ねこ庭の独り言

ちいさな猫庭で、風にそよぐ雑草の繰り言

古くて豊かなイギリスの家 便利で貧しい日本の家

2015-02-05 22:20:05 | 徒然の記
 井形慶子氏著「古くて豊かなイギリスの家 便利で貧しい日本の家」 (平成12年 大和書房刊)読了。
表題から察せられるように、「イギリス大好き、日本は駄目」という本だった。作者については何も知らないが、家内によると同じような本を沢山書いている売れっ子であるらしい。

 「イギリスの丘稜や古い石造りの町並みがこびりついた頭で、自分の国、日本の街を直視するのが堪え難いのはなぜだろう。
日本の家は、貧困なのだ。どんな専門家が現われて、反対意見を唱えたとしても、イギリスの家を知るにつれ、私は決して今の日本の家が豊かで魅力溢れるものとは思わなくなってしまった。
 新築物件はとても多いのに、安っぽい住宅地。それが100年前の古家が立ち並ぶ、イギリスの住宅地に対抗できるとはとても思わない。」

 最初の5ページ目に書いてあるが、まったく同感だ。
何年前だったか家内とイギリス旅行をし、作者のいう古くて豊かなイギリスの家を沢山見てきた。手入れの行き届いた家々の庭や、石造りの街の落ち着いた静けさなど、羨ましい限りだった。

 木材と紙で作られた日本の家は地震や火災ですぐに消失するから、イギリスみたいに100年ももたないのだろうと、そんなことしか考えつかず、日本家屋の貧弱さは火山国の宿命と諦めていた。

 氏の意見によると、どうもそいつは見当違いの思い込みで、政府の怠慢と国民の意識の低さに原因があるらしい。
かってはイギリスも住宅事情が日本同様に悪く、狭いひと間で家族が暮らしていた時代があったとのこと。
 「1945年に労働党が圧勝し、政府は住宅法を作り、公営住宅の建設を急ピッチで進めた。その後の保守党も、毎年20万戸を上回る住宅を建設していった。イギリスが日本と決定的に違うところは、こうした大量生産を実行しながら住宅の水準を同時に引き上げたことだ。」

 「スリーべッドルーム以上の良質な住宅を、まず家族向けに作り始めた。温給水システムがコスト高になったにも拘らず、ベッドルームのそばに浴室を作り、5人以上が暮らす住宅ではトイレも必ず二カ所設けられた。こうして質の高い公営住宅が国民に与えられていったのだ。」

 「サッチャー首相は、管理補修に経費のかかる公営住宅を、住人の中の購入希望者に4割近く値下げした価格で売却した。あまりに安過ぎるではないかとという批判に対し、サッチャーは " 国の財産は国民の財産だ。これまで頑張ってきた国民に分配するのは当然である " と 答えた。」

 「一生かかっても家など買えないと諦めていた労働階級の人々に、夢のような価格で提示された住まい。社会の底辺にいた彼らは、マイホームを得て、初めて自分の人生設計をするチャンスを掴んだのだ。」
 
 日本には決して存在しない、こうした国民思いの政治家たちがいる英国の羨ましさよだ。更に氏は述べる。
「イギリスでは20代のカップルでも、夫婦の年収を合わせると無理無く家が買えるように、金利の安い住宅ローンが完備されているから、日本のように家を持つこと自体が人生の最終目標にならない。」

 なるほどわが国には、こうした仕組みが一切ない。一生かけてサラリーマンは自力で家を買い、金利だけでも支払に十年以上かかるのがザラだった。若い者が買える家などありはしないし、購入できる若者は金持ちの息子や娘に決まっている。

 反権力、反政府、弱者の味方を標榜するのなら、共産党や民主党は、国民の住宅政策を提言すれば良いだろうに。
中国や韓国に腰を低くし、戦争だ軍国主義だと騒ぐより、安くて立派な住宅提供を唱える方がずっと国民の幸せにつながり、経済の活性化にも貢献する・・・・と、賛同せずにおれない氏の話はここまでで、あとはもう、愚にもつかない彼女の高説となる。

 「日本の洋風住宅を見て、欧米人は首をかしげる。
" あんな家に私たちは住まない。窓や玄関ポーチは欧米のものに似ているけど、あれは日本の家でもないし、欧米の家でもないわ。" 無国籍な家があちこちに建てられているのを見て、あんなスタイルがなぜ流行り、なぜ日本人が喜んで受け入れているのか理解に苦しんでいる。」

 「あるイギリス人の英語教師が、クラスの20代の生徒に週末は何をしたかと訊ねると、90パーセント以上がショッピングと答えるそうだ。彼女はこの反応にとても驚き、恐ろしいとさえ思ったと話していた。」

 で、その英語教師の話と氏の解説だ。
「生徒たちはブランドのバッグや時計など、沢山の高価なものを持っているのに、買うものがなくても家を出て行く。家にいて、するべきことが分からないのだ。
心から満足できる、充実する暮らし方のお手本が、彼女たちの家庭にはなかった。インテリア、料理、衣類、そして人との付き合いや人間関係まで、金をかけなくても作り出せるという大切なことに気づかないまま、大人になってしまったからだ。」

 そろそろ面倒になってきたが、もう少し続けよう。
「だから若い日本人は、料理も出来ず、棚一つ作れない。人間として基本的生活能力を持たないまま結婚し、子供を育てる。そしてこれは確実に次世代に引き継がれ、更に物欲にまみれた日本人を作り出していく。」

 「家を買ったらお仕舞いになる日本人と違って、家作りを生涯の仕事と考えるイギリス人の家からは、目に見えない沢山のものが生み出されている。壁のペンキ塗り、棚の取付け、ドアーの修理等々、それは日本のような消費文化とは、対極のスタイルだ。」

 確かに日本の風潮には是認できないものがある。「消費は美徳」と世間が浮かれ、大量生産・大量消費で、使い捨ての時代が続いてきた。イギリスの慎ましさと堅実さには見習うべきものがある。だが戦後の復興のためには、こうした流れが必要だったのだし、これで国が再建された事実も見逃すべきではあるまい。

 イギリス人が家を大切にし、やたら新築の家に飛びつかないとしても、そこにはそこの事情があり、手放しの賞賛にはならないはずだ。
私が会社にいた頃、英会話の教師はトムソンという名のイギリス人だった。
レッスンが済んだある日、彼と二人で安い酒場で一杯やったことがある。丁度日本が世界第二の経済大国になった時だったと思う。

 「日本は本当に素晴らしい。活気に満ちて、みんなが生き生きしている。それに比べると僕の国なんて、貧しくて、陰気で、みんな意気消沈している。ヨーロッパはどこへ行っても、もう死んだ街だ。これからは、アジアの時代だ。」

 彼が先生で私は生徒だったし、勘定は割り勘だったから、お世辞や追従でなかったと今でも思っている。
井形氏は日本を散々貶すけれど、イギリス人にだって色々いるし、多様な意見があるのだと私は言いたい。もう少し言わせてもらえば、私は大工仕事が大の苦手で今だに棚の一つも作れない。

 けれども結婚し、子供を育て、その子供たちは物欲にまみれた人間になっていない。普通の暮らしをする、普通の日本人だ。
自分の主張を正当化するため、都合の良いイギリス人ばかり登場させてはいけない。それはこじつけであり、捏造とも言い、朝日新聞がやつたことに似ていると、こっそり忠告したくなる。
コメント (2)
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