中森明菜が86年にアルバム「クリムゾン」をリリースした時、ミュージック・マガジン周辺で
やたらと評価が高かったように記憶する。当時の私は「他に聴かないかんレコードが
山ほどあるのに、アイドルのレコードを取り上げてどうしろってんだ。」なんて思ったものだ。
ま、基本スタンスは今でもそうなのだが、最近は軸のブレも甚だしい。
後にその「クリムゾン」も聴いたのだが(ハイ、CD買いました。)気に入ったのは、カップや
タイプライター、煙草に火を点ける音といった生活ノイズと明菜の声を上手くミックスした
『ミック・ジャガーに微笑みを』くらいで、後はほとんど気に入らなかった。
いや、別に私がストーンズ・ファンだからそれだけを贔屓にしているというわけじゃないのだけど。
明菜の盤で好きなのは、「クリムゾン」の前年にリリースされた「D404ME」だ。
架空の倉庫の番号がアルバム・タイトルになったとのことだが、この盤は倉庫に格納された
様々な宝物をひとつづつ探り当てる楽しみがある。つまり、作家陣が多彩であるのが
面白いというところだ。
とかなんとか書いていながら、この盤を手にとるきっかけになったのは忌野清志郎と小林和生の
RCサクセションの二人が曲を提供した『STAR PILOT』を聴いてみたいというのが最大の
理由であったのは本当のところだ。
私の時間軸で言うと85年11月にリリースされたRCサクセションのアルバム「ハートの
エース」はリアル・タイムで買ってそこで『SKY PILOT』という曲を聴くのだが、明菜が『STAR
PILOT』なる歌を歌っているのはかなり後になって知った。そりゃ、そうだ。当時は「他に
聴かないかんレコードが山ほどあった」のだから。(笑)
『STAR PILOT』の歌詞はちあき哲也によって書かれ、RCの二人は作曲を担当し
明菜のアルバム「D404ME」に収録されて85年8月にリリースされた。それにしても、
まさかその数か月後に歌詞を全面書き直しのうえRCサクセションの楽曲として世に出るとは
明菜も明菜のスタッフも思わなかっただろう。書き直された歌詞はあからさまにセックスを
想起させる内容だったのだから。
それはともかく、本当に楽しくも優れた楽曲が多いアルバムだと思う。曲を提供した
ミュージシャンのオリジナル・アルバムやシングルをほとんど聴いていないのが実情だが
ここでの仕事に関しては個人的に認めざるを得ない。
そして今更のように明菜のシングルで一番好きだったのが『ミ・アモーレ』だったことを
思い起こすのであった。つまり、私には全てがおあつらえ向きのアルバムだったという
わけである。
今年になって明菜の「旅ソング」ばかり集めたアルバムが編まれたが、一つ所にとどまることを
良しとしなかったアイドルの在り方が、偶然にもこんな処に反映されていたかと思うと
それも面白いと思う春ウーララ。こればっかり。(笑)