Piano Music Japan

シューベルトピアノ曲がメインのブログ(のはず)。ピアニスト=佐伯周子 演奏会の紹介や、数々のシューベルト他の演奏会紹介等

グルダは真実のみを語るのか?(No.1857)

2011-05-12 16:30:34 | 作曲家兼ピアニスト・グルダ(1930-2000)

the GULDA MOZART tapes 10 sonatas and a fantasy (K.330, K.332, K.333, K.279, K.280, K.281, K.282, K.283, K.475, K.545, K.311) DG 00289 477 6130(3CD)



  1. Recording:?Hotel Zur Post, Weißenbach am Attersee,winter 1980?


  2. Execlusive Producer:Rico Gulda


  3. Tonmeister(Balance Engineer):?Hans Klement?


  4. Remastering:greenlight Studio


  5. Project management:David Butchart


  6. Piano:?Bosendorfer Imperial?


  7. FRIEDRICH GULDA'S SENSATIONAL MOZART


  8. First-ever release of 11 new recordings


  9. Rediscovered after 25 years


  10. Previously unpublished photos in CD booklet


  11. "I've been preparing for this for a long time. I wanted to know how this music feels. I can now say that it feels marvellous."


  12. Taped in 1980 - and now released for the first time ever - these recordings are a unique document of FRIEDRICH GULDA's spellbinding, razor-edge Mozart.



 本日は上記CDを詳述する。2006年に新発売されたこれまた「謎のCD」である。必ずDGから発売になるところがミソ(爆

Claus SPAHN: "Gulda plays Mozart sonatas" Newly discovered recordings from 1980


と言う長い長い解説文が掲載されており、ご丁寧にもヴァイセンバッハの "Hotel Zur Post" でベーゼンドルファーインペリアルを弾くグルダの写真が5頁に掲載されている。主張は以下に要約できる。

  1. 1981.02 グルダはミュンヘン、パリ、ミラノで「3回連続モーツァルトソナタ演奏会」を作曲順に演奏した(全曲とはどこにも書いていない)
  2. 住んでいた街のホテルにベーゼンドルファーインペリアルがあり、ホテルは夏期がかき入れ時で冬に録音した
  3. ハンス・クレメントが録音技術担当したが、グルダが次いでクレメントが亡くなってしまい、「マスターテープ」の行方が不明になってしまった
  4. 三男リコ・グルダが「カセットテープコピー」を所持していたので、それから復元した

 本当かな? アルバート・ゴロウィン(グルダの変名で「ウィーンの下町で歌っている歌手」という設定だった)が出てきそうな話ではないか(爆

 早速冒頭から聴いてみよう。ピアノはスタインウェイD。音は「バッハ平均律」と同じ。あれれ? どうなってるの?? K.330もK.332もK.333も全部同じだ(爆


 この3枚組CDが発売できることになったのは

2004.10.14 MPS Hans georg BRUNNER-SCHWER died


である。
 1983.06 に既にMPSをフィリップスに売り渡していたが、1時代を築いた大プロデューサーである。グルダ死去後も、会社をコカす原因を作った「グルダのMPS関連の大作品」は「バッハ平均律」以外は何1つCD化されなかった!(← これ本当)

2004.10.14 まで「CD化」されなかったMPS グルダ 主要作品一覧



  1. 1969 DEBUSSY "Prelude"(2007)
  2. 1970 BEETHOVEN "Diabelli-variationen"(2009)
  3. 1971 "the long road to freedom"(non CD)
  4. 1973 "Midlife Harvest"(2005)
  5. 1978 "Message from G"(non CD)

 上記リストをご覧になるとわかるが、ブルンナー=シュヴェル死去後、真っ先に "Midlife Harvest" をCD化する。分厚い48頁建ての解説書の46頁にこのCD化について明記されている。

"MIDLIFE HARVEST":Dedicated to the memory of Hans Georg Brunner-Schwer(July 29,1927 - October 14,2004)


「人生半ばの収穫」:ハンス・ゲオルグ・ブルンナー=シュヴェルの逝去に献呈


 グルダの生没年は記載されていない。ブルンナー=シュヴェルの遺族に謝意も表している。「グルダ遺族」は、ブルンナー=シュヴェルの素晴らしい業績に敬意を表したのだ。(ブルンナー=シュヴェル遺族が許した、ことも付記しておこう。)そして、その次に着手したプロジェクトは、ドビュッシーでもベートーヴェンでもなく、モーツァルトだった。ここで大問題が待っていた。

MPSのグルダ「モーツァルトソナタ集」はマスターテープが存在せず、カセットテープコピーしかこの世に存在していないこと!


 この世の中に「不正規録音」は数多くあるのだが、大概は「放送録音コピー」(← チェリビダッケに多い)か「演奏会場膝上闇録音」(← カラスに多い)である。「スタジオでセッション録音したのに、マスターテープが無い」はあり得ない設定なのだが、グルダに限って実在していた。

「グルダの真実」P47:ソロで録音したモーツァルトは一つあるけど、俺はいいと思っていない。いずれもっと年をとってから、もう一度やってみようと思っている。モーツァルトのソロは、気合いを込めてやらなくちゃあね。俺はかつて、スタジオでモーツァルトの全曲を録音したことだってある。ものすごく苦労して、細心の注意を払ってやったものの、結局ボツにしてしまったんだ。レコード会社は頭に来てたさ。なんてもったいないことをするんだ、ってさんざん文句を言った。でもカネが全てじゃないからね。俺は平然とこの録音テープを捨てちまった。


 「狂人」である。1987-1990年の発言。但しいくつか「ホラ」が混じっている。

  1. 全曲は録音していなかった様子
  2. 録音テープは「マスターテープ」は捨てたが、「カセットテープコピー」はリコ(三男)、パウル(二男)、ウルズラ・アンダース(愛人)の誰かには渡していた

 ブルンナー=シュヴェルには「あんなモノ捨てちまったよ!」と言っていたハズだ。だが、こっそり家族に「もしかして、オレ様が若死にしてしまった時には、このカセットテープコピーを使って荒稼ぎするんだぞ」と伝えてあったような気がしてならない。

 ここで「なぜグルダにカセットテープコピーが渡っていたのか?」を説明しておこう。「グルダ:モーツァルトソナタ集」プロジェクトは「プロデューサー=ブルンナー=シュヴェル」だった。マスターテープ作成はブルンナー=シュヴェル側行う。演奏家=グルダが確認できるように「音源」を渡す必要がある。21世紀の今ならば、MP3ファイルとかCD-Rとかになるが、1982年にCDが発売される前は「カセットテープ」が最も手近なメディアであった。MPSは当時「BASF」と言う化学会社に資本参加を仰いでいたが、BASF はカセットテープの超大手でもあった。私高本も随分カネを払ったモノだ(爆
 価格に比して、製品の質が高かった > BASFカセットテープ

 1975年から1982年まではちょうど「カセットテープの末期であると同時に最盛期」でもあった。LP1枚が新譜が2500~2800円、廉価盤で1000~1500円くらいで、現在の「CD10枚組1132円が当たり前」とは消費者側の金銭的負担が桁違いに重かったので「カセットテープを用いたエアチェック」が信じられないほど流行しており、「FM雑誌」が3種類だか4種類だか市場に出回っていたほど。カセットテープの種類も高級品から普及品までいろいろあり、「フェリクロームテープ」とか「メタルテープ」は高価格だが音質は相当に質高かった。リコ・グルダが所持していたカセットテープの種類は明記されていないが、聴く限り高級タイプだと思う。BASF 子会社だから、カセットテープの質は下げていない、と信じたい。

 グルダがOKを出していれば、この録音は即LP化されていた。出さなかったのだ。なぜか? 推測されることが2つある。

  1. 「音」がグルダに気に入られなかった
  2. ドイツグラモフォンやアマデオでの「プロデューサーの仕事」をブルンナー=シュヴェルが果たしていなかった

 どちらなのか? 両方なのか? 「バッハ平均律」とほぼ同じ音で収録されている曲が多いので、ブルンナー=シュヴェルにして見れば「音」については「グルダのわがまま」としか思えなかっただろう。「プロデューサーの仕事」についても、バッハ平均律だけでなく、"Midlife Harvest" "the long road to freedom" などで意気投合した仲だ。
 ここで、この時のグルダの立場 = モーツァルトピアニスト として、「あり得る不満」は具体的には次のようだったかな? と推察する。

  1. モーツァルトには「音の魅力」がバッハ以上に必要だが、「MPSスタジオの録音」はDGやアマデオに比べて劣る上「ベーゼンドルファーインペリアル」が使えない
  2. 過去に録音した「ドビュッシー(2回)」や「ベートーヴェン(1回)」は経験あったが、「モーツァルトソナタ」は初録音の曲が多いのに適切なアドバイスが何もない

 こうなって来ると、どうすればいいのか? がグルダもブルンナー=シュヴェルもわからなくなってしまったようだ。外部に「編集費用」も多額に払って丁寧に編集した「マスターテープ」作成費用もかさんでいる。1枚づつでもいいからリリースしたいブルンナー=シュヴェルと、全体像が見えないグルダの拒絶が続いたのはいつまでだったのだろうか? 「作曲年代順」にこだわるグルダ(ベートーヴェンでもこれでおそらくDECCAと問題を起こした!)なので、録音を作曲年代順に並べ替えて聴いて見た。

"the GULDA MOZART tapes" は、K.333以前 と K.475以降 で「録音」が違う


 ピアノは同じ。大きく変わったのは「マイク位置」。「極端なオンマイク」だったのが、「オフマイク」に変わっている。それがいいか? はまた別の問題だが。


 モーツァルトは18曲のピアノソナタを作曲した。フリードリヒ・グルダが録音したのは16曲のようで、リコ・グルダが選んだのが10曲。実際、翌2007年に発売された「II」に比べるとこちらの方が遙かに出来が良い。もしかして

「リコ、この10曲のソナタは本当はOK出しても良かったんだ。他が納得行かなかったから言い合いになって、喧嘩別れしちまったんだよ!」


と遺言していたように思えてならない。周辺状況からすると

  1. 1977 K.331 & K.333 recording
  2. after 1978.10 K.475 & K.545 recording

でほぼ間違い無いだろう。すると K.279-K.283 はそれ以前の録音となる。


"the GULDA MOZART tapes 10 sonatas and a fantasy" 実態



  1. リコ・グルダ(またはフリードリヒ・グルダ)が「これだけは絶対に聴いてほしい」と願った10曲のソナタ + 1曲の幻想曲


  2. 掲載データは「誰にでも事情を知っている人」ならばすぐにわかってくれる冗談。怒らないでね!


  3. ピアノはスタインウェイD


  4. MPSスタジオの録音


  5. 1975-1977 K.279-K.333録音


  6. 1978-1981 K.475&K.545録音



 演奏自体は(音質に問題ある曲もあるが)特に1枚目と2枚目は楽しめる。3枚目の K.545 は音質がオフマイクで一般受けする上、「装飾音無しでもオレ様はここまで出来るんだぜ!」を誇示した名演。K.311 と K.475 は好み次第。K.283 は音がモノラルだが気にしなければ演奏自体はいいよ。「II」はともかくとして、こちらは「グルダファン」には是非是非聴いてほしいCDだ。ブルンナー=シュヴェルの遺族にもきちんとカネが廻っていて了解を得ているハズである(爆

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