11/22の日曜日にMOVIXさいたまで3時間半の大作「沈まぬ太陽」を観ようと思って、家を出る前にチェックしたらネット画面で観たい昼の回の売り切れを確認。封切後一ヶ月で小さいシアターに変わっているので休日の昼は厳しかったようだ。そこで思い切って仕事帰りに直接観に行ってしまった。
Wikipediaの「沈まぬ太陽」の項はこちら
「Yahoo!映画」からあらすじを引用。
「国民航空(NAL)の労働組合委員長・恩地(渡辺謙)は職場環境の改善に奔走した結果、海外勤務を命じられてしまう。10年におよぶ孤独な生活に耐え、本社復帰を果たすもジャンボ機墜落事故が起き、救援隊として現地に行った彼はさまざまな悲劇を目の当たりにする。そして、組織の建て直しを図るべく就任した国見新会長(石坂浩二)のもとで、恩地は会社の腐敗と闘うが……。
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製作総指揮:角川歴彦 監督:若松節朗
出演:渡辺謙、三浦友和、松雪泰子、鈴木京香、石坂浩二、香川照之、木村多江、清水美沙、鶴田真由、柏原崇、戸田恵梨香、大杉漣、西村雅彦、柴俊夫、風間トオル、山田辰夫、菅田俊、神山繁、草笛光子、小野武彦、矢島健一、品川徹、田中健、松下奈緒、宇津井健、小林稔侍、加藤剛、ほか
御巣鷹山のジャンボ機墜落事故は、事故当時の衝撃が大きく、「クライマーズ・ハイ」を観た時も泣けてしかたがなかった。今回も覚悟はしていたが、冒頭からその場面になるのは予想外でいきなり滂沱の涙に襲われる。
空港で事故機に乗り込む人とそれを見送る家族の場面があって、トラブル発生。機内で酸素マスク着用を促すスチュワーデス、遺書を書き付けるサラリーマン。コックピットでは機長役の小日向文世が必死の形相で操縦し「パワーパワー」の音声を残して・・・・・・。
恩地たちはNALの山岳部員が救援部隊として派遣されるが加害者ということで事故現場には入れず、被災者の家族の対応に回る。事故現場の再現映像も物凄いが、地元の体育館などに遺体が搬送されて家族に確認してもらう場面は、家族の嘆きとそれを受け止める恩地たち職員の心のいずれもが見ているだけでつらい。こういう事故が何故起きたのか?安全対策は十分だったのか?
安全対策にかけるコストはカットされやすいのだ。現場で働く者の組織がきちんと経営側に拮抗できているかどうかが大きな抑止力となる。JRの脱線事故でも然りだが、力の強い労働組合を分裂させることが労務対策の常套手段となる。国鉄の分割民営化もそれがねらいだったと、中曽根元首相が今頃しゃあしゃあと明かしているくらいなのだ。
世の中をよくする運動が高揚し力を発揮すると、それを分裂させて力を削ごうとするのが権力の常套手段。歴史的に繰り返されるのを避けることはできないのだろうか・・・・・・。
恩地がNALの労組の委員長時代には労使の団交で勝利するくらいの力をもっていたのに、委員長を降りた途端の報復人事で海外へ約10年飛ばされている間に分裂させられていた。それを推し進めたのが副委員長として共に闘った行天(三浦友和)だったというのが実につらい。行天の変節はどうやら恩地へのライバル心からだったような気がする。人間的に勝てないというコンプレックスを地位を得ることで勝つことができるはずと思い込んでいたのではないだろうか?
その弱い男にほだされるのが愛人となりスパイ役にもなってしまった美樹(松雪泰子)。弱さから変節する男についていく女の愚かさ哀れさがあった。
恩地の妻りつ子(鈴木京香)は夫がその矜持を貫くことを認め、海外僻地赴任に子どもと共についていく。会社側は従来の海外僻地赴任を連続でさせないという労使慣行を破って、それを圧力に恩地過去の労組の活動についての詫び状を書くことを何度も強要する。恩地は断り続けてパキスタンのカラチ→イランのテヘラン→ケニアのナイロビと転々とさせられる。それは明らかに不当労働行為だと思うが、恩地は母の葬儀で帰国した折に社長に約束が違うと談判しに行き、次はないと約束してもらうだけで裁判を起こして闘うなどはしない。確かに裁判すれば給料はすぐに出なくなるだろうし、会社にもマイナスイメージを与えるだろう。しかしながらそれでも自分の信念を曲げることはしないのだ。
私はこういう職場があることが当たり前の社会であることを肯定することができない。しかしながらどうやって折り合いをつけて生きていくかということなのだろうとは思うようになった。こういう恩地の生き方もあるだろう。ただし、家族のつらい思いにも涙が出てしまうし、耐え抜いて夫として父として認めていったりつ子や子どもたちにも素晴らしさを感じた。
その恩地の海外僻地への異動を不当として闘った書記長の八木(香川照之)は、配属部署でいじめぬかれる。その心の弱みを行天につかれて隠し金作りに利用されるが、最後には自分の命と引き換えに告発する。労組で勝利した光り輝いた時の仲間と一緒の写真をずっと持ち歩いているというのが切なかった。
ようやく国内に戻った後、御巣鷹山の事故である。恩地のモデルになった人物が遺族係になったことはないようだが、そこは山崎豊子が小説化するとき、メッセージを伝えるための重要なフィクション化としてそういう設定にしたのだろうと思える。
事故後の会社の立て直しのため、首相が主導権をとるための会長人事の結果、石坂浩二扮する国見が着任。4つの労組に分かれてそれぞれの利益ばかりを主張して顧客第一の発想を失っている職員をひとつに束ねるために、分裂前の労組での統率力をかって恩地を抜擢登用する。そこで立場を超えて同志として心が通い合わせての会社の改革に溜飲が下がる。
しかしそれも長くは続かない。会長の下に団結するつもりもなく、幹部それぞれが自分の思惑で動いていくし、任命した首相が風向きが変わると辞任を迫るという皮肉な展開。それでもホテル買い取り疑惑の役員の更迭や、八木の命を投げ出しての告発で行天が失脚することが、観ているこちらの悔しい気持ちをなだめる。
地検特捜部で上川隆也が最後に姿を見せることも嬉しい(^^ゞ
それにしても失脚前の行天によって再びナイロビに送られた恩地が見た地平線に沈もうとする太陽が沈まぬ太陽に見えたというのはどういうことだろう。沈み続けることはないということか?!
「陽は沈み、陽は昇り」と「屋根の上のヴァイオリン弾き」の有名な歌ではないが、人間の社会も人生も常に希望に満ちた時ばかりではなく絶望の時ばかりでもない。その中でどう信念を保ち続けながら生きていくかということが問われるということだろうか?!
ちょうどそんなような気持ちで生きている今の私にとっては、胸がいっぱいになるような作品だった。
JALが墓穴を掘るように小説化の時も映画化の時も、会社に誤まったイメージをもたれると非難のキャンペーンを張っているのが笑える。そんないろいろな逆風の吹く中を映画化を実現したスタッフたちに、感謝と応援のエールを贈りたい。
写真は東宝の公式サイトよりチラシ画像。
主人公・恩地のモデルとなった小倉寛太郎氏の著書『自然に生きて』の紹介