ぴか の観劇(芸術鑑賞)日記

宝塚から始まった観劇人生。ミュージカル、ストレートプレイ、歌舞伎、映画やTVドラマ等も書きます。

07/03/26 歌舞伎座「義経千本桜」千穐楽!仁左衛門の権太!!

2007-04-02 22:07:44 | 観劇

3/18に昼の部だけで帰れなくなって幕見してしまい、千穐楽でも堪能した仁左衛門権太編、ようやくアップだ。
「木の実」~「すし屋」の主な配役は以下の通り。
いがみの権太=仁左衛門  女房・小せん=秀太郎
父・鮓屋弥左衛門=左團次  母・お米=竹三郎
妹・お里=孝太郎  弥助実は三位中将維盛=時蔵
若葉の内侍=東蔵  主馬小金吾=扇雀
梶原平三景時=我當
昨年の十八代目勘三郎襲名披露全国公演での感想はこちら
今年の新春浅草歌舞伎での愛之助権太の感想はこちら
4.四幕目 木の実・小金吾討死
【木の実】
大和の下市村の街道が賑わう中、茶屋の女将が子どもを遊ばせながら商売をしている。登場から秀太郎の小せんがいい雰囲気で期待が高まる。そこに平維盛の妻子が家来の主馬小金吾とともにやってきて一休み。東蔵の若葉の内侍は実におっとりしているし、六代君は先代萩の鶴千代だった下田澪夏ちゃん!扇雀は小金吾初役ということだが前髪姿もきりりと決まる。
小せんが頼まれて薬を買いに行っている隙に仁左衛門のいがみの権太登場。椎の実を落としてやった親切ごかしから荷物をすりかえての因縁づけで悪党に大変身。この札付きのワルになった時の目つきが鋭くてカッコイイ!小金吾の抜きかける刀の柄を押さえる足も長くて絵になる~。長身が生きる権太だ。扇雀のキィキィと切れかかって我慢させられて目尻を吊り上げるところもけっこう気に入る。ここでも東蔵がおっとりと止めるその重みが活きた。

まんまと20両せしめたところへ女房の小せんがとがめだて。隠れ売女だった小せんに入れあげたから悪の道に入ったと反論されてもじもじする秀太郎が絶品。今日は一緒に帰ってと息子に言わせると、権太が相好をくずしておんぶする。ここで赤い巾着袋に入れた笛を預かるところが味噌なんだね。一緒に帰るところで女房の後姿を褒めたりしてアツアツムードを漂わせながらの引っ込みに、上方歌舞伎のじゃらじゃらの見せ場を堪能~(じゃらじゃら大好きなので!)。

【小金吾討死】
ここの定番の縄を使った立ち廻りに板橋の舞台でも感心したのだが、歌舞伎座の大きな舞台で見るとさらにさらにスケールアップ。竹の大道具もうまく使っての大立ち廻りも見ごたえアリ。小金吾が息絶えたところに通りかかった権太の父のすし屋の弥左衛門。左團次は初役とのこと。本当に気のいい親父さん風で「すし屋」に期待が高まる。

5.五幕目 すし屋     
弥左衛門が営むつるべ寿司で元気に働く看板娘のお里。孝太郎の登場に可愛い~と思ってしまった。父が連れ帰った雛には稀な美男の奉公人弥助に心底惚れこんでいる田舎娘の番茶も出花的な可愛らしさが身体中から立ち上っている。弥助との祝言もゆるされて夫婦ごとのお稽古のじゃらじゃら場面の孝太郎の目と口の可愛らしさといったらない。孝太郎をこんなに可愛く思えたのは初めてだった。孝太郎のお里が絶品。今回初めてピンときたこと。娘が間違いを起こすといけないからと祝言をゆるしたという弥左衛門の台詞。確かに想いをかなえさせないと騒ぎまくって維盛を匿っていることが露見しそうな恋狂いのお里。それを抑えるための祝言の約束だったんだなぁということ。
時蔵の弥助の優男ぶり、弥左衛門に上座に直されて維盛の本性になってからの気品がまたいい。若葉の内侍親子の来訪で身分違いの恋をあきらめ、三人を落ちのびさせるお里のつらさがどれほどのものかと思わせる二枚目の風情だ。この偽りの祝言約束のせつなさが今回は実に際立って感じられた。そこまでして逃した維盛たちを兄の権太が敵方に売ってしまった。父にそれを訴えるお里の真剣さも無理からぬ。

権太が父の不在時にやってきて、母に年貢が払えないと泣きついて金を引き出す場面。竹三郎の母は夫を気遣って最初はつれなくしているものの、権太の嘘涙に簡単にほだされる。嘘涙の場面で足をつねる→舌を出して舐めようとする→寿司に使う葉蘭の入れ物の水を使うなど、たたみこんでいくのが可笑しい。さらに首をくくる真似をしたてぬぐいを取り上げた母の膝に長身を小さくたたんでスルッと身体をすりつける甘え上手。ところが目つきは下心アリアリというこの芝居。やられてしまう!!権太が煙管で金庫を開けてしまうのを竹三郎の母が「器用な子じゃ」と褒める馬鹿母ぶりがまた可愛く見えてしまう。
寿司桶に入れた金と生首がすり替わるのをお客は目の前で見せられて知っていてこれからの悲劇にどんどん引き込まれてしまう作劇の巧みさ!

詮議に来た梶原景時の我當は独自の解釈で白塗りで鎧なしの拵え。松嶋屋兄弟がずらっと並ぶ悲劇の幕切れへ。梶原の前に権太は維盛の首と縄にかけた内侍親子を突き出す。親子の顔を上げさせる時の形も決まって美しく悲しい。本物の火を焚いた松明の煙に目がしみると涙する仁左衛門権太。さるぐつわがマスクみたいになっていて目しか出ていないけれど、この目が物を言う。引かれていく小せんの目がじっと権太にからむのを見なければいけない。

褒美の陣羽織を着込むのが仁左衛門権太。自分の謀の成功に嬉しげに「親父殿」と呼びかけたところを父に刺されてしまう。ここからの権太の「戻り」。権太はこれまでの親不孝を改心し忠義を通すためにした大芝居の真相を話し、「木の実」で預かった小笛を腹の痛みに耐えながら吹いて維盛たちを呼ぶ。身替りにたった妻と子を縛るに縛れずに血を吐く想いをしたことを語る場面、私も娘も双眼鏡のこちらの目は涙腺決壊。「木の実」からの上演だとこの場面の悲しさが何倍にも増す。隣からティッシュをとられてまた出して涙を拭く。ハンカチなんて素直に出してないんだよね。

あまりにも甘やかされて育った息子で、女で身をくずしたワルで、憎めない人間として造形した仁左衛門権太の人間くささに心底やられてしまった。またこの家族の愛憎の深さがせつない。孝太郎のお里、秀太郎の小せん、我當の梶原と松嶋屋の揃ったこの世話の芝居の味わい深さを堪能した。そういえば昨年3月の松嶋屋が揃った「道明寺」の感動も思い起こされる。松嶋屋の芝居、好きだ~。

写真は今回公演のチラシから仁左衛門の権太のアップ画像。
以下、この公演の別の段の感想
「序幕 鳥居前」
「二幕目 渡海屋・大物浦」
「三幕目 道行初音旅」
千穐楽「川連法眼館/奥庭」
追記
権太が一世一代の大芝居を打ったのに全て無駄だったという終り方が悲しい。これまで騙ってばかりいたから「己の命を騙りとられた」と最後に悟って死ぬのだが、仁左衛門権太の台詞に、実に因果応報の物語なんだなぁとしみじみしたことも書いておきたい。救いは息子の善太(?!)から預かった赤い巾着。それを頬にあて、合掌の間にもしっかりと挟んでの死出の旅立ち。妻と子に再会できるのは三途の川か(T-T)