ぴか の観劇(芸術鑑賞)日記

宝塚から始まった観劇人生。ミュージカル、ストレートプレイ、歌舞伎、映画やTVドラマ等も書きます。

05/11/27 東宝『マイ・フェア・レディ』、予想以上によかった

2005-12-04 14:29:47 | 観劇
帝劇で千穐楽の前の晩に『マイ・フェア・レディ』を観劇。日本で初めて上演された海外ミュージカルで、大地真央イライザになってからも15周年ということだが、私は今回がまったくの初見。席は3階B席の最前列娘と観てきた。
ストーリーはよく知られた話だし、省略。
それにしても今回けっこう気にして観たのは、イライザの訛り。元々は「A」が「エイ」でなく「アイ」になってしまうというのと「H」が発音できないフランス人のような訛りという2点をチェック。今回の台本ではどのようにするのだろうと思って聴いていた。「H」は♪「あなのパリ」とか「あったかいえやでさ」♪、「みてろよ、エンリー・イギンズ」♪などなどまずまず。「エイ」→「アイ」は「エイ」←→「アイ」になっていた。ピッカリングを「たいしょう=大将」ではなく「ていしょう」と呼ぶなどまあ、日本語への翻案の苦心が偲ばれた。
装置は21世紀バージョンになった際に一新されたそうだが、階段を使った抽象的なもの。昨年の『SHIROH』といい、階段で上下の差を出したり、左右に割って場面転換するなど、今の流行かもしれないなんて思ってしまった。

以下、キャストについての感想を中心に書く。
★大地真央=イライザ
代表作というだけあって、自由自在。花売り娘時代の元気だが貧しい育ちがにじみ出る言葉使い・態度も楽しそうに活き活きと演じていて観ていて気持ちがいい。向上意識をきちんともった花売り娘だというところをきちんと出したいというご本人の解釈で顔は汚していないという。ヒギンズに標準語?を習いにきた時の彼女のプライドを持った態度もいい。だからこそピッカリングは彼女に好感を持って応援者になる気になるだろうという自然な流れができている。
彼女の一番の気がかりは歌だったのだが、今回は感心した。高音域になるとひっくりかえって不安定になることがけっこうあったのにバッチリ決まった!さらに歌の中で出てくる王様の低音域もきかせてくれる。やはり完璧主義者にふさわしくヴォイストレーニングを積んでいるようで見直した。この役はしばらく誰にも渡さないだろうな。確かにこんなに猥雑→上品までの広い演技の幅を活き活きと魅力的に演じ、歌えるミュージカル女優は今なかなかいないだろう。
アスコット競馬で上品に登場し、馬の走る姿に馬脚をあらわす場面の魅力的なこと!これにはフレディが惚れるのも無理はない。
上流社会のレディとしての修行の中で自我に目覚め、花売り娘扱いを続けるヒギンズに怒りをぶつけ、彼の母も味方につけてしまうほどの人間的魅力も備えていくところも説得力のある演技に満足。
映画版で違和感を感じたラストの「イライザ、僕のスリッパはどこ?」の場面、ハタと合点がいってしまった。ヒギンズは嬉し泣きをしているのでは?それくらい彼女が戻ってきたのが嬉しいのに彼は帽子で顔を隠して素直に気持ちを表わさないのではないか?と、勝手に解釈してしまったのだ。それくらいふたりの心は深く結びついていたという雰囲気が3階のB席まで伝わってきた。この雰囲気を出すためにはかなりふたりの息が合っていないとダメだと思うが、ラク前でもあり十分合格という感じだった。

★ヒギンズ=石井一孝
彼のヒギンズがどうかというのが今回の一番の関心事だったが、予想以上に良かった。女嫌いの変人ぶりを熱演していた。彼の女嫌いは不幸にも魅力を感じる女に出会わなかっただけなのに勝手に独身主義者になっていたのだ。自我に目覚めて気持ちをぶつけてきたイライザには魅力を感じ「好きだ」と告白するのだが、いかんせん、それまでの態度が悪すぎて捨てられかける。ここで初めて「おかあさ~ん」とプライドも捨てた混乱をみせ、最後は上記のような場面。石井一孝の熱演があってこそ嬉し泣きの照れ隠しという解釈が成り立ったのだ。まだまだ肩に力の入った演技なのでもう少し大人の男の余裕みたいなものが出てくるといい。次回を期待する。

★ピッカリング=羽場裕一
昨年初めて彼の舞台を『燃えよ剣』と『マリー・アントワネット』で観た。特に後者に感心した。彼のルイ16世の温かい演技によって大地真央のアントワネットもより人間らしさが出てきていた。今回のキャスティングもその延長線で納得がいっていた。ミュージカル初出演らしいが、やはり耳がいい人は歌も音程をはずさない。ちょっとだけ一人で歌う場面も合格!
大地真央と石井一孝、羽場裕一という過去の舞台の共演で醸成された信頼関係の上に展開されたやりとりが気持ちよかった。
★ドゥーリトル(イライザの父)=上條恒彦
上條節健在!『ラ・マンチャの男』の牢名主が一番立派だった印象。昨年の『十二夜』のマルヴォーリオはちょっと可哀想だった(笑)。♪「運がよけりゃ」♪を治田敦・安崎求とともに歌う場面は最高。

★フレディ=浦井健治
予想に反したのが彼だった。「君住む街」を甘い声で歌うのもなかなか魅力的。ところがとにかく若く爽やかでいて欲しかったのだが、双眼鏡で見るとあのルドルフと同一人物と思えないほど丸いお顔になっていた。今回メイクがかなり違うという噂だったのだがメイクのせいだけとは思われない。疲れてむくんでしまったのかストレス太りか...。とにかく二枚目はすっきり顔でいてね(自分のことは棚にあげるのだ)。
★★他に、ヒギンズ夫人の草村礼子、女中頭ピアス夫人の春風ひとみ、カーパシーの藤木孝と、芸達者たちが揃っていたのも嬉しい限り。そしてトランシルバニア女王役で伝説の春日野八千代の相手役だった月丘夢路の姿を舞台で観ることができたというのもありがたい。

プログラムには過去の上演年譜と上演写真録がついていたのも嬉しかった。ヘプバーンの映画がつくられるよりも前、ブロードウェー初演から7年後の1963年に日本で初演されたという。過去の舞台写真を見ながらご贔屓の宝田明のヒギンズが見てみたかったなあと思った。ただし、誤植もいくつか見つかったので東宝さんのHPのメールあて先にお知らせした。先日きちんとお詫びのお返事がきたが、私のようなオタクには資料としてもあとから何回も見るので間違って記憶することがあるのだからそういう緊張感をもってつくって欲しいと思う。

クンツェ&リーヴァイによる新作『M・A』を日本で世界初演する時代がきてしまった。日本でミュージカルがこんなに受け入れられるとは『マイ・フェア・レディ』初演の頃には誰も思わなかったのではないか。この私もミュージカルから歌舞伎まで観劇するようになるとは思わなかったし。時代は変化していく。個人も変化していく。恵まれた人たちだけが幸せになれる社会にだけは向かって欲しくない。
イライザが元のゴヴェント・ガーデンの仲間のところに自分の居場所がないことがわかった場面はちょっとせつなかったな。

写真は東宝のHPからの舞台写真。アスコット競馬の場面。この場面全員の衣裳が素敵。
DVDで予習した時の記事はこちら

05/11/29 松竹110周年祭で『天守物語』観ました

2005-12-01 23:54:44 | 映画(映画館、DVD、TVを含む)
シネスイッチ銀座で11/19~12/16「松竹110周年祭」のシリーズ上映をやっている。詳細はこちら
その中で絶対観ようと決めていたのが『天守物語』である。歌舞伎座でもらってきた宣伝チラシの中の物語の説明はちょっと間違っているようなので、下記の方を参照していただきたい。
goo映画での「天守物語」解説はこちら解説部分を引用すると以下の通り。
天守に住む魔性の女と一人の若侍の恋の顛末を描いたファンタスティック時代劇。原作は泉鏡花の同名戯曲。監督はこれが監督3作目になる坂東玉三郎で、舞台でも何度となく演じた富姫役で主演もこなしている。共演は94年の舞台版にも出演の宍戸開と宮沢りえ。殆ど天守のセットの中で物語が展開する。松竹創業100周年記念作品。

ストーリーはざっと以下の通り。
姫路城の天守には伝説の獅子頭とその不思議な力で生きる魔性の女たちが住んでいた。その主人が富姫。妹で会津城に住む亀姫が久しぶりに遊びにきた。その姉妹の情愛をまず描く。富姫は妹の土産に城主・武田播磨守の一番大事にしている鷹をとって持たせてやるが、その鷹をそらした責をとわれ探しに天守にまで登ってきた侍・姫川図書之助に好意を抱き、帰したくなくなる。お互いに一目ぼれなのに城主に忠誠を誓っている図書之介は下界に返してほしいと請う。いったんは帰すが、天守にまで登った証にと持たせた家宝の兜で逆に盗みを働いたと疑われ、死罪とされてしまう。図書之介はどうせ殺されるなら姫君に命をとってもらいたいと再び天守に上がってくる。富姫は彼を獅子頭の母衣に隠し、追っ手の人間には姿を見えなくするが、獅子頭の目を槍でつかれ、天守の住人たちはみな目が見えなくなってしまう。亀姫が土産に持ってきた会津城主の生首を投げて追っ手を撃退するが、途方にくれる富姫と図書之介。しかしそこに獅子頭を彫った近江之丞桃六が突如として現れ、獅子の眼を彫り直すと...みなの目が開く。そしてハッピーエンド。

亀姫の宮沢りえがやけに可愛い。今から10年前だものね。目のあたりの表情もあどけない。それからすると今はだいぶ大人の表情になっているなと思う。富姫は獅子頭のような男がいないかと思っているところに獅子頭に面差しが似た図書之助が現れて爽やかな人柄ともども惚れるのだが、宍戸開の大きな目は獅子頭の大きな目にそっくり。これはなかなかのキャスティングかもしれないと思う。
亀姫の道中の先触れが朱の盤坊で市川左団次。赤っ面がよく似合う。天守の腰元たちと戯れるのもなんか女好きっぽいのがハマリ役。腰元の頭である薄に南美江もなかなかに可愛らしい老女でいい感じ。2代前の城主に團蔵、追っ手の頭に弥十郎という味なキャスティングもなかなかいい。
亀姫の乳母?の舌長姥は誰が演っているのかと思ってみていたが、エンドロールで玉三郎とわかってちょっと驚く。そうか富姫との二役で評判になっていたのだっけとうっすら記憶が蘇る。徹底的にむさい婆姿に変身してこそ本役との差が際立つのかも。
獅子頭を掘った工人役で島田正吾が出てきたが、あったかい感じでとってもよかった。ファンタジーをしめくくるのにぴったりだった。

さて富姫の玉三郎...、う、美しい~。じっと見入ってしまった。別にスクリーンに穴があくわけではないが、こちらがドライアイになってしまいそうな感じ。さすがに10年前だ。映画のアップでも十分耐えうる美しさ!!ちゃんと時期を選んで撮影したものだ。 松竹創業100周年記念作品というのもなんかすごすぎる。

このシリーズ上映とともにビデオやDVDも発売しているが、なんとこの『天守物語』だけ値段も破格だった。ほとんどの作品が3990円なのに、これだけは15750円だって!でも買う人は買うんだろうな。でも、これ2本分で勘三郎箱が買えたよ(2割引の時だけど)。

写真は「松竹110周年祭」のチラシの写真を携帯のカメラで撮影。