ぴか の観劇(芸術鑑賞)日記

宝塚から始まった観劇人生。ミュージカル、ストレートプレイ、歌舞伎、映画やTVドラマ等も書きます。

07/11/25 顔見世大歌舞伎千穐楽夜の部③菊五郎の「土蜘」

2007-11-30 23:59:19 | 観劇

昨年のNHK古典芸能鑑賞会での「土蜘」のTVオンエアは録画しつつのチラ見だけ。ついつい舞踊だからと後回しになっていてしっかり観ていなかった。能仕立ての松羽目物の舞踊劇ということで、菊之助が演舞場の「船弁慶」の静御前と同じ衣裳を着ているなぁ、千筋の蜘蛛の糸を初めて観ておお綺麗だなぁということくらいしか覚えていなかった。今回はイヤホンガイドも聞きながら真面目に観た。

【新古演劇十種の内 土蜘(つちぐも)】
九代目團十郎の「歌舞伎十八番」の向こうをはって、五代目菊五郎が「新古演劇十種」と銘打った作品のひとつとして初演。
あらすじは公式サイトよりほぼ引用。
「病いの床に伏す源頼光は、家来の平井保昌の見舞いや侍女の胡蝶のあでやかな舞いに、しばし心癒されています。そこへ何処からか、比叡山の智籌(ちちゅう=くもの音読みからとイヤホンガイド)と名乗る僧が現れ、病平癒の祈祷を申し出ます。太刀持の音若が様子を怪しみ忠告すると、智籌は蜘蛛の本性を顕し、姿を消します。
 頼光館では、番卒の太郎、次郎、藤内が土蜘退治を祈願して、巫子の榊に諫めの舞いを舞わせます。一方、土蜘を追って荒れ塚に行き着いた保昌と頼光の四天王の前に、ついに鬼神の姿をした土蜘の精が現れ、壮絶な闘いが繰り広げられます。」
今回の配役は以下の通り。 
僧智籌実は土蜘の精:菊五郎 源頼光:富十郎
太刀持音若:鷹之資 侍女胡蝶:菊之助
巫子榊:芝雀 石神:玉太郎
平井保昌:左團次 渡辺源氏綱:権十郎
坂田公時:亀蔵 ト部季武:市蔵
碓井貞光:亀三郎 番卒太郎:仁左衛門
番卒次郎:梅玉 番卒藤内:東蔵

いつも元気いっぱいイメージの富十郎が病鉢巻をつけた源頼光というギャップがちょっと面白いというと不遜だろうか。息子の鷹之資を太刀持で身近につけているのも「閻魔と政頼」の閻魔と後見の時よりもしっかりしてきている。
菊之助の侍女胡蝶は昨年の静御前の時よりも顔のメイクが格段にうまくなっていると思えた。壺折の衣裳での舞も美しくて惚れ惚れする。

夜中に頼光の部屋に訪れた智籌と名乗る僧形の者。菊五郎の斜めに睨む目が効いて妖しさたっぷりの前半の姿にぴったりだ。私はどうもこういう目に弱いようで買った舞台写真は全てこの目線の表情ばかり(^^ゞ太刀持音若に影の形の怪しさを指摘されて土蛛の本性を現して手に持つ数珠で割けた口の形を表して台の上に上がるなどの前半の見せ所もいい。鷹之資の台詞がやっぱり子ども子どもしているが、少しずつしっかりしてきているのだなぁとも思えて可愛さも感じるようになった。
四天王たちが刀を頭上に基本は横にかざしての立ち回り。これも能の立ち回りのお約束なのだという。前半でも蜘蛛の糸の繰り出しがあってお弟子さんたちが上手く巻き取るのに感心。一太刀浴びた土蛛は姿を消す。

間狂言部分の番卒は、仁左衛門・梅玉・東蔵という大ご馳走の配役!東蔵の馬子の玉太郎が石神さまで出ていて、親子や爺孫での共演が何組あるのだろうという感じ。玉太郎も台詞はホント下手くそだが、舞台での集中力はついてきたのがよくわかった。巫子の榊が頭に狂言の女性役がつける美男鬘のアレンジのような布をつけているのは、まさに狂言風だ。こんな拵えで芝雀の巫女が面をとった石神さんをおんぶしていくのは微笑ましかった。番卒の退場時も先頭の仁左衛門が足先まで神経を行き届かせたステップだったのを見てまた惚れてしまった(^^ゞ

後半の舞台。能のツクリ物(「紅天女」で観ている)のような塚が舞台中央に出てくる。四天王たちが刀傷の血汐の後を追って塚の唸り声にたどりつき、塚をくずすと後シテの土蛛が姿を現す。ツクリ物の布が取り払われて細い柱に張られた紙テープの蜘蛛の巣状のものが目を引いていい(毎回お弟子さんたちがつくるのだそうだ)。
それを破って妖怪の隈取をした菊五郎が出てくるが、もう本当に立派。気力が漲る土蛛だ。派手に蜘蛛の糸を投げかけるので菊十郎ともうひとりの後見が絶妙のタイミングで菊五郎の掌から糸のついた端の紙?を受け取ってくるくると巻き取っていくのを嬉しく見てしまう。
四天王たちが通力を持った刀で追い詰め、ついに土蛛の首をかき切った。と思いきや、最後は座頭役者として赤い台の上に登り、左右に居並ぶ頼光、四天王や捕り方たちに糸がかかって迫力の絵面!引っ張りの見得となって幕となるという、贅沢な舞台だった。

これは土蛛をつとめる座頭と周囲の息が合わないとここまで盛り上がれないのではないだろうかと思えた。初めての「土蛛」を堪能した。長唄も名曲ということだが、予習をサボったツケがきてちょっと残念。次回観るまでには長唄も調べて、どこかにあるはずの録画を探してもう一度じっくり聞き取れるように準備したいものだと思った(忘れることも多いのだけれど(^^ゞ)。
ちょっと追記:ネット検索して見つけた「土蜘」の詞章のサイト(能の方かもしれないが(^^ゞ)

ここでちょっと脱線だが、源頼光と四天王たちの名前がズラズラ出てくると劇団☆新感線の「朧の森に棲む鬼」を連想(笑)源頼光といえば大江山の酒呑童子退治でも有名(それも「朧~」の主要人物で出てきた)。さて「蜘蛛」というのも大江山の鬼と同様に大和政権にまつろわぬ民扱いされた集団として史実に残っているということだった。だから源頼光に退治させる話として一貫性があるのだろうなぁと、そちらにも興味が湧いてきた。
写真は「顔見世」と「千穐楽」の2枚の幕がかかった歌舞伎座正面。六条亭さん撮影分の掲載の快諾をいただきましたm(_ _)m
11/18昼の部①「種蒔三番叟」「素襖落」
11/18昼の部②初めて泣けた「吃又」
11/18昼の部③仁左衛門の「御所五郎蔵」
11/25千穐楽夜の部①「宮島のだんまり」「三人吉三巴白浪」
11/25千穐楽夜の部②「山科閑居」

07/11/27 「ウーマン・イン・ホワイト」@青山劇場

2007-11-29 22:43:26 | 観劇

アンドリュー・ロイド=ウェバー最新作の日本初演ということで、しっかりチケットをとってあったのに、微妙な時間に職場で時計の見えないところで話し込んでしまった。「さて何時」と思ったら午後6:45!うわぁ、開演に間に合わない~。必死に青山劇場をめざしたけれど開演20分以上過ぎていた(T-T)という状況で観始める。2階席後方の一番安い席2列は満席だったが、2階前方はガラ空き。幕間に1階をみたら脇はガラガラだった・・・・・・。

ひとことでいうと「19世紀のイギリスの富裕な地方地主の家庭に育つ異父姉妹と貧しい画家とのロマンスに‘白いドレスを着た謎の女性’がからんだミステリー」という。
「ウーマン・イン・ホワイト」の公式サイトはこちら
<スタッフ>
作曲:アンドリュー・ロイド=ウェバー 作詞:デヴィッド・ジッペル
脚本:シャーロット・ジョーンズ 演出:松本祐子
<キャスト>
笹本玲奈:マリアン・ハルカム(姉)
神田沙也加:ローラ・フェアリー(妹)
別所哲也:ハートライト 山本カナコ:アン・キャスリック 
パーシヴァル・グライド卿:石川禅
光枝明彦:フレデリック・フェアリー(ローラの叔父)
上條恒彦:ファスコ伯爵 ほか
あらすじは上記の公式サイトをご参照を。
着席したら恋に落ちたローラとハートライトのデュエット中。収穫祭の場面へと続いていく。姉のマリアンは父の違う妹ローラの成長を母親代わりに見守ってきた。それなのに愛した男は妹と相思相愛になってしまう。せつない女を笹本玲奈が好演。「レミゼ」エポニーヌで観始めた頃は高校生だった彼女もずいぶんと大人になったと感慨深い。歌でも芝居でも主演女優として堂々たるものだ。

妹ローラの神田沙也加は昨年末の「紫式部ものがたり」で観ていて今回も頑張っていたが、どうにも音域の広い極は歌いこなせていない。ロイドウェバーのソプラノ向けの歌を歌いこなす女優はまだまだ日本では多くないと思うけれど(^^ゞ

ローラの父が死んだ後は弟であるフレデリックが家を守ったようだが、老け込んで車椅子に乗ったあまり聡明ではない男を光枝明彦。劇団四季で「アスペクツ・オブ・ラブ」で甥の女と結婚してしまう魅力的な壮年のおじ様姿が懐かしい。今回もいいお声を響かせていた。

別所哲也の舞台は「レミゼ」のバルジャンしか観たことがないので、若いハートライトのカッコよさには惚れ惚れした。長髪気味に伸ばしたヘアスタイルに彫りの深いマスク。歌もバルジャンの初めの頃より格段にうまくなり、甘い声を響かせてくれる。もっと早く舞台進出していて欲しかったなぁ。

石川禅の悪役パーシヴァル・グライド!貴族だが放蕩三昧で財産を食いつぶし、資産家の許婚の財産狙いの結婚を急ぎ、ハネムーンから帰ったローラの全身は痣だらけって、どんな人間だよ~。サドなのか、単に暴力で妻の精神まで痛めつけて支配するつもりなのか。とにかく石川禅の悪役は細かく作りこんでくれるので楽しめるのがいいのだけれど、この役はねぇ。末路は哀れとも思えないという完璧な極悪なキャラ。

そういう人間にくっついて美味しいところだけ味わって悪事にも手を染める快楽主義者(エピキュリアン!)、医師・フォスコ。マリアンには惚れているが、だからといってその妹の遺産を奪う手伝いに大活躍だ。彼のサインで精神病院に閉じ込めたアン・キャスリックを探すためにマリアンが証拠探しのために誘惑にきたのにコロっとその気になるところはなかなか可愛い。見破って逃げた後に歌うソロ「私はパーフェクト」も聞かせてくれる。しかしイタリアン・テナーという設定なのだが、最後に高音を効かせてしめるところ2箇所は失敗。それだけロイドウェバーの曲が難しいのだと思う。
謎の女アン・キャスリックの山本カナコ。先日もゲキ×シネ「朧の森に棲む鬼」でラジョウの都の居酒屋の女将で観たばかりだが、劇団☆新感線では高田聖子と向こうをはるような女優だ。初の本格ミュージカル出演ということだが、どうしてどうしてうまいものだ(池田成志の「ジキル&ハイド」の時よりも上手くて浮いていない(^^ゞ)。アンの一生は本当に不幸のまま終ってしまう。唯一希望が胸に湧いたところは三姉妹が揃って心が通い合ったあの一瞬だったのだろう。その「今日から三人」だけは本当に心がほ~っとするような曲だった。これからもどんどん本格ミュージカルに出て欲しいなぁ。

さて、全体の感想。全部観ていないのでまぁ恐縮ではあるが、正直なところを書いておこう。
アンドリュー・ロイド=ウェバーのこの作品は、やはり「ジーザス・クライスト・スーパースター」「オペラ座の怪人」「アスペクツ・オブ・ラブ」には及ばない。とにかく彼の持つ力は見せつけてくれる。その技巧を駆使した曲はさすがである。キャストも塩田明弘指揮のオケも格闘して頑張ってくれている。ロイドウェバーの楽曲と意気高く闘ってくれているのはよくわかって日本のミュージカル陣営もなかなかのレベルになったという感慨を持てた。しかし、ぐ~っと引き込まれて観終わった後で口ずさめるような心がいつまでも追いかけていたいようなメロディがどこにもなかった。「ロイドウェバーが技巧に走りすぎて、多くの観客が楽しめるかどうかという自己点検を忘れたのではないか」という印象。
ローラとパーシヴァル卿との不吉な結婚式の場面や精神病院の場面など「エリザベート」のリーヴァイの曲に負けないぞと思ってるんじゃないかとかも思えてしまった。とにかく不協和音を使いすぎなのもバランスがとれていない気がする。私が好まないからかもしれないが。

作品全体として。ローラとハートライトのロマンスもあり、それをせつなく見守り、一時は男の気持ちも自分の方に向いたのに最後は愛する妹と結ばれるようはからう大人の女主人公マリアンのせつない気持ちもしっかり描かれているところはわかった。しかしミステリーをミュージカルで見るという違和感を最後まで引きずった。こういう話ならストレートプレイで十分だなぁというのが正直な感想。だから途中からしか観ていないのだが、意地になってチケットを手に入れてもう一度観ようという気になれない。
最年少で菊田一夫演劇賞を受賞した笹本玲奈を見せる作品としての上演だったんだろうなぁ、所属のホリプロの企画の舞台だし、と納得。
あまり褒めていない感想になってしまった。しかしながら、アンドリュー・ロイド=ウェバー作品がお好きな方は、一度はご覧になる価値はある作品だと思う。
写真は公式サイトより今回公演のチラシ画像。

07/11/25 顔見世大歌舞伎千穐楽夜の部②「山科閑居」に満足

2007-11-28 23:38:49 | 観劇

「仮名手本忠臣蔵」は昨年9月の文楽公演と今年2月の歌舞伎座での通し上演を観た。歌舞伎の通しとはいえ九段目は省かれていたので今回が初めて。楽しみ楽しみ~。
2月の「忠臣蔵」通し上演の記事はこちら
昨年9月の文楽公演第三部の記事はこちら
【仮名手本忠臣蔵 九段目 山科閑居】
歌舞伎の九段目では文楽で観た前半の「雪転しの段」はなし。雪の中、由良之助の閑居に加古川本蔵の後妻の戸無瀬が小浪を許婚の力弥に嫁がせるためにやってくるところから始まる。あらすじは省略。
今回の配役は以下の通り。
戸無瀬:芝翫(初役!)
加古川本蔵:幸四郎(初役) 小浪:菊之助
大星由良之助:吉右衛門(初役!)
お石:魁春(初役) 力弥:染五郎(初役)
渡辺保氏の劇評を読んで、主な配役では菊之助をのぞいて初役ばかりということに驚く。特に芝翫はお石が持ち役で戸無瀬をこの年で初役というのがすごいと思った。渡辺氏は久々に初日を待ち兼ねたという。また吉右衛門の由良之助は九段目の由良之助はこれまでやっていないという。これだけの大看板役者が60歳すぎて初役をつとめることもあるという歌舞伎というのはなんて奥深いのだろうとそれだけで感心してしまう。

前半は女のドラマ。本蔵の妻・戸無瀬は小浪とはなさぬ仲であるだけに母娘の信頼の強さはより強調される(シネマ歌舞伎にむけて「文七元結」の文七の妻と娘を義理の仲にしたのも同様の効果をねらったのだろう)。
芝翫の戸無瀬はビジュアル的には確かに年を感じてしまうがあふれる情愛がそれを凌駕する。ビジュアルは菊之助の小浪に任せよう。綿帽子をとった時に見入ってしまう。とにかく美しくて力弥への一途な想いの強さがストレートに伝わってくる。芝翫の戸無瀬はその小浪をいきなり花嫁衣裳で嫁入り行列を直前に仕立てて自信を持って許婚宅に届けにきたという感じ。だからお石に輿入れを拒否されるとかなりオーバーに驚くのだろう。ここに渡辺氏は疑問をなげかけていたが、確かに二つの家の関係の大きな変化は奥向きにいる人間だって重々承知の上なのだから、「やっぱりそうきたか」くらいの受けとめの方が自然だと思えた。その後、二つの家の石高の変化のやりとりを経て、お石の本音が出てくるわけだ。
それ以降の戸無瀬の心持の変化はたっぷりの芝居で見せてくれる。小浪に他家に嫁ぐくらいなら殺してくれと懇願され、戸無瀬は迷いながらも覚悟を固めていく。そなただけを死なせはしない、後から追っていくという。
外からは虚無僧の吹く「鶴の巣篭」の曲が聞こえ、「鳥類でさえ親子の情は」というような義太夫に乗って階段のところでのさまざまな極まりのポーズが連続して極まっていくのも形だけでなく心持まで伝わってくるのが素晴らしい。ひねるポーズもきっちりしていてさすがに芝翫だと思わされた(2月の八段目の道行の舞踊の素晴らしさも思い出す。すっかり戸無瀬になりきって芝翫が泣いているのでちょっと驚く。すすり上げながらの台詞になっているし涙も光っている。こんなに濃い芝居を見せてくれる人だったのだとあらためて見直してしまった!
小浪の白い打掛を四角に広げた上に小浪を座らせているのを見て着物ってこうなるんだということも発見。そんなところも感心しながらドラマも追うから忙しい。

戸無瀬が婿引出に持ってきた家の重宝の刀を振り上げると、「ご無用」と留めるお石の声。奥から三方を掲げて正装したお石が出てくる。祝言を許すという言葉に母娘は喜ぶが、追いかける言葉は「婿引出に本蔵の首をここに乗せて欲しい」。魁春のお石は芝翫に習ったというが、十分堂々としている。両家の奥方どうしがしっかりと拮抗している。
その女のドラマに虚無僧が割って入ってくる。深編笠を取ると加古川本蔵その人だった。由良之介の悪口を散々言ってお石を挑発、槍を持って挑むお石を軽くあしらってしまう。飛び出てきた力弥が母の代りに槍をふるうと本蔵は槍先を自分の脇腹につきたてる。
「婿力弥の手にかかり本望であろう」と由良之介が登場。出番は本当に少ないのにここから一気に男のドラマに持っていく吉右衛門の大きさを堪能する。ここまでの台詞が聞き取りにくかった幸四郎も手負いになってからの場面の声を振り絞るような台詞は別人のようにいい。この兄弟の共演は1+1=2以上になる。「アマデウス」でもサリエリのモーツァルトに対する嫉妬の感情を神への憎悪として語る台詞もよかった。こういうぎりぎりの魂の叫び的な場面は本当に幸四郎ならではの味が生きると思う。

力弥の染五郎はビジュアル的には満足だが声がもう少しなんとかならないものか。若手どうしということで菊之助と同じ舞台に立つと安定した美声の菊之助とどうしても比べてしまう。姿形はつりあうのに声がつりあわない。しかし染五郎にとっては父と叔父と一緒にいるだけでなく、初役がほとんどなのに芝居のレベルの高い舞台に一緒にいるということが大きな経験になることは間違いないだろう。

竹本も葵太夫、綾太夫と語りついで堪能。一幕だけなのに忠臣蔵の世界にぐっと入ってしまった舞台だった。こういう重厚さのある濃い芝居も大好き。この座組みで初九段目を観る事ができたというのは幸せなことだと思う。こうして義太夫狂言の魅力にハマっていく。             
大石内蔵助の山科閑居についてはこちら
写真は公式サイトより今回の公演のチラシ画像。
11/18昼の部①「種蒔三番叟」「素襖落」
11/18昼の部②初めて泣けた「吃又」
11/18昼の部③仁左衛門の「御所五郎蔵」
11/25千穐楽夜の部①「宮島のだんまり」「三人吉三巴白浪」

07/11/25 顔見世大歌舞伎千穐楽夜の部①「宮島のだんまり」「三人吉三巴白浪」

2007-11-27 00:24:45 | 観劇

写真を新しい携帯で撮影してみた。千穐楽の幕のかかった歌舞伎座の正面。酒樽も見える。我ながら今ひとつの写りで残念(T-T)おいおい慣れていきたい。
【宮島のだんまり】
初めて観るがかなり華やかなものらしく興味しんしんの演目。筋書によると昔は顔見世興行でその年の座組みの顔ぶれを紹介するものとして独立して演じられたという。“歌舞伎美人”で「だんまり」の紹介あり
今回の「宮島のだんまり」は、宮島の厳島神社を背景に、傾城役の浮舟太夫、捌き役の畠山重忠、立役の大江広元、公卿悪の平清盛らの各役柄が勢揃いして事件の鍵となる重宝を暗闇の中で無言で探り合い、美しい絵面の見得を極めてみせるもののようだ。中でも傾城浮舟太夫が実は盗賊袈裟太郎ということで立女形が実は男だったというぶっかえりの上で傾城六方を踏んで幕外で引っ込むという見せ場があり、福助がこれをやるのは五世歌右衛門がつとめたことがあるということに因んでいるらしい。この間に読んだ本などで五世歌右衛門のイメージを膨らませていたので、尚更に期待も膨らむ。

主な配役は以下の通り。
傾城浮舟太夫実は盗賊袈裟太郎:福助
畠山庄司重忠:錦之助 大江広元:歌昇
白拍子祗王:高麗蔵 相模五郎:松江
浪越采女之助:亀寿 息女照姫:芝のぶ
御守殿おたき:歌江 河津三郎:桂三
浅野弾正:彌十郎 悪七兵衛景清:團蔵
典侍の局:萬次郎 平相国清盛:歌六

イヤホンガイドの助けも借りて、豪華キャストが華やかな衣裳で舞台に並ぶのを楽しむ。昔の見物衆には「ご存知!」という役柄を御馴染みの拵えで並ぶので盛り上がったのだろうと想像。まだ私には「息女照姫」なども誰の息女よというくらいのものだが、それでもかなり楽しかった。
傾城浮舟太夫が天紅の文を読んでいたのを重宝の文書だろうと重忠や広元が詰め寄るが、言い逃れして逃げる逃げる。
立師は芝喜松というが、こんなに大人数で変化をつけた動きを振付けるというのはさすがだと思う。やはりベテランの経験が生きているのだと納得。
舞台では清盛が赤い台の上でそこを中心に絵面引っ張りの見得!
定式幕が引かれると席を立つ人もいるが、福助が盗賊袈裟太郎の拵えになって花道スッポンから登場。菊百日の鬘に飾り簪を何本もさし、傾城の履く高い草履を履き、しかし素網をのぞかせながら裾には化粧回しのような四天も着込んで男か女かわからない不思議に傾いた姿!!
これが福助に似合う!傾城の時よりメイクもぐっと力強くしている。お歯黒の歯をグワッとみせてグロテスクなのだが美しいという耽美の極みだ!!

3階2列目からは花道の引っ込みはあまり見えないが、力者との立ち回りをしながら花道から舞台まで戻ったりもするので、「また見えた~」と喜んでしまう。
ちゃんと草履は脱いで素足で傾城六方を踏んでダダンダンダンと花道を引っ込んで行った(さすがにあの草履では心配だったからホッとした)。
最初の方で大薩摩節の演奏もあったのが派手でいい。昔は台に足を乗せて弾く三味線の人は着流しだったらしいが、脛の毛の濃い人がいて袴を履いて隠したら以後はそちらが定着したらしい。足に自信のある人にまた着流しでやってもらいたいというのはオタク度が高すぎるだろうか(^^ゞ

【三人吉三巴白浪 大川端庚申塚の場】
コクーン歌舞伎「三人吉三」の記事はこちら
歌舞伎版は今回が初めてだが、若手花形役者による「大川端庚申塚の場」だけなので気楽に観て打ち出されるための演目だろう。主な配役は以下の通り。
お嬢吉三:孝太郎 夜鷹おとせ:宗之助
お坊吉三:染五郎 和尚吉三:松緑

初日あたりはかなり台詞回しがあやしいという感想があちこちのブログにあったが、さすがに千穐楽。「月は朧に白魚の」以下のお嬢吉三の名台詞を孝太郎がちゃんと聞かせてくれた。それにしても孝太郎の男声は初めてでなかなか可愛いと思ってしまった。染五郎のお坊吉三の台詞回しはなんとか聞けるというレベル。黙阿弥の七五調の台詞をもっと安定的に聞かせてくれる声が欲しい。やはり声が不安定なのが染五郎に物足りないところ。そういった点では松緑の和尚吉三は安定している。ただ、あんまり兄貴分という貫禄を感じないのはやはり台詞・しぐさとも余裕がないせいだと思う。こうしてみるとコクーン歌舞伎の福助・橋之助・勘三郎はやはり上手かったなぁとしみじみ思ってしまった。
宗之助の夜鷹おとせは可愛くてよかったが、少し健康的すぎる感じ。もう少し儚い感じが出るといいと思った。

これを観たら、歌舞伎でも通し上演が観たくなった。

11/18昼の部①「種蒔三番叟」「素襖落」
11/18昼の部②初めて泣けた「吃又」
11/18昼の部③仁左衛門の「御所五郎蔵」
11/25千穐楽夜の部②「山科閑居」
11/25千穐楽夜の部③菊五郎の「土蜘」

07/11/26 職場の近くに耳鼻科をみつけた!

2007-11-26 23:55:56 | つれづれなるままに
自宅近くの耳鼻科だとどうしても早く帰ってこないと間に合わない。睡眠障害で朝がゆっくりになるので、どうしても夕方まで仕事をしたいというリズムで一日を過ごしている。
そうなるとやはり職場の近くで耳鼻科をみつけたいと思いついた。そういえば、大阪勤務時代は事務所の2つ隣のビルの地下の耳鼻科に週2~3回、通っていたっけ。

そこでネット検索したら・・・・・・。
あった、かなり近くにあった!歩いて5分くらいのところで午後6時までやっている!!
ということで先週の木曜日=連休に入る前の日に行ってきた。

ベテランのおじいさんドクターで優しい~。子どもの時からの鼻が悪かったとか今の喘息の話とか飲んでいる薬の話とか、実に丁寧に聞き取ってくださる。これは信頼できる~。
と喜んで鼻の吸入もしていただき、漢方薬を処方してもらい、処方箋をもって近くの薬局へ。薬剤師さんにいい先生だったとお話したら、人気がある先生だと教えてくれた。さもありなん。

そして連休突入。先の記事に書いたように金曜日の夜から喉が痛くなってきて、土曜日はほとんど寝ていた。
週明けに早速、耳鼻科に再受診。風邪の薬も出していただき、鼻の吸入もしてもらい、ラクになる~。内科だと鼻の吸入やってもらえないのが物足りなかったのだ。
これは本当に有難い出会いだった!!


07/11/24 ついに携帯の機種変更

2007-11-25 23:59:11 | つれづれなるままに

PHSから携帯電話に切り替えて4年以上が過ぎていた。一度も充電部分のパーツの入れ替えもせずにきたので何本か写真つきのメールを送信すると一気に電池が減るようになっていた。ウェブ松竹でチケットをとる時も電池の減り方を気にしつつだった。
アンテナの先端のプラスチックのカバーも割れてしまってアンテナも引き出せなくなった時に機種変更にソフトバンクショップに行ったのだが、あいにく保険証がいつものところに入っていなくて出直しとなっていた。
また面倒になって騙し騙し使っていたが、昨晩、画面に何色もの細い縦線が入ってしまい、観念!

ところが風邪でバイトを早退・病欠している娘からこの秋・冬シーズン2回目の風邪をうつされたようで、喉が痛くなってしまった。鼻うがいをしたり、かりんはちみつ漬けシロップを喉に広がるように飲んだり、軽く食べては薬を飲んだりしてひたすら土曜日は寝ていた。

ようやく夕方起きだして、最近コンビニ跡に開店した近くのソフトバンクショップへ。ところが希望の色がない。別の店にはあるかもと言われ、17号線を北上したところにある店に回って、なんとか許容の色デザインの機種をGET。プランも変更になるし、いろいろとややこしい思いをした。

1年間保障がつくので保険のパックをつけなかったのだが、報告した妹に「つけておいた方がよかったのに」と言われてしまった。なんか釈然としないなぁ。

実は今一番おすすめの機種のジェントル版(要はシルバー兼用機種)にしたので文字は大きいとか、まぁいろいろとありそうなのだが、さっそくメールなど使ってみた。適当にやってみたが、さっそく転送機能とかをどう操作するかわからない壁に突き当たる(T-T)
写真も撮ってみたが、簡単に撮影する段階にいかずにあせってしまう。メールへの添付方法も覚えないといけない。そうしないとこちらに写真のアップができない。やっぱりマニュアルに目を通さないといけないのだと、覚悟を固めつつあるところだ(^^ゞ

25日には歌舞伎座の千穐楽に行ってきたので、正面の写真を2枚ほど撮ってみたのでその写真のアップにこぎつけられるように頑張ろう!!

07/11/23 藤十郎の「摂州合邦辻」を堪能

2007-11-23 23:58:31 | 観劇

この作品は今年2月の国立劇場小劇場の文楽公演が初見。
文楽公演「摂州合邦辻」の感想はこちら
とても面白かったので歌舞伎でも観てみたいと思っていた。そんなところに今回の国立劇場での39年ぶりという通し上演!藤十郎の玉手御前はどんな感じだろうか。
【通し狂言 摂州合邦辻 四幕七場】
菅専助・若竹笛躬=作 山田庄一=補綴・演出
(出演)
玉手御前:坂田藤十郎 高安左衛門:坂東彦三郎
俊徳丸:坂東三津五郎 浅香姫:中村扇雀
奴入平:中村翫雀
次郎丸:片岡進之介 桟図書・偽の勅使:坂東秀調
誉田主税助:片岡愛之助 その妻・羽曳野:片岡秀太郎
合邦(玉手の父):片岡我當 その妻(玉手の母):上村吉弥
ほか
2月文楽で観たのは三幕目・四幕目に該当。それ以前の場面があった(序幕・住吉毒酒、二幕目・高安館の書院と庭先、竜田越の三場)ので大変わかりやすかったが、反面、少々眠くなりそうなところもあった(^^ゞ
特に住吉社前松原の場で玉手が俊徳丸に鮑の貝殻の杯で毒酒を飲ませて恋心を明かすところを面白く観た。俊徳丸も前髪姿、玉手御前も下げ髪に花櫛という拵えで、若い後妻が2歳年下の継子を口説くという場面をあっさりと見せた。三津五郎は生真面目な感じの若殿。ただ爽やか系の前髪姿は意外に似合わないなぁと思ってしまった。一方予想以上に抑え目だったのが藤十郎の玉手御前で、なかなか大人しい感じだったのがよかった。

前半で唸ったのは愛之助の誉田主税助と秀太郎の妻・羽曳野。愛之助はどっしりと低音をきかせて善玉の家老役を好演。羽曳野は玉手の邪恋を阻もうと玉手ときっちり対峙する。その毅然とした姿がやけにカッコいいと思えてしまった。親子で婦夫役をするのは初めてだというが、変な感じは全くせず、二人の芝居がよいことで脇をきっちりと固めている。

次郎丸は歌舞伎では白塗りで隈取なんだと文楽との違いを確認。進之介にはただの三枚目風ではなく、俊徳丸への憎悪をもっと感じさせてほしかった。悪の一味では図書の秀調が面白かった。
扇雀・翫雀の兄弟が揃うのを見るのは初めてかもしれない。浅香姫と翫雀の奴入平という主従で父の玉手の芝居を支えている。
我當の合邦も初役というが、大阪っぽい人情味たっぷりの感じがいい。天王寺南門前の閻魔堂建立の布施集めの場面がこの芝居で唯一楽しい場面となっている。(地獄は極楽の出店でその番頭が閻魔だからそこを信心すれば母屋に通して貰える」という説法がやけに説得力がある。寄ってきた往来の人々を引き付けて念仏踊りの輪をつくってしまうが、それだけの魅力のある坊主だった。
「万代池の場」。病鉢巻姿の乞食になってからの俊徳丸の風情の方が三津五郎にハマる。扇雀の姫はちょっと顔がきつい感じだったが、許婚を追って出奔するくらいだから芯の強い姫なのだろうからいいのかもと思えた。ライ病病みになっていても見捨てられない俊徳丸。ということはかなり母性本能をくすぐるタイプなのかもとか思えてきた。
「合邦庵室の場」。玉手の母の吉弥が本当に地味な顔にしているところに驚いた。上方歌舞伎の芝居の達者な役者だと思っているが、あまりにふけ役なのでちょっと勿体ない感じもあり。先代の吉弥の持ち役だった関係での配役のようだ。玉手が「かかさんかかさん、ここあけて」と頼りにしたくなる母になっているところがさすがだと思った。
我當の合邦が娘への情と義理に挟まれて苦悩するところが涙腺を刺激。猿回しの与次郎の時と同じくらいにいいと思った。
ずっと抑え目の能面のようだった玉手の顔が、両親の「尼になれ」という説得を断るあたりからオーバーなくらいの感情表現の顔をつくる。俊徳丸への恋心を吐露する語りが実に立派。このへんが親をもあざむく芝居をしているということなのだろうか。文楽を観た時には本心の発露のように受け止めたのだが、今回はやはり玉手の芝居のように見えた。
真に受けた母はなんとか説得しようとその場に座ってとどまろうとする娘を奥の間に引きずっていく場面も圧巻。藤十郎は引きずられるように見えるようにしながら、ちゃんと小刻みにいざっているのだ。花道でおこつく時の足取りといい、きちんと踊りで足腰を鍛えているからできる動作だろうと実力を思い知る。

匿われていた俊徳丸と浅香姫が逃げようとするのを見つけての玉手の乱行。ここの俊徳丸への執心と浅香姫への嫉妬はやはり本心からのもの。俊徳丸の母に腰元奉公しているうちから芽生えて深く育まれた想いが爆発する。文楽ではこういうところは派手に目一杯あばれるのだが、「蹴落とし」まではやらなかった。扇雀の姫が海老反りになり藤十郎の玉手が上にのしかかって極まる場面も親子で遠慮なくやれているのか、すごい迫力だった。
合邦の刃が娘に刺さった後の本心を明かす場面が凄かった。「恋、じゃない」という台詞の言い方でも端的に示されたように思うが、本当は恋だけどそれは芝居だったことにして義理をきちんと通した形をつくって死んでいくんだというのがよくわかった。愛する男のために死ぬという玉手にとっての本望は果たされるのだから、きちんと世間の義理を通すのだという気概は貫徹される。
最後は藤十郎の玉手は目の周りの朱を溶かした赤い涙で顔中まっ赤に染めてしまう。自ら覚悟で鳩尾につきたてる刀は床に置いて身体を上から倒してという形。確かに弱っているならこの方法だよなぁと納得。肝臓の血を鮑にとって俊徳丸に飲ませると果たして元通りの顔に本復する(歌舞伎の顔の崩れは文楽よりも一部分にしているからサットとればいいだけだ)。
そこに主税助が次郎丸たちの悪事は露見し、俊徳丸を帰参させにやってくる。両親に支えられ、皆が百万遍の数珠をつまぐり、一通り台詞が皆を渡る中でゆっくり目を閉じて落ち入るのだが、その表情には満足が浮かんでいる。

滅多に上演されない場面というのは筋をきちんと把握するには必要だが、復活上演というのは面白くない場面が廃れていたのを復活しているのだし、見せ場がかなり少ないというのもわかった。見取り狂言が増えるのもわかった気がした。
藤十郎は義太夫をしっかり聞かせるので声の通る太夫を揃えている。義太夫狂言をするのにふさわしい座組みにもなっていたと思う。やはり義太夫狂言は力のある上方歌舞伎役者中心の座組みで堪能したいものだ。

写真は公式サイトより今回公演のチラシ画像。
終演後、伝統芸能情報館・情報展示室の「伝統芸能の顔」を見た。歌舞伎の顔のコーナーでは亡くなった松助がいろいろな顔の拵えをした写真が並んでいた。国立の研修の教材だったのだと思う。お元気な顔が並んでいるのがちょっとせつなかった。
そうして駐車場に出てきたら、愛之助が自車に向かっているところに遭遇。白いスポーツカーに乗り込む姿がカッコよかった。スッキリ顔もキープされている~。続いて扇雀、三津五郎、藤十郎とお姿拝見。偶然だが出待ち状態になってしまったのだった。

07/11/18 顔見世大歌舞伎昼の部③仁左衛門の「御所五郎蔵」

2007-11-22 23:59:15 | 観劇

顔見世歌舞伎昼の部の幕間に舞台写真を見に行くのに3階の上手側から階段を降り、1階席の一番前の通路を通って下手の売店に行こうとしたら、アレ?仮花道があるぞ?そうか!「御所五郎蔵」で使うのかぁと思うくらい、歌舞伎座では初めてなのだった。浅草で「五條仲之町の場」しか観ていないのだ。その前の「時鳥殺し」の場はないが、歌舞伎座ロビーに置いてある『歌舞伎座掌本』に説明があったのを読んでおいたのが役に立った。
浅草歌舞伎で観た「御所五郎蔵」七之助・男女蔵版獅童・愛之助版
今回は皐月への愛想尽かしとか逢州殺しの場面があるのを楽しみに観た。

【曽我綉侠御所染(そがもようたてしのごしょぞめ) 御所五郎蔵】
御所五郎蔵:仁左衛門 皐月:福助
逢州:孝太郎 星影土右衛門:左團次
新貝荒蔵:権十郎 二宮太郎次:松江
畠山次郎三:男女蔵 秩父重介:由次郎
梶原平蔵:友右衛門 茶屋女房おわさ:鐵之助           
甲屋与五郎:菊五郎

あらすじは以下の通り。         
舞台は京の五條坂の遊郭の仲之町。侠客の御所五郎蔵が子分を従えて仮花道から登場。剣術指南の星影土右衛門が門弟を従えて花道から登場。両花道を使った渡り台詞をきかせてから舞台で鉢合わせ。土右衛門の門弟たちが五郎蔵の子分たちに痛い目に合わされた遺恨から一触即発となる。そこに茶屋甲屋の与五郎が留男となってその場を収める(座組みによっては留女になるらしい)。
五郎蔵と土右衛門は同じ浅間家の武士だった。五郎蔵は腰元の皐月と恋仲だったのを横恋慕する土右衛門に不義とあばかれて暇を与えられ、土右衛門も皐月のあとを追っていた。
五郎蔵の旧主巴之丞は、昔愛した時鳥に瓜二つの傾城逢州に入れあげて廓に通いつめて金に窮する有様。五郎蔵はその窮状を救うために皐月を女郎奉公に出していた。今では傾城となっている皐月に土右衛門が身請けをするから二百両の手切金で五郎蔵に去り状を書けと迫る。五郎蔵が金策に困っているのを助けるため、皐月は土右衛門の申し出を受けることにする。折りしも皐月に金の工面を頼みにきた五郎蔵に、皆の前で愛想づかしをするよう強要。皐月の真意を知らない五郎蔵は真に受けて逆上、捨て台詞を残して去る。土右衛門が皐月を連れ帰ろうとすると皐月は癪を起こしてしまう。せっかく身請けしたのにかっこがつかないと渋る土右衛門に逢州が皐月の打掛をして身替りをつとめてくれることになった。
外では五郎蔵が行灯を消して土右衛門と皐月に意趣返しをしようと待ち伏せる。暗がりの中で皐月の内掛けをめがけての殺しの場。刺し殺してしまったのは逢州だったことに驚く五郎蔵。土右衛門も応戦してきて死闘になるが、今回は「本日昼の部はこれぎり~」となって仁左衛門、左團次が客席に手をついての口上となって幕。

「五條坂仲之町の場」。冒頭の両花道を使ったベテラン勢の渡り台詞が歌舞伎座中に響き渡るのを初体験。3階B席からは先頭の仁左衛門・左團次の頭が見えるくらいだが、耳で黙阿弥の七五調の心地よさを堪能。
舞台を歩く仁左衛門の男伊達姿。これ以上背が高かったらバランスがくずれてしまうという絶妙のカッコよさ!(蜷川「近松心中物語」の阿部寛の忠兵衛は腰が高すぎて着流しが似合わないことこのうえなかった)
舞台での丁々発止も仁左衛門・左團次だと見ごたえ十分。ここの五郎蔵は文句のつけようのないカッコよさだ。菊五郎の留め男。昼の部はここだけだが、贅沢な配役だ。
福助の皐月はあでやかだった。夫五郎蔵のためのお金欲しさで心ならずの愛想づかしのせつなさが観ている方の心を掴む。ところが五郎蔵が真に受けた逆上ぶりはよく考えるとあまりに愚かだ。必要なのは二百両、手切れ金も二百両というあたりで気がついてもよさそうなのに、カッコだけの頭の悪い男じゃないか、それで皐月と土右衛門を闇討ちにしようとするのだから短気な卑怯者だと思ってしまう。「晦日に月の出る廓も、闇があるから覚えていろ」という捨て台詞もよく考えると情けない。

しかしながら、五郎蔵の行いが馬鹿っぽいほど、間に入る逢州の優しさが際立ってくる。孝太郎の逢州は地味な感じではあるが、巴之丞が通いつめるのもこの性格のよさに惚れこんでいるのじゃないだろうかと思えてしまう。皐月のつらい気持ちも分かり、大事なお客の土右衛門も立てるという身替りが悲劇を生んでしまうというのがせつないばかり。暗闇の中で傾城の名がわかる提灯と内掛けを目印にして斬りつける五郎蔵。内掛けをうまく使っての立回りが綺麗でいい。殺しの場のかどかどの極まりを仁左衛門・孝太郎がきっちり見せてくれて堪能。親子での共演を嬉しく思ってしまった(こういう絡みは初見なのだ)。
この後に滅多に上演されない「大詰 五郎蔵内腹切の場」というのがあって、五郎蔵と皐月がともに死んでいくらしい。そこまであると前の場で地に落ちた五郎蔵の人物的評価も取り戻すことができるというものだ。
その場と「時鳥殺し」の場面もあるバージョンの上演をなるべく早く観たい。ネット検索で調べると「時鳥殺し」 では仁左衛門が時鳥を殺す百合の方をやったのがよかったらしい。「先代萩」の八汐と勝元の二役が本当に素晴らしかったので、「御所五郎蔵」でもそういう二役を観たいという気持ちが強まった。

写真は歌舞伎座の正面に上がった顔見世興行の櫓。
11/18昼の部①「種蒔三番叟」「素襖落」
11/18昼の部②初めて泣けた「吃又」
11/25千穐楽夜の部①「宮島のだんまり」「三人吉三巴白浪」
11/25千穐楽夜の部②「山科閑居」
11/25千穐楽夜の部③菊五郎の「土蜘」

07/11/20 14万アクセスの御礼m(_ _)m、1月の演舞場チケットGET!

2007-11-20 23:59:01 | つれづれなるままに

今朝のうちに14万アクセスを超えました。皆様のご訪問に厚く御礼申し上げますm(_ _)mこれからもよろしくおつきあいくださいますようにお願い申し上げます。

さて、本日は1月の演舞場の歌舞伎会ゴールド会員先行予約日!「通し狂言 雷神不動北山櫻」だ。
フレックスのコアタイムぎりぎりの出勤だったので携帯電話からアクセスして千穐楽の3階B席のチケットをGET!!

それでひと安心したのか、座れていたせいか意識が“空中浮遊”してしまった。居眠りした感じではないのに、気がついたら乗換駅を1駅乗り過ごしている。ショック~。気を取り直して別の経路で出勤。電車賃の無駄遣いをしてしまった。

昨晩の帰路は、乗り継いだ3路線とも人身事故で電車が遅れていて、帰宅するだけで大変な思いをした。しかしよりによって3路線ともそれぞれの場所で人身事故とは驚いた。事故なのかもしれないが、今の日本は交通事故死よりも自殺する人の数がはるかに多い社会になってしまっていることにも思い至ると、気が重くなる。亡くなった方のご冥福を祈りながら、生きることに希望を持てない人がいなくなるような社会になることを願いたい。

写真は「通し狂言 雷神不動北山櫻」のチラシ画像。ご利益のありそうな不動明王であることを期待しよう。

07/11/18 顔見世大歌舞伎昼の部②初めて泣けた「吃又」

2007-11-19 23:58:51 | 観劇

顔見世大歌舞伎昼の部は「御所五郎蔵」より前の3本はあまり気乗りしなかった。またかの「吃又(どもまた)は今回で3回目。最初は2004年6月歌舞伎座の吉右衛門・雀右衛門で観たが面白いと思えず。2回目は三津五郎・時蔵で観てようやく作品を味わえた。そして今回、初めて泣けた。
三津五郎・時蔵で観た時の感想はこちら
【傾城反魂香 土佐将監閑居の場】
今回の配役は以下の通り。
浮世又平:吉右衛門 又平女房おとく:芝雀
土佐将監:歌六 将監北の方:吉之丞
土佐修理之助:錦之助 狩野雅楽之助:歌昇
配役表を直前に確認。実力派揃い踏みのメンバーだったので気を取り直してみたら、いつもはつまらない前半も面白いではないか。

錦之助の修理之助は若手がやるのと段違いのよさ。将監閑居の家の裏に虎を追い込んだ百姓たちを野盗と見込んでのやりとりに、きちんとした武士の気構えや身のこなしがある。事情を把握して師匠へ取次ぎ、歌六の将監との台詞のやりとりがまたきびきびしていていい。錦之助の修理之助には虎を描き消す力があるという説得力があり、それによって土佐の苗字を許されるにふさわしかった。吉之丞の将監北の方が「でかしゃった、でかしゃった」というと観ているこちらまで修理之助に素直に「よかったねぇ」と思ってしまう。この奇蹟の場面でこんなに納得したのは初めてだった。

そこに又平・おとく夫婦が土佐の苗字を許してもらえるよう願い出るためにやってくるのである。前半の奇蹟を重く受け止めると、将監が又平に苗字を許さないのは結局は吃りの又平を軽くみているからだという私のこれまでの見方のウエイトがガグと変わった。修理之助の奇蹟を起こした力と同等の力を示さなければ、師匠としては苗字を許してやりたくても許せないというのも無理がないと思えた。
これまでおとくの台詞でよく理解できていなかったのだが、この夫婦は前に何度も北の方にはお願いに上がっていたこともわかったことも大きい。北の方もとりなしたくてもなかなかできなかったのだろう。だから今回の夫婦の将監への直訴を見守る北の方のせつなさもよくわかる。
又平はうまくしゃべれないので妻のおとくに代りに嘆願させる。師匠の心は動かない。将監の主家の姫が敵方に監禁されたことの報告に雅楽之助が駆けつける。絵で認められないなら姫を取り戻すための主人の使いに立って認められようとする又平だが、吃りでは役に立たないといわれて絶望。
自分でも吃りまくりながらも必死の嘆願。ここの台詞をこれまでは必死に聞き取ろうとしていた私だが、ここは「師匠の苗字が継ぎた~い」というあたりだけ聞き取れればいいのだと今回わりきれてしまったら全く気にならなくてその必死な思いにスッと寄り添えた。そして言葉がすんなり出てこない自分の喉をかきむしったり、役に立たない口に指をつっこんで嘆く姿に思わず涙腺がゆるんできた。

望みを絶たれて思いつめて死のうとするのも死後に苗字を追贈してもらうことに望みをかけているという切なさ。一人切腹しようとする夫に自分も一緒に死ぬから、今生の名残りに師匠の庭の石の手水鉢に絵を描くようにと説得するおとく。描き終えても筆を握った掌が開かないほどに一心に描く又平。又平の放心の表情の吉右衛門の掌を芝雀のおとくが開いてやって両手を握り、「手も二本、指も十本揃いしに・・・・・・」の名台詞に泣かされる!この脚本の素晴らしさにあらためて唸る。芝居の密度も高い!
水杯を交わすためにおとくが手水鉢に近づいて初めて奇蹟に気がついた。「かか、ぬ、抜けた!」の声ですぐに将監が出てきて中国の同様の故事来歴をひいて又平の起こした奇蹟を認め、土佐の苗字を許す歌六の間合いのよさ。「でかしゃった、でかしゃった」と言いながら拝領をゆるされた衣裳と大小を盆に載せて渡す吉之丞の北の方も本当に嬉しそうでここも泣けた(この場面の吉之丞の写真を買ってしまったくらい!)
身体中から喜びをあふれさせて着替える又平。さきほどの悲嘆にくれた表情から愛嬌あふれる笑顔に一転するこの魅力。破顔一笑の吉右衛門の魅力が炸裂する。これにやられるのだ。
修理之助に続いて姫を取り戻すための使いに立つことも命じられるが、口上はいえるのか。実は謡を習っていて、その節に載せれば吃らないから大丈夫ということで謡い舞ってみせるところも吉右衛門の見せ場だ。

この座組みのよさに「吃又」で初めて心を揺さぶられてしまった。こういうことがあるから歌舞伎の魅力の深みにハマっていくのだ。

写真は顔見世興行の櫓の上がった歌舞伎座正面。晴天の青空をバックに青い櫓が美しい。
11/18昼の部①「種蒔三番叟」「素襖落」
11/18昼の部③仁左衛門の「御所五郎蔵」
11/25千穐楽夜の部①「宮島のだんまり」「三人吉三巴白浪」
11/25千穐楽夜の部②「山科閑居」
11/25千穐楽夜の部③菊五郎の「土蜘」