Piano Music Japan

シューベルトピアノ曲がメインのブログ(のはず)。ピアニスト=佐伯周子 演奏会の紹介や、数々のシューベルト他の演奏会紹介等

シューベルト ピアノソナタ嬰ハ短調 D655 バール補筆完成版世界初録音 (No.1308)

2006-07-11 21:33:55 | 作曲家・シューベルト(1797-1828
 嬰ハ短調ソナタD655 は、「演奏用楽譜」の出版が遅かったためか、CDの発売も信じられないほど遅かった。
 ・・・と言うか、LP時代までは(もちろんSP時代を含めて)録音が全く無かったのである!

Gregor WEICHERT (仏Accord 22062)1986年



が(断定はできないが)世界初録音だろう。この盤で ヴァイヒェルトは、

・第71小節の後に「嬰ト長調の2小節の簡単な終止」を作り「転調しているが終わった感じ」に小さく編曲

した。この形はそっくりそまま、1997年のヘンレ改訂版楽譜に全くコメント無しで掲載されている!!!(← 著作権解釈として許されている?)
 他には1997年に ウィーン原典版校訂者 = ティリモ が、何も補筆しないで録音しただけであり、20世紀が終わろうとしていた。

 2000年4月頃に 今世界で最も元気なCD会社 = オランダのブリリアント社(Brilliant) が『シューベルト:ピアノソナタ全集』を企画した。9名のピアニストによる分業で11枚組の大モノ。ティリモとB=スコダの『補筆完成版』はどちらも8枚組なので、超大モノである。

・ソナタだけ聴きたい人にはいろいろと余計な曲が付き(4手曲も1曲入っている! さらに重複曲まであり!)
・シューベルトピアノ全曲聴きたい人には「収録されていない曲&楽章だらけ」

である。う~ん、困った!! この大企画のトップに

Alwin BAR(p)


Sonata f sharp minor D570 + D571(新補筆完成版)
Sonata C major D613(新補筆完成版)
Sonata f minor D625(新補筆完成版)
Sonata c sharp minor D655(世界初補筆完成版!)

が2000年4月に収録された。「ソナタ全集」全体の収録は2000年12月まで掛かり、発売は 2002年1月。
 このCDは「箱モノ」で、裏面に曲名明細が記載されているのだが、D655 は欠けている! 私高本もこのCDは「開けて聴く」まで D655の世界初補筆完成版 が聴けるとは思ってもいなかった。

・・・で、「CD8」の「Band 9」に収録されている D655 は、これまでの全てのシューベルト学者の「固い頭」を吹っ飛ばす「素晴らしい解釈 + 補筆」であった。

1.シューベルトの「繰り返し付き複縦線」を『冒頭に戻る記号』と解釈し、「再現部として冒頭に戻る」とした
2.呈示部第1主題 = 1~13小節(嬰ハ短調)
3.呈示部第2主題 = 14~46小節(ホ長調が中心と解釈)
4.展開部 = 47~73小節
5.再現部第1主題 = 1~13小節そのまま(嬰ハ短調 74~86小節)
6.再現部第2主題 = 14~17小節,30~44小節,43~44小節繰り返し(短調に変え「嬰ハ短調中心」 87~107小節)
7.コーダ = バール作曲部分19小節分(108~126小節)

 バール補筆の「世界初補筆版録音」は、『再現部が全部嬰ハ短調で統一』されるために、シューベルトが手本にした大作曲家の1人「モーツァルトのような再現部」が聴き取れる。(シューベルトは、長調の第2主題は再現部でも長調のママが通例)
 バールの補筆は、「展開部」の素材を圧縮や繰り返し使用するなど「シューベルト素材」で作曲されているので、素晴らしい出来である!
 この素晴らしい「D655 補筆完成版世界初録音」は、「CDを店頭で手に取った人でさえ、収録されていることが全く見えない状態で発売され、何1つ評判を呼ばなかった。なぜか?

録音した 2000年 = バール死去



 バールは、ピアニスト人生の最後の力を振り絞って、D655を含む4曲の未完成ピアノソナタを「バール補筆完成版作曲&録音」を成し遂げてくれた。この世に「もし」は無いが、バール が後1年長生きしたら「D840,D346」も『バール補筆完成版』で残されたのかもしれない。 今はただ、

・嬰ハ短調ソナタ D655
・嬰ヘ短調ソナタ D570+D571
・ハ長調ソナタ D613
・ヘ短調ソナタ D625

の4曲の「バール補筆完成版」を残してくれたことにただただ感謝したい。「11枚組CD」の価格の内、50%を占める素晴らしい偉業である。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする