コクーン歌舞伎を2年連続で観て、勘九郎箱のDVDをかずりんさんに貸していただいて「三人吉三」を観て、是非コクーンの舞台で観たいという願いが実現。かずりんさんとご一緒に観ることができたというのも本当にブログが結ぶ縁であった。
コクーン歌舞伎「三人吉三」DVD鑑賞の感想はこちら
初演の配役は上記の感想にあるが、今回の主な配役で変わっているのは以下の通り。
双生児の兄妹が入れ替わって勘太郎が十三郎、七之助がおとせへ。土左衛門伝吉が笹野高史へ。夜鷹うで蛸おいぼが故・源左衛門→芝喜松へ。獅童の役だった捕手頭長沼六郎が仲二郎へ。夜鷹虎ふぐおてふと婆アおはぜが歌舞伎役者ではない俳優へと変わっているようだ。それにしてもどろ亀おさんで小山三が元気な姿を見せてくれたのは嬉しい限り。
やはり映像と違って舞台装置の面白さを楽しめるのはナマの観劇でこそだ。江戸の町の割下水の貧しい家並みのセット。堀割の位置も盆回しで回っていくその変化が楽しい。そして歌舞伎座ではありえないような照明づかい。物語の闇を深める効果を上げている。
今回、全く意表をつかれて驚いたのは冒頭ともう一回、暗い舞台を白い犬が舞台を横切って登場すること。伝吉が殺した犬の祟りによる因縁が全編を貫いているのと、三人吉三をまともな社会からドロップアウトしてしまった野良犬のイメージで演出していることの象徴のようだ。プログラムによると初日10日前にもまだ串田和美のイメージに合う犬の手配ができていなかったらしいが、ちゃんと訓練されているワンちゃんの登場でグッと面白さが増したと思う。
勘三郎のひと役目の金貸し太郎右衛門では礼金を貰うとすぐに「申告せな」ときた。「金をもろたら申告申告」と申告漏れのダメージを自虐ネタに使ってみせる遊び心いっぱいの様子を見せる。また、NY公演に向けて英語の台詞の特訓をした成果も亀蔵とやりとりしながら披露する場面もあって、来月のNY公演もしっかり宣伝(追記:ここはけっこう長かったけど海老蔵が観に来ていたせいで張り切ったのかしら?)。行かれる皆さんは楽しみが増したことだろう。橋之助の海老名軍蔵とその取り巻きは揃って出っ歯を着用。ここまでふたりがくずしてくれるのも楽しい。
また花道のように通路を使うというのはよくあるが、平場の客が座る部分を横切ったり、中央通路から舞台へかきわけて行ったりというこの芝居小屋のような演出の楽しさ。これで上演がほとんどない前半の長さが気にならなくなってしまうというものだ。
おとせと十三郎が夜鷹と客を越えた本当の恋に落ちる場面も、勘太郎と七之助が反対の配役になることで官能性がより増した(前回の勘太郎のおとせのよさもあったが)。このふたりの台詞のやりとりは声質が似ているし、七之助の女方の声に艶が増したせいでその共鳴の官能度はアップしている。
そのために畜生道に落ちた悲劇性がより増して、細身の笹野高史の伝吉が悔悟にさいなまれる苦痛の大きさもはかりしれない。
芝のぶの安森の若党・弥作も主の敵は討てたが無念の自害をする場面、凛々しくて見直したが、これも闇を深めるひとつのエピソードになる。
闇、闇、闇が深まっていく。
前回は近親相姦と衆道の両方の要素がちりばめられていたが、今回はお嬢吉三とお坊吉三の間柄は義兄弟の関係性の方を重視しているという。ふたりの世界ができてしまうと和尚吉三の入る隙がなくなるというのは然りである。女装の倒錯性はありつつも、官能性は十三・おとせの方に任せよう。
その闇の中で寄りそっていく三人吉三の思いの切なさが迫ってくる。この三人を勘三郎・福助・橋之助が演じるということの効果も大きい。ご本人たちの気持ちの寄り添い方もそうだし、観る方のそういう思いが強くなる。やはりコクーン歌舞伎ならではの舞台だ!
お嬢吉三とお坊吉三の身替り首に弟妹の首を打って湯灌場から戻った和尚吉三の首には弟妹の血が付いているという新演出の効果が物凄い。畜生道に落ちた実の弟妹を弔い、義兄弟の命を救うために役にたたせるための究極の手段をとった和尚の勘三郎の狂気漂う涙の幕切れ。
客電も落とす闇、最後の大詰めに流れるはずの椎名林檎の音楽の予兆のエレキギターの音。こうして大詰めに向かってドラマは高まっていく・・・・・・。
20分の大詰めのために幕間を設ける。それでこそ楽しめるこの大詰め。一面の白い世界。捕手が雪衣も兼ねて火の見櫓を動かしたりするのも面白い。
せっかく弟妹を身替り首にしたことも研師与九兵衛(亀蔵)が訴人したことで無駄死にとなり、三人への手配が回る。辻辻の木戸は閉ざされ、それを開けさせるため立ち回りとなってもお嬢吉三は櫓に登り、太鼓を打つ。
ここは「櫓のお七」を踏まえているが、やはり女装の男の立ち回りの動きの面白さがある。福助は女装の男が本性を出しての表情・声・しぐさ・立ち回りは本当に活き活きとしていて魅力的。
真っ白な雪が激しく降る中、三人の衣裳の色だけが目立つ舞台。その激しい立ち回りの末のすでに正気を逸したような福助のお嬢吉三の表情にもまた陶然とさせられる。そんな中で見逃したのかもしれないが、八百屋久兵衛が現れて百両と庚申丸を託す場面は省略されてしまったのかなぁと思った。話の完結性よりもここはクライマックスまでのスピード感重視かなと(記憶違いであればご指摘ください→やはり省略されていたというコメントをいただいた。感謝!)。
「もはやこれまで」と刺し違えてお嬢吉三、その上にお坊吉三、最後に和尚吉三が折り重なって死んだところに天井からドカ雪が落ちてくる。
♪「眠れよい子や」♪と椎名林檎の子守歌がかぶさってくる~。途中に予兆を入れてくれているので違和感がない。まさにコクーンシアターならではである。最後に大音響で音楽がかぶり、客席までの降り物がというと、まるで蜷川幸雄の舞台のようでそれもコクーン歌舞伎ならいいんじゃないかぁと楽しくなってしまった。
カーテンコールの楽しかったこと。雪衣さんたちもニッコニコだし、音楽にのって踊るキャスト続出。橋之助は雪を両手に抱えて上手、センターと何度も平場のお客さんに投げている。福助は両手を振っているし~。当然スタンディングオーべーション。これは楽しい、たのし~い。
膝の調子があまりよくないので椅子席にしたが、次のコクーン歌舞伎では是非椅子席でも最前列で観たいと思ってしまった。目の前を横切っていただける楽しみを味わいたいなぁ。
写真は公式サイトより今回の公演のチラシ画像。
前後のオフ会の話、串田さんの本のサインセール、海老蔵が観に来ていた話はこちら
2006年のコクーン歌舞伎「東海道四谷怪談」の感想はこちら
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2005年のコクーン歌舞伎「桜姫」の感想は
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