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「チェンジリング」でクリント・イーストウッド監督作品の面白さに目覚め、「グラン・トリノ」で私の目が離せない巨匠の一人に列座させていただいた。
しかしながらスポーツ物は苦手の私。特に国別対抗戦のナショナリズム的ムードがどうにも好きになれずに「インビクタス 負けざる者たち」はなかなか気が乗らなかった。2/11の休日、友人の誘いに乗ってMOVIXさいたまでを観てきたら、その価値観が覆されてしまうほどに素晴らしかった。感想未アップのままだったが、競技は違えど同じ南アのワールドカップに敬意を表して書いておくことにする。
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南アフリカの人種隔離政策(アパルトヘイト)についてはずっと心を痛めていたが、1994年にアパルトヘイト撤廃、マンデラ政権樹立でひと安心。翌1995年のラグビーのワールドカップ開催と優勝が全く記憶にないのは何故かと考えてみたら思い当たった。日本は1月に起きた阪神淡路大震災の悲劇と復興の中にいたのだ。ラグビーの日本チームは弱いしマスコミもあまり取り上げなかったのだろう。
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それでもネルソン・マンデラという人物には関心があったので映画「マンデラの名もなき看守」も観て、尊敬する人物になっていた。
【インビクタス 負けざる者たち】
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以下、概要とあらすじは上記よりほぼ引用。
南アフリカ共和国のネルソン・マンデラ大統領と同国代表ラグビーチームの白人キャプテンがワールドカップ制覇へ向け奮闘する姿を、クリント・イーストウッド監督が描いた人間ドラマ。1994年、南アフリカ初の黒人大統領となったマンデラ(モーガン・フリーマン)は、アパルトヘイトによる人種差別や経済格差をなくし、国をまとめるためには、95年に自国で開催されるラグビーワールドカップでの優勝が必要と感じ、代表チームのキャプテン、フランソワ・ピナール(マット・デイモン)との接触を図る……。
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マンデラが大統領になって官邸に入るとデクラーク大統領のスタッフだった白人たちが解雇を予想して荷造りをしていた。そのスタッフを集めて「私にはあなたたちが必要だ」と語る場面に白人も黒人もまず驚く。黒人が政権をとったら白人たちは排斥されるという思い込みは砕かれる。人種の垣根を越えた組織運営の象徴としてまずANC時代からのマンデラの警護チームに白人を加える指示に、メンバーがとまどいながら信頼関係を少しずつ築いていく様子が実にいい。
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前政権時代に決まっていたラグビーのワールドカップ開催。アパルトヘイトが国際的に非難され、ニュージーランドに並ぶほど強かった南アのチームは国際試合への参加が認められなくなっていた。それが解除されて国際社会に復帰したことを意味するわけだ。しかしながらラグビーはイングリッシュスピーカーが持ち込んで白人が愛するスポーツであり、人種差別の象徴でもある。
その代表チームの扱いが新政権下のスポーツ評議会で取り上げられ、従来のチーム名、エンブレム、ユニフォームを全て変える決定がなされる。そこにマンデラが自ら乗り込んで再議決を提案。今は姑息な復讐の時ではない、敵を赦し敵とともに新しい国を築くことこそ必要だとスピーチし、決定を覆す。
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そして、代表チームのキャプテンをお茶に招き、チームの側の意識も変えるべく語りかける。国際試合からオミットされている間に弱いチームになり下がり、親善試合にも負け続けているチームの強化と黒人地区の子どもたちへもラグビーを教えることを指示。警戒しつつ対面したピナールは一度でマンデラの人柄に魅せられ、大統領に協力する気持ちが湧いてしまう。キャプテンが言ってもすぐにチームメンバーはそれに従うわけもなく、率先垂範しながらのリーダーシップを発揮。マンデラがメンバーの名前をしっかり覚えての激励に心を動かす選手たち。この心を砕くリーダーシップこそが頑ななメンバーの心を動かしていく。
ピナールの家族の様子を描く中で、人種差別意識の強い父親とそうでもない妻という世代による意識の差、家事のために雇っている黒人女性との関係性にも焦点を当てているのがいい。
そしてマンデラも超人ではない。プライベートでは離婚を経験し心に傷を負っている。激務をこなす中で過労で倒れたりもする。愛称の「マディバ」と呼んで、周囲のスタッフが心から支えているし、支えたくなる人物なのだ。
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1964年にマンデラは国家転覆罪で終身刑となり、27年間の獄中生活を送る。そのうち18年を過ごした監獄島のロベン島に代表チームのメンバーが訪れる。世界遺産にもなっている施設でのロケ。その狭い独房に入り、マンデラから教わった獄中生活の心の支えとした詩「インビクタス」の朗読の声がかぶってくる。獄中のマンデラの心に思いを馳せるピナールをマット・デイモンが体現する時、観ている私にもその圧倒的な時間の重さがのしかかってくる。
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「支配者に屈しない」「敵を積極的に赦し和解すること」このことは先に観た映画「マンデラの名もなき看守」の中でも描かれたマンデラの姿だ。
「復讐の連鎖を断ち切る」「赦すことが魂を自由にする」このスタンスを万人が持つようにすることが、人間の精神の美しさ、平和な世界の実現を追求するために一番大事なことだと思っているので、こういう人物が実在したということは人間への信頼を維持するための大きな力になると思う。
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さらにマンデラがこのワールドカップを対立する国民の融和のために活用するというアイデアが素晴らしい。それも黒人が愛するサッカーではなく白人のスポーツのラグビーに黒人の気持ちを引きつけて全国民を挙げて応援できるように持っていくために着々と手を打ち、代表チームもその気持ちに寄り添っていったことが見事なドラマになっている。
決勝トーナメントにすすみ、決勝戦は宿敵のニュージーランド。そこにマンデラ自身が白人の着ていた代表チームのユニフォームを来て現れて両国のメンバーと握手を交わす。マオリ族の戦いの踊り「ハカ」はニュージーランドチームの定番だったのかとあらためて思うくらいラグビーは知らない私だが、ゲームの場面が延々続いても引きつけられてやまない。どんどん気持ちが高揚しする。これがハイレベルのスポーツの持つ力なのかと思い知らされた。
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心の中の大きな壁をも突き動かす大きなパワー。競技場の外で白人の警官たちがパトカーのラジオで観戦するのを傍聴していた物売りの黒人少年がどんどん接近し、勝利の瞬間には人種の意識を超えて手を取り合って喜び合う場面の感動的なことといったらない。
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マンデラの自伝を映画化する時はモーガン・フリーマンに演じて欲しいと本人が希望したこと、それを踏まえた企画に取り組む中で巡りあったこの脚本でクリント・イーストウッドが監督を引き受け、この映画が世に送り出された。
南アの航空機が競技場の上を低空飛行で飛んでの応援とか冗談のような場面も実話だとか!
常識を超えた奇蹟が起き、その後の南アの発展の力となったようだ。
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しかしながら、社会というものは真っ直ぐによくなっていくものではない。そのことがよく分かってきた私だが、その後の南アもご多聞にもれない。マンデラは潔く一期で大統領をひき、その後の選挙でANCが多数派をとると憲法を改正して強制連立条項を削除してしまったのだという。アフリカの中では経済発展している南アだが、貧富の格差は大きく治安が悪いという。
貧富の格差の拡大は世界的な傾向であり、世界平和の追求とともに世界的な課題だが、その前に必要な「人間を信頼する力」を取り戻すために、この映画の描いた真実のドラマは実に素晴らしい効果があるとここで褒め称えておきたい。
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冒頭の写真はこの作品のチラシ画像。
ただいま、サッカーワールドカップの日本の決勝トーナメント初戦中。ちゃんと応援しながらのアップ!