Piano Music Japan

シューベルトピアノ曲がメインのブログ(のはず)。ピアニスト=佐伯周子 演奏会の紹介や、数々のシューベルト他の演奏会紹介等

グルダは真実のみを語るのか?(No.1855)

2011-05-10 08:35:51 | 作曲家兼ピアニスト・グルダ(1930-2000)

謎の録音 1978.09(release 1990) Mozart Sonata K.570 & K.576, Fantasie K.475, Munchen(?)(Perhaps Gmunden), Steinway, DG 4310842


 本日はこの1枚について書く。グルダがまだ元気だった1990年にドイツグラモフォンから新譜が出た。購入して封を切ったら、1978年9月録音と書いてあった(爆
 「グルダ モーツァルトソナタ全集録音」の話を聞いていたし、MPSレーベルが "DG-Philips"に買収されたことは、「バッハ平均律全集」がフィリップスレーベルから発売されたことで知っていたので、「ついにMPS録音の全集第1弾が発売になったのか!」と喜んだものだった。だが、その割りには宣伝がほとんどされなかった上に、2枚目はいつまで経っても発売されなかった。MPS録音の全集第1弾では無かったからだ(爆


 昨日号の「録音一覧」のスタッフ欄をご覧頂きたい。これは "Message from G" のスタッフ陣が録音している。翌月10月13日と曲目が2曲(K.475&K.570)が重複しているが、なぜかスタインウェイを使用している。音像は10月12日のグルダ自作と瓜2つ。ノイズは無い。

Friedrich Gulda 1930 - 2000


 グルダHPの「年表」だ。1978年欄をご覧頂きたい。

1978 : Friedrich Gulda performed three concerts, in Gmunden (15 -17 September), Vienna (12, 13 und 15 October) und Munich (17, 23 und 24 October) respectively, playing classical piano music for the first time in a long while in front of an audience, together with his own compositions and “Freie Musik“.


 グルダは「細心の気配りができるピアニスト」だった。1953/54年に「ベートーヴェンピアノソナタ全32曲連続演奏会」をウィーンで実行した際も、Klagenfurt, Vienna, Linz, Graz, Salzburg の5都市で並行開催した。
 グムンデンと言う都市は、シューベルトが交響曲「グレート」D944やピアノソナタ第17番ニ長調作品53D850 を作曲した場所だが、他にはあまり有名とは言い難い。「グルダ年表」にも "Gmunden" が出てくるのはこの1ヶ所だけだ。つまり

グムンデンの演奏会は「ウィーンの演奏会の予行演習とリハーサルを含めた録音のため」の演奏会


である。

"Message from G" は「グルダ自身が全費用を負担してのLP全世界発売」


だった。失敗は絶対に許されない。ウィーンのムジークフェライン大ホールを2日、コンツェルトハウス大ホールを1日、勿論自腹で借りて、録音スタッフを雇って(ブルンナー=シュヴェル はパトロンから降りた!)、一世一代の大博奕を打ったのだ。録音スタッフはおそらくウィーンのグループと推定される。(グルダは当時、ヴァイセンバッハに住んでいたからウィーンのメンバーの方が打ち合わせが楽だった。)ウィーンからあまり遠くなく、響きが似た(できれば小さな街の)ホールで予行演習は実行するのが最適だ。ウィーンの演奏会のほぼ1ヶ月前にグムンデンで「3日連続」で借りることができた。(ウィーンほど、スケジュールが混んでいなかっただろうなあ)

 グムンデンの演奏会のプログラム詳細は誰も知らない。モーツァルトのK.576が入っていてK.397が抜けていた可能性が高い。「グムンデンの演奏会の曲目のリハーサルを収録」が最も考えられることだ。ピアノがスタインウェイだったのは、おそらくホールにベーゼンドルファーが無かったからだろう。前年1977年のアマデオ録音モーツァルトでも1ヶ月後のウィーンの演奏会でも、ベーゼンドルファーインペリアルを使用しているのに! ウィーンやミュンヘンの連中に嗅ぎ付けられないように小さな街で行われたグムンデンの演奏会はグルダの予定通り収録された。そして、「ウィーンの演奏会」もグルダの予定通り収録までできた。「騒ぐヤツ」が全く出なかったからだ。

もっともみなさん、しつけがよろしいようで、無作法なことはなさらないから、ただ出ていっただけさ。そう、三、四割は退場したかなあ。(グルダ著「グルダの真実」P24)


 なるほど(爆

 「ウィーンの演奏会」が大成功に終わり、危惧された妨害行動も無かったので、ミュンヘンの演奏会は「出張録音」しなかった様子。(万が一の時は、勿論「ミュンヘンでも収録」だったことは容易に推察できる。)演奏会は実行され、グルダHP上から「第1夜 バッハとグルダ」の Baldur BOCKHOFF の批評が掲載されている。ミュンヘン初日はウィーン初日のわずか5日後なので、「全く同じ曲目」で演奏された可能性が高い。「グルダがバッハを弾く!」と言うので、わずか4年前に「平均律全48曲を新譜で世界発売」していたからピアノで聴ける、とボクホフは思っていたのに、クラヴィコードを聴かされてしまった様子が伝わって来る(爆

 ・・・と言うワケで、グムンデンのリハーサルを収録したテープは余ってしまった。原盤権はグルダにある。1982年までは「MPSでモーツァルトソナタ全集」発売の意志があったので、さすがのグルダもこの録音は売らなかった。
 おそらく1982年後半、どんなに遅くても1983年5月より前に、グルダはブルンナー=シュヴェルと決定的に喧嘩別れした。ブルンナー=シュヴェルがMPSを会社まるごと売ってしまったほどの迷惑を掛けたからだ。結局、MPSは「グルダのモーツァルトソナタ全集」は発売しなかったまま、会社をコカしてしまったのである。


Friedrich Gulda. Aus Gesprächen mit Kult Hofmann. Langen Müller Verlag, 1990


が出版された。1980-1990のグルダのインタビューをまとめたモノ。

日本語訳「グルダの真実」グルダ著田辺秀樹訳


である。P52に次の記載がある。

ところが、モーツァルトの場合は微妙なんだ。これまでさんざんいろいろと試してみたけど、自分でもどうするのがいいかわからない。現在はまたスタインウェイにしようかと思っている。そう、じつにやっかいな問題さ。


 この本が出版された年に "謎の録音 1978.09(release 1990) Mozart Sonata K.570 & K.576, Fantasie K.475, Munchen(?)(Perhaps Gmunden), Steinway, DG 4310842" は発売された。続いて Sony から、"K.537, K.475+K.457, K.492" と "K.397" のミュンヘンライブがリリースされた。この2つのライブ録音は「拍手別録り」を後から加えたことで悪評が高い(爆

1990-91 Sony盤では、K.537だけベーゼンドルファーインペリアルで、K.475+K.457, K.492, K.397はスタインウェイ


 おそらくK.537だけウィーン録音、他が全部ミュンヘン録音である。K.397はグルダが「公式に」録音した最後のCDとなった。こうして見ると

謎の録音 1978.09(release 1990) Mozart Sonata K.570 & K.576, Fantasie K.475, Munchen(?)(Perhaps Gmunden), Steinway は「スタインウェイでモーツァルト全曲録音の第1弾」にするつもりの発売


と推察される。第2弾も第3弾もミュンヘン録音だったので「第1弾もミュンヘンでいいだろ!」ってなノリ(爆

 これが「グルダの真相」である!

グルダは、ウィーンで生まれ、「ウィーンのピアニスト」として1枚目の協奏曲録音から「ベーム指揮ウィーンフィル」だったが、最後の最後の録音は「愛妻ユーコと幼き日のリコと過ごしたミュンヘン」を終焉の地に選んだ。


 冒頭の曲は「リコのために」。この曲唯一の「ピアノソロ録音」である。ウィーン近郊のヴァイセンバッハに住んでいたのに、毎年毎年ミュンヘンにわざわざ録音に出掛けている。グルダは細心の注意が行き届いた音楽家なのだ。

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