パンダ イン・マイ・ライフ

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音楽と本、そしてちょっとグルメなナチュラルエッセイ

出署せず

2016-12-18 | book
安東能明の綾瀬署、柴崎令司シリーズの第2弾、「出署せず」を読んだ。平成26年2014年7月文庫。2013年から2914年に雑誌連載。5つの短編からなる。

「折れた刃」
綾瀬署にキャリアの女性署長がやってくる。柴崎は警務課課長代理の37歳。署長は1歳年下の36歳だ。その坂元署長は、内部通報で生安扱いが地域課扱いになった。それは刃渡り6センチにあった。カッターの刃を折り、地域課あつかいにしたという。それは定年前の石村地域課係長だった。柴崎は、しらばっくれる石村に、地域課や署員、行きつけの飲み屋、トラブルを起こした駅などを調べ上げ、背景にせまる。「随監」で登場した交番の有名所長、広松も登場する。

「逃亡者」
自転車の追突事故が発生する。車は逃走し、犯人はなかなか捕まらない。署長の坂元は本庁に助力を得る。そして、事故車が見つかる。盗難届を出していたのは左官業の社長。どうもやめた若い従業員がいるらしい。前科者で容疑者として決まりかけていた。しかし、従業員や社長、若者の供述から腑に落ちないものを感じた柴崎は、交通課とは別に独自に調査を始める。

「息子殺し」
管内で製麺業を営む保護司63歳が、引きこもりだった実の息子35歳を殺害した。息子は酒乱で度々父親に暴力を振るっていたらしい。2人家族で起きた悲しい事件。刑事課長は、なぜ人望熱い保護司がそこまで追い詰められたかに疑問を抱いていた。柴崎は、ある未解決の殺人事件に突き当たる。

「夜の王」
9年前の強盗殺人事件。その証拠の4本のたばこの吸い殻の顛末。4本のたばこの1本に異なるDNAがあった。そのDNAの持ち主は、つい最近おきた強盗事件の容疑者のものだった。刑事課のベテラン係長城田は夜の王と呼ばれ、夜勤の仕切りが得意だった。しかし、副所長の助川と犬猿の仲。これまでの単独犯から共犯事件になるのか。その証拠の管理を確認する月例観察が近づいてくる。柴崎は坂元署長の命を帯びて、この事件を洗い直すことになる。最後に坂元署長が出した結論とは。

「出署せず」
今回所収の5編のなかでは、中編ともいえる後編。5年前に失踪した矢口昌美の父親が娘を探し始めた。坂元署長は再捜査を刑事課に命令するが、なかなか動かない。そんな中、ひったくりの被害者が被害届を出さない案件が出る。その加害者の取り調べ方法で弁護士から揺さぶりを受ける綾瀬署。坂元署長は、取り調べにあたった署員を自宅謹慎にする。刑事課と署長の軋轢は決定的になる。その被害者に被害届を出す任務を柴崎は坂元から命じられる。すると矢口昌美と被害者の南部に過去、接点があったことが明らかになる。両者の関係を洗い出す柴崎。坂元は動かない刑事課を見捨て、本庁に調査協力を命じる。
坂元を軌道修正させる柴崎。エリート官僚とたたき上げの署員の息苦しいほどの緊張感が、真犯人を追い詰める展開と交互する。

エリート官僚の女性署長と男性職場の現課。その間で右往左往する柴崎。なぜ、自分だけこんな目に合わなければならないのか。早く、本庁に帰りたい。一方で実家も長男の中学生が学校に行かなくなる。仕事場と家庭の両方に居場所がなくなる柴崎の混乱。本書は、緊張感にさいなまれながらも、困難を地道な捜査で切り開く柴崎の姿に身につまされる人も多かろう。

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