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「片岡仁左衛門一世一代にて相勤め申し候」が外題の後につく特別の公演。少しずつ書き足している間に案の定長くなってしまったので、斜め読みでも時間のある時にでもお好きな読み方でお願いしますm(_ _)m
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【女殺油地獄(おんなごろしあぶらのじごく)】近松門左衛門 作
公式サイトよりあらすじと今回の配役を以下に引用、加筆。
「河内屋の放蕩息子与兵衛(仁左衛門)は、馴染みの芸者小菊(秀太郎)の客に喧嘩を売ろうと、善兵衛(右之助)や弥五郎(市蔵)と共に待ち構えている。
豊嶋屋のお吉(孝太郎)が娘のお光(千之助)とその場に居合わせ、与兵衛に意見するが、やがて喧嘩が始まり、与兵衛の投げた泥玉が馬上の侍・小栗八弥(新悟)に当り、供についていた与兵衛の叔父山本森右衛門(彌十郎)は、甥を成敗しようとする。これを参内前に流血は不吉と八弥が止め、叔父に後から討たれると与兵衛は震え上がっている。お吉は茶店で与兵衛の衣服の乱れを直してやるが、夫の七左衛門(梅玉)が追いついて来て、妻の振舞いを知ってたしなめる。
その後、与兵衛の行状が継父の徳兵衛(歌六)や兄の太兵衛(友右衛門)にも知られてしまいます。しかし当の与兵衛は妹のおかち(梅枝)を利用しての悪巧みを思い付き(妹に亡夫の霊が取り付いて与兵衛に家を継がせるように言わせる狂言をうたせる)、これが失敗に終わるとその腹いせに継父と妹を足蹴にする。そこへ母のおさわ(秀太郎)が現われて与兵衛を天秤棒で打ちすえて勘当を言い渡す。そこでついに継父も与兵衛を打擲して意見をする。与兵衛はついに家を飛び出していく。
その日の夜、借金返済の刻限が迫る与兵衛は、お吉を頼ろうと豊嶋屋にやってくると、綿屋小兵衛に遭遇し返済をたたみかけられ、偽判も明らかになると脅される。途方にくれるところに徳兵衛が豊嶋屋にきて...。
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序幕の徳庵堤のところに悪友たちとともに登場する場面、仁左衛門は無分別の若者・与兵衛そのもの。芸者小菊に入れあげていての喧嘩騒動だが、小菊は自分に惚れていると勝手に思い込んでいて、いいようにあしらわれているのに気づいていない愚かさ。「自分はけっこうカッコイイ商家のぼん」で男が立つとか立たないとかが一番大事と思っているらしい。顔もカッコもいいがあきれた阿呆野郎だ。
隣家のよしみで豊嶋屋お吉が世話を焼いてやるが、孝太郎はしっかり者の商家の女房の風情が出ていてよかった。父の仁左衛門の与兵衛よりちゃんと年上に見えたから本人の努力の成果だろう。千之助の娘お光も素直で愛らしい。梅玉の豊嶋屋七左衛門は娘の言葉で誤解して妻の浮気と思い込んであわてるところが可愛く笑えた。その夫の姿にお吉の魅力が増す。
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2幕目の河内屋内の場では、白稲荷法印とのやりとりのチャリ場は文楽より抑え目。偽狂言がバレての家庭内暴力シーンとなる。なぜここまで与兵衛が家の中でいばるようになってしまったのかと思いながら観ていくと、やりとりの中で複雑な家族関係があったことがわかってくる。それにしてもいろいろな嘘がバレて異父妹や継父、実母に心からの意見をされてもまともに耳を傾けず、腹ばいになって算盤をはじきながら借金返済の算段を上の空でしている与兵衛の極楽とんぼさ!ここまでくると漫画的デフォルメを感じる。
主人公与兵衛のお馬鹿度最高潮であきれながらも可愛く見えてきてしまうのは仁左衛門だからだろうか(^^ゞ
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3幕目の豊嶋屋油店の場。与兵衛が花道の出は夢遊病のようだという。過去の舞台写真をポスターにしている場面がそうだが、残念ながら私の席からは見えない。七三で止まり、せっぱつまって拗ねたような表情で客席の方に目をやるあたりはしっかりチェック!自分が悪いのに拗ねてる表情に陰のある男の魅力も感じさせてしまう仁左衛門。私には最初で最後のナマの観劇なのでしっかり目に焼き付ける。やはり役者の魅力で見せるのが歌舞伎ということになってくる。
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豊嶋屋のお吉の人柄を見込んで、継父徳兵衛と母おさわが続けてやってきて内緒で与兵衛にやる金を預けて他人様から意見をしてやって欲しいという頼みごと。秀太郎のおさわは初役だというが、この兄のおさわで仁左衛門一世一代の舞台に一緒に立つというのも観ている方の感慨も深い。歌六の徳兵衛ともども老いた親たちの子どもへの深い情けの芝居は胸をゆさぶる。
それを立ち聞きしていた与兵衛は二人が帰っていった後、お吉に救いを求めるが、さすがに与兵衛でも神妙になって改心を誓う。お吉は二人から預かったお金を渡す
が、借金の支払いにあと弐百が足りない。その分を貸して欲しいと、持ってきた脇差を覚悟の自害用に持っていると必死に頼み込み、お吉も心を揺らす。ところが夫への気兼ねから土壇場で思いとどまる。徳庵堤の一件が不義の疑いを招いたというのだ。
その「不義」という言葉に閃いて、与兵衛の目に宿る妖しい光!「不義になっても貸してくだされ~」このお吉だったらそういう仲になってもいいし、若くてカッコイイ自分ならまぁ落せるだろうという自信があるようなニヤケた表情。うまい、うますぎるぞ仁左衛門!!
ところがお吉は落ちない。必死に頭をめぐらせて与兵衛はハッと思いつく。その一瞬の表情もチェック。そしてあきらめたと見せて芝居をうつ。持ってきた油の二升桶に油を分けて欲しいと頼み、お吉が快く作業を始める。店先に与兵衛が背後でかざす刃の光が闇に映え、それで殺意に気がつくお吉。とがめだてをして騒ぎ出し、外に逃げるところを後ろからまず刺されてしまう。
そこから手負いのお吉を殺すまでが外題となった油地獄の殺し場。店の大きな油桶を倒しながら与兵衛を防ぐお吉。照明に反射するようにふのりに油を何種類か混ぜてつくるらしく、仁左衛門が油の混ぜ具合まで天候によって変えているという。その効果満天で二人が逃げつ追いつの中で転んで油まみれになり、衣裳も肌も床も妖しく光る。
与兵衛はとにかく殺してでも金をとる気になって一線を越えたのに、手負いの意外な抵抗に驚き、なかなか死なないので早く止めを刺したいとあせる。お吉は乳飲み子も含めた子どもたちがいるので今死ねないという生への強い執着心を身体中から立ち上らせての抵抗。与兵衛はそんなことは知っちゃいねえという気で追い詰めるうちにハイになってくる。鼠をなぶる猫になっている与兵衛。帯が解け、踏みしめながらお吉に迫る仁左衛門の正気の世界からあっちへいっちゃっている笑顔がまた実に絵になっている。さらに追い詰めたぞという狂気の目で上で極まり、下でお吉の孝太郎の海老反り。殺し場の美学の究極のような場面も目に焼き付ける。
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お吉に止めを刺すとゆっくりと海老反りからくずおれる。女方の死に方の基本。与兵衛はこっちの世界に意識が戻っても脇差から手が離れず、ようやく指を開いて離し、鞘に収めるにも反対の指との必死の共同作業。異常な興奮から身体が解放されていない。このあたりの手順も再演を重ねるうちに身体にしみこんでいるというような感じ。
お吉の亡骸から鍵をとり、引き出しから出した金も加え、親たちの金と一緒に懐にねじ込む与兵衛。穴銭に紐を通しての金の束をいくつもねじこむのだが、私が観た日は懐から一本が床に落ちてしまい、流れの中でそのままにしていた。まぁ、大目に盗んでいるから借金には足りるだろう(^^ゞとにかく誰にも見つからないように逃げ延びなければとびくついている。
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大体、伯父に首を斬られると言われただけで腰をぬかさんばかりだった与兵衛だ。こんな大それたことをやってすぐに立ち直れない小心者なのだ。早く逃げたくても足はもつれ、身体全体がぎくしゃくしてしまっている。全身でその動揺ぶりも見せ場にしての最後の花道の引っ込みだ。花道に入るところまでもたっぷり見せて、しっかり極まってみせて、3階席の視野からはさようならだ。視界に入る観客の拍手と溜息を聞きながら、余韻にひたるのみ・・・・・・。
一世一代の舞台、NHKのオンエアで最後まで観ることができることを期待である。
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筋書に廓正子さんの「時分の花から一世一代まで 孝夫から仁左衛門の河内屋与兵衛」という文章がある。「仁左衛門歌舞伎」で観た初演からのことを書いている。仕事冥利だとあった。そういう幸福もあるだろう。それにしても初演の20歳の頃の与兵衛の白黒写真は十三代目にそっくりだったけれどなんて垢抜けていないのかとびっくり。「時分の花」の魅力にあふれていたらしいが、写真で見る限りは今の方がずっといい。顔の拵えも台詞術も演技も工夫を重ねた結果だろう。この役については仁左衛門のこだわりでは若さが第一ということで今回で終るのだが、今の若手でもしばらくは観たくない感じだ。
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海老蔵だとマッチョなので喧嘩をしても簡単に負けるという役にはちょっと合わない感じがするし、不自然な上方言葉の与兵衛は観たくない。染五郎が上方言葉を頑張っているので孝太郎とのコンビはけっこういいと思う。愛之助は真面目さが滲み出ないように軽薄な感じが出ればやはり孝太郎で観たいと思う。
といろいろ妄想しつつ、やはりしばらく仁左衛門与兵衛の余韻を楽しんで封印したい。
当日終演後の花道チェックの記事はこちら
2/19国立小劇場文楽「女殺油地獄」思い出し記はこちら
6/21昼の部①兄弟対決の「角力場」
6/21昼の部②「双蝶々」つながりの舞踊二題
6/27千穐楽に六月大歌舞伎を概観する
6/27千穐楽夜の部①高麗屋三代の「門出祝寿連獅子」
6/27千穐楽夜の部②吉右衛門の「極付幡随長兵衛」も堪能
6/27千穐楽夜の部③幸四郎の「髪結新三」