ぴか の観劇(芸術鑑賞)日記

宝塚から始まった観劇人生。ミュージカル、ストレートプレイ、歌舞伎、映画やTVドラマ等も書きます。

05/12/11 『狸御殿』でスーパー歌舞伎と人情喜劇の融合

2005-12-11 23:38:07 | 観劇
今年の6月に鈴木清順監督の映画『オペレッタ狸御殿』も、実はこの舞台を観るための予習だった。残念ながら映画はあまり面白くはなかったのだが。しかし先月の松竹座の劇評が『演劇界』1月号にあって、なかなかの舞台のようで期待は高まっていた。
映画『オペレッタ狸御殿』の感想はこちら
今回の舞台は...面白かったのだ!

物語は「昔、昔、ずっ~と昔の狸と人間のおとぎ話」なのだが、まず話の作り方がうまくて退屈しない。話の筋は以下の通り。
人間界のお家騒動で相馬家の若殿・織部(右近)が闇討ちされて死にかけたところを狸御殿のきぬた姫(藤山直美)が助けて惚れる。狸世界から記憶を消されて帰された織部を人間界にまで姫は追っていくのを奴雅楽平(猿弥)がついていく。相馬家では織部の母・卯月の方(藤間紫)に金毛九尾の狐がとりついてその一派が人間界を魔界に変えようという陰謀がすすめられていた。きぬた姫は金毛九尾によって正体を見破られるが、織部を助けて陰謀を打ち砕くべく稲荷大明神の使いの白狐(笑也)の力を借りにいくが、断られる。
姫が織部、雅楽平と長屋に身を隠しているところに、父(小島秀哉)や家老(小島慶四郎)、乳母(大塚嶺子)たちが姫をたずねあててきて連れ帰ろうとするが、織部とともにいたいと父たちを帰してしまう。そしてついに金毛九尾との対決。そこに白狐があらわれて霊剣を授けて卯月の方にとりついた金毛九尾を除霊させ、元の母に戻す。織部はきぬた姫にいつまでもそばにいてほしいと言うが、姫は織部と守役の娘九重(春猿)の仲を結んで、雅楽平とともに狸御殿に帰っていく。

澤潟屋一門によるスーパー歌舞伎と藤山寛美・直美父娘の人情喜劇がうまく融合されている。両者の共通性=「大袈裟」な演技がうまい具合に相乗効果を上げているなと感心した。プログラムによると直美はもともと猿之助の大ファンで、今回の企画も彼女から一緒にやりたいと依頼したのだという。猿之助も藤山寛美のお客様を大切にする舞台に感動していたということで、ここに新しいジャンルの舞台を誕生させるという意気込みだ。

随所に歌舞伎のパロディが効果的に組み込まれていた。10月歌舞伎座で観た「加賀美山」の草履打ちとスーパー歌舞伎の「オグリ」→11月の「児雷也」で観たばかりの引車の場面など、思い出して比べては笑ってしまうのだった。それなりにきちんと演じているから嬉しいというのもある。
さらに満月祭などのショーのシーンも宝塚の日本舞踊ショーの群舞のようにカラフルで楽しい。若衆姿にキラキラをいっぱいつけたしたきぬた姫の婿候補たちなんてすごい迫力だった。狐の女方軍団と狸の女優軍団の対決シーンも笑えた。ここまで人間でないものが登場するおとぎ話にしてしまうと女方と女優が同時に舞台にいても違和感がまったくない。

脚本はちゃんとそれぞれの役者にあわせたアテ書きになっているのだろうから、笑いをとる場面も無理がない。さらにそれをアドリブ的に進化させているのだろう、噂にきいていた直美のツッコミ台詞もさらに過激になっていた。大阪の新喜劇のノリのツッコミを受ける澤潟屋の一門の反応もそれぞれに楽しかった。
一番感心したのは金毛九尾の藤間紫が同じ獣のよしみで直美にくだけた調子で話をする場面。「アンタ、なかなか面白い子だね」というような実に軽い感じで話をすすめる。そして一転、自分の野望を話してガツンと決めるというこのメリハリ!ぶっかえりの見得がこんなに似合う女優は他にはいない。まさに立女方の演技ができる女優だ(昨年の『西太后』での見得に感動したものだ)。そしてまた一転可愛い声でくしゃみをしてみせるというこの自在さに観ているこちらも嬉しくなる。
藤山直美の舞台は2回目だが、これは代表作になるだろうという予感が確信に変わる。三枚目で人情喜劇を演る女優なんてなかなかいないのだから、是非これを人気シリーズにしてほしい。狸の愛嬌あるイメージとぴったりだ。(追記:それにしても父寛美そっくりのしぐさを随所に盛り込んでくれる。猿弥に「寛美みたい」って言われてた。寛美の丁稚姿が目に焼きついているので嬉しくて仕方がない私。)
右近も直美と組むと十分二枚目だった。デュエットはちょっとご愛嬌のレベルだったが、笑いをとる台詞もまあ頑張っていたといえよう。
笑也が野郎言葉で美しい白狐を演るのがもうたまらなくおかしかった。厚化粧とツッコマレて「日清製粉てんぷら粉」!と返してフーっと粉を吹くところはもう仰天モノ。7月『十二夜』の松緑同様、これではじけてくれたのではないかなあ。
猿弥も三枚目で大活躍。猿弥と組むと直美も可愛いもの。直美・猿弥の連れ立っての宙乗りもとても可愛くてよかった。ここも「再岩藤」のパロディのミニ傘が可愛くて可笑しい。直美・右近・猿弥の三角関係路線で続編続けられると思った。

今日は3階B席の右サイド席だったのに双眼鏡を忘れてきてしまい、肉眼だけで遠い席で観たのだが、そういう見方でも十分楽しめる舞台だった(表情まで細かく見たいご贔屓がいないというのもあるけれど)。でもケチらずに3階A席くらいで正面から観ればよかった。チケット代のメリハリもつけすぎたかもしれない。もう一回くらい正面から観たいなと思わせてくれる舞台だった。

写真は、松竹のHPより今回公演のチラシの写真。
追記:幕間に並んでいたトイレの行列で私の母の世代とおぼしき女性数人が宮城千賀子の主演の映画『歌う狸御殿』を昔観たのよ~って盛り上がっていた。どうりで3階席、そういうお客さんが多いなあと納得。
追記その2:随所にスーパー歌舞伎がチラホラする。新三国志キーワードの「夢見る力」が2回も台詞中に登場したし、聞きなれた音楽も流れたりする。上手い、うますぎる~。プログラムの中で藤間紫がスーパー歌舞伎で喜劇がやりたかったというくだりがあったが、まさにそういうテイストだ。スーパー歌舞伎ファンは必見である。