずはロネッツである。これは多分大筋の人が
そうだろう。レコード収集家の興味の対象からいくと、当然フィレスのコレクター、そしてアップルでも
シングルを出しているので、アップル・レーベルのコレクターの収集対象になる。
実は私が興味があるのは、それ以降だったりする。
掲載写真はロニー・スペクターが77年にE.ストリート・バンドをバックに吹き込んだ、『SAY GOODBYE
TO HOLLYWOOD』。オリジナルは勿論ビリー・ジョエルで、ビリーの録音は76年の「TURNSTILES
(ニューヨーク物語)」に収録。ビリーはフィル・スペクターへのオマージュとしてこの曲をつくったのだが、
果たして当時の日本で、どれくらいの人がこのことに関心を持ったのだろう。
ビリーの名前が全世界的に知られるのは翌年の「THE STRANGER」以降だろうし、我々の年代が
『SAY GOODBYE TO HOLLYWOOD』の魅力に気付いたのは、81年のライブ盤「SONGS IN THE
ATTIC』からシングル・カットされた盤を聴いてから以降というのが、大多数だと思うから。
明らかにロネッツの曲を下敷きにした部分があるこのオマージュに、いち早く応えたロニーというのは
それだけだと何となく美しい話のようにも思えるが、当時停滞していた自身を浮上させると言う計算も
あったのだと思う。ただ、グレイトなのはバックをE.ストリート・バンドが担当したということだ。
こちらは76年11月14日、パラディアム・シアターでの
ブルース・スプリングスティーンのライブを収録したブートレグ。ここでロニーはゲストで参加し「BABY I
LOVE YOU」「WALKING IN THE RAIN」「BE MY BABY」をボス達をバックに歌っている。
スプリングスティーンがロニーのファンであったこと、ライブで共演した実績があることが、このシングルに
結びついたということは重要だ。ビリーが、「そんなことなら、俺が演りたかった」と思ったとしても
不思議ではない、楽しい出来に仕上がったシングルで冒頭から鳴り響くクラレンスのサックスが、
殊更印象的だ。
件のシングルは現行CDだと、95年にリリースされた「DANGEROUS」(掲載写真左)で聴くことができる。
サウスサイド・ジョニー&ジ・アズベリー・ジュークスと録音した『YOU MEAN SO MUCH TO ME』も
格好良い。
ロック者の溜飲を下げたのが、掲載写真右の「THE LAST OF THE ROCK STARS」。06年発表の
このアルバムでは新旧のカバー曲をとりあげているのだが、アイク&ティナ・ターナーやジョニー・サンダースの
曲を取り上げたのが目を惹く。録音の年代が明記されていないのだが、生前のジョーイ・ラモーンや、
パティ・スミスがボーカルで参加している。キース・リチャーズさんは2曲でギターを弾いていて
更に特筆すべきは、アイク&ティナ・ターナーの『WORK OUT FINE』で、キースさんはアイク・ターナーに
なりきってオリジナル通りにロニーと掛け合いの喋りを聞かせるところか。
フィレスやアップルのコレクターがスルーするであろう、このアルバムが心あるロック者の耳に届きますように。