ぴか の観劇(芸術鑑賞)日記

宝塚から始まった観劇人生。ミュージカル、ストレートプレイ、歌舞伎、映画やTVドラマ等も書きます。

07/04/06 帝劇凱旋公演初日「マリー・アントワネット」が大化け!

2007-04-06 23:54:54 | 観劇

昨日も書いたが、急遽「マリー・アントワネット」帝劇凱旋公演初日を観にいくことにしたが、大正解~!!
昨年12/23に観た東京公演の感想はこちら
遠藤周作の原作の小説を読んでからだいぶ月日が過ぎたので、ミュージカル作品として割り切って観劇に臨んだのもよかったのかもしれない。大阪公演からだいぶ演出も変わっていたということも聞いていた。そして一部のキャストが変わることにも期待していた。また二人の「MA」のうちのマルグリット・アルノーの笹本玲奈を観ていなかったのでそちらで観なくてはというのもあり、帝劇凱旋公演初日が笹本マルグリットだったということもあった。
とにかく急遽エイッと初日を観たら、印象が一変してしまった!

まず、ボーマルシェの山路和弘は大劇場を仕切る自信がついたのか自在感が増し、堂々たる狂言回しぶり。山路の押し出しが強くなったことで芝居にまず一本太い芯が通った。以前観た時はカリオストロやオルレアン公とからむ場面はかすんでしまう感じがあったが、ボーマルシェがきちんと並び立っているのを観てひと安心。
笹本玲奈のマルグリットは貧しい花売りの時も垢抜けない感じがあっていい。貴族のボーマルシェに騙されたことに怒ってパレロワイヤルに乗り込んでいくのもただの勝気さからだったのに、アントワネットの仕打ちに傷つけられ、庶民に目を向けない貴族たちへの失望や悲しみを歌った「百万のキャンドル」がまず胸を打つ。

新キャストの今拓哉のフェルセン。アントワネットに代わってマルグリットに謝罪する場面も大人の雰囲気が出ていていい。愛する人の至らないところを影ながらフォローするところに大人の男ぶりが無理なく漂ってくる。ここの場面、フェルセンとアントワネットの二人に関わるマルグリットの出発点だったんだとあらためて思った。
フェルセンとアントワネットの恋も運命的に出会ってしまって育んできた大人の忍ぶ恋の切なさにあふれている。今拓哉の目の芝居が切ない~。そして大人の男だ~。アントワネットの欠点も含めて愛しているという想いが全身からにじんでくる。こういう男だからこそアントワネットは心の底から頼れるし、全身から甘え切った様子を漂わせる涼風真世アントワネットが一段と可愛く見える。最強のコンビの誕生だ。

もう一人の新キャストの鈴木綜馬のオルレアン公。眉なしは高島政宏と同じだが、目の下の赤いラインと口裂ラインが入っている。思い出した、映画「デスノート」でCGで登場していた死神リューク(声が中村獅童の方)にそっくりだ。顎を突き出して目を剥くから白目が大きくなるところもリュークそっくり。あくまでも貴族なのだから下品にならないようにして欲しい役なのだが、そこは全く問題なし。これまでの「綜馬さま」からは考えられない異常キャラぶりで客席がざわめく。エプロンステージで「私こそがふさわしい」とソロで歌った後、拍手がやまずボーマルシェが客席を鎮めるショーストップ状態になる。

山口祐一郎のカリオストロ。錬金術師という位置づけが相変わらずわからない役柄なのだが、物語全体への支配度を増し、登場人物それぞれを動かしているからみが増えている感じがした。そういったあたりも無理なく存在感がはっきりした。最後の牢獄の場面での歌が一曲増えていたのかな。
石川禅のルイ16世も相変わらずに愚鈍だが憎めない国王のとぼけた味をうまく出していたし、長男が死んだ時の嘆きの歌でアントワネットともども涙いっぱいの感情のこもった場面にこちらもやられる。この夫婦のコンビもますます熟成がすすんだようだ。

今回のマルグリットは少しずつ少しずつ変化しているのがわかる。マダムラパンとのエピソードも今回はすんなり受け止められた(原作からの脱却がすすんだ)。土居裕子のアニエスも若いマルグリットの暴走を要所要所で締めているのがよくわかった。革命の暴走におかしいときちんという場面も今回はより伝わってきて違和感が少なくなった。それもちゃんとマルグリットに影響している。
牢獄で見張り役として小間使いになった時、自分が知っている子守唄を歌っているのを聞いてあんなに憎んでいたアントワネットに自分と同じ人間の姿を見る(ここがミュージカルらしい!)。そして最後のフェルセンとの逢瀬もとりはからってやるということまでする。
牢獄での最後の王妃たちの逢瀬も激しい燃え上がり(こんなに激しいキスシーン、ミュージカルであり??)とすぐに訪れる永遠の別れ。これは切なすぎる。

革命の側にいたはずなのに、単純に敵として憎みきっていた王妃を同じひとりの人間として最後を見届ける気持ちにまでなったマルグリットの人物像を無理なく見届けることができたのは笹本怜奈の成長と演出の改善の両方があるのだろう。
前の公演では最後のギロチンシーンからすぐにカーテンコールを続けていた。アントワネットがギロチン台から降りてくる登場が悪評だった。そこがちゃんと変わっていた。暗転でギロチンがなくなって普通の登場になったのもホッとしてのアンコール。さらに指揮者の塩田氏が演奏を続ける。もしやと思ったらやっぱりドレス姿で涼風真世が再登場。やっぱりこういう方が最後は嬉しい。

さらに初日だけに涼風真世がご挨拶。
博多座→大阪→東京凱旋と帝劇に戻ってきたが手を入れ直し入れ直してずいぶん変わっていることにお気づきでしょうと口切。昼の舞台稽古で栗山民也氏から「人間の尊厳ということについて公演期間中、考えてほしい」というお話があったことを胸に刻んだということにも触れ、栗山さんらしいなぁと聞いていた。
今回公演からの新キャストの紹介の後、笹本怜奈が菊田一夫演劇賞をとったことも紹介された。まさに納得の演技だった。
そしてさらにドイツ公演が決定したということで、ドイツの劇場のフライ氏を舞台に呼んでご挨拶をいただいた。2009年1月で企画がすすんでいるという。これでまさにクンツェ・リーヴァイ作品の日本で世界初演ということになるわけで喜ばしいことだ。

まったくチケットをとらずにいた公演だったが、予想以上の大化けで嬉しくて仕方がない。プログラムは2ヶ月公演で今回公演の写真が入ったバージョンはまだ未定ということだった。もう一回くらい観るかもしれない感じになってきたので、しばらく様子を見て買いたいと思う。
昨年で懲りたという方も、一回はこの凱旋公演を観ることをおすすめしたい。

写真は帝劇初日看板。以前と違ってシックな色合いになっていてそれも嬉しかったので撮影。