ぴか の観劇(芸術鑑賞)日記

宝塚から始まった観劇人生。ミュージカル、ストレートプレイ、歌舞伎、映画やTVドラマ等も書きます。

07/04/07 心が洗われる「筆子その愛~天使のピアノ」

2007-04-19 23:58:56 | 映画(映画館、DVD、TVを含む)

玲小姐さんから大宮ソニックシティホールでの上映会に誘われた。知的障害児の施設をつくった女主人公を常盤貴子が演じる「筆子その愛~天使のピアノ」。
映画の公式サイトはこちら
すぐに「行く行く」と返事したのは、NHKの『その時歴史が動いた』で「小さき者のともしびは消さず~石井筆子・知的障がい児教育への戦い」(番組の概要はこちら)を先に見ていたからだ。
現代ぷろだくしょんの作品だが、プログラムを買って読んだら以前「賀川豊彦物語」を生協の上映会で観たことがあるのを思い出した。監督が山田典吾で、製作が山田火砂子だった。今回の映画はその彼女が監督していたのだ。

主な出演者:常盤貴子、市川笑也、渡辺梓、加藤剛、小倉一郎、星奈優里、ほか
あらすじは公式サイトを読んでいただくとして、キャストへの感想を中心に書く。
主人公の筆子の常盤貴子。昨年観た「タンゴ・冬の終わりに」では綺麗だけど台詞まわしは硬く、やっぱり舞台向きじゃないなぁというのが率直な感想。ところがこの映画では素晴らしい存在感をみせる。明治時代の才媛という役柄がぴったりだ。そして芯はしっかりしながらも、あくまでも上品でおっとりした感じが出るのは、彼女の目の魅力によるところが多いと思う。

その筆子に仕える藤間サトの渡辺梓。子どもの頃に奉公にきて優しくしてくれた主人の娘を尊敬し、結婚もしないで一生つくすのだ。筆子の知的障害をもった娘幸子にもわが子のように愛情を注いだ。地味めなキャラが役にぴったりハマっていた。筆子の父が許さない再婚を一命を賭して許しを乞う直訴をする場面はすごい迫力だった。さすが無名塾出身である。

その筆子の父を加藤剛。TVの「大岡越前」でおなじみだったが、だいぶ年をとられたようで痩せていた。明治維新を担った士族で華族になったという明治の気骨のある父親そのものだった。
さて、一番のお目当ては澤潟屋の市川笑也。筆子が再婚する石井亮一の役だ。育ちがよいのにクリスチャンとなり恵まれない人々のために私財も投げ打って身を粉にしている人物を好演していた。藤間紫主演の「西太后」で腹心となる宦官の役がすごくよかったので、笑也が男の役をやるのはけっこういいと思っていた。今回の役も彼の品のよさ・物腰の柔らかさが二枚目ぶりともども本当によかったと思う。そして高額の寄付と引き換えに美女の誉れ高い筆子に取りに来させようという俗物の申し出をきっぱり断ってきたのを筆子がやんわりからかう場面。彼女をキッとにらみながら「あなたは私の妻なのですよ」と言った場面の男の可愛さあふれる表情。またまた見直してしまった(^^ゞ

亮一もサトも惚れこむ筆子という人物。常盤貴子が演じたことで説得力がある映画になっていたと思った。そしてこの映画を支えたのは知的障害を持つ子どもたち。難しい役は健常児の子役がやっていて、幸子役はなんとミュージカル「モーツァルト!」のアマデで評判になっていた黒沢ともよちゃんが頑張っていた。そして、実際に障害を持つ子どもたちの存在感が映画を底支えしている。“天使のような”という表現がまさにふさわしい!そして子どもたちも綺麗な常盤さんとの共演を心底喜んでいたのが表情にもあらわれていた。

山田火砂子監督にも知的障害を持つ娘さんがいて、この作品にも出演されている。同じような人たちがこの時代には「白痴」とか「痴愚」とか言われて人間として扱ってもらえなかったことの説明の場面で、座敷牢に入れられている娘さんの役。
山田監督が同じ立場の人々への応援のためにつくった映画だということが、よく伝わってきた。現代ぷろだくしょんの映画は社会的弱者にスポットをあて、同じ人間として温かく支えあっていくというテーマの作品が多いようだ。「賀川豊彦物語」にも共通するものがあったのを思い出す。

さて今の日本。社会的弱者にどんどん冷たい国になってきている。「受益者負担」という言葉をかざすようになってずいぶんたち、ついに「自立支援法」の名のもとに支援を受けるのを「受益」ということにして利用料を一律に徴収するようになってしまった。これは「受益」という概念が正しいのだろうか。まやかしだと思う。そもそもの考え方のめざしている方向が間違っている。「公平性」の概念をごまかして使っているだと思う。それを打ち破るために、社会的弱者を包み込んでいける社会のあり方、ひいてはそこに生きる人間の心のあり方を見直していく必要があると思う。この作品はそのために大きな役割を果たしてくれると思えた。「心が洗われる」、そんな言葉がぴったりだ。

また、筆子に関しては「無名の人~石井筆子の生涯」という映画もあるようで、そちらはしっかりと生きた女性ということに焦点があてていると思われる。上映会一覧を見ると全国のお役所の男女共同参画推進企画っぽいところがほとんどだった。お役所ウケするような視点になっているのかもしれない(そちらの映画の公式サイトはこちら)。
写真は映画のチラシの画像。