ねこ庭の独り言

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『絶頂の一族』- 13 ( 鳩山氏との関係 ? )

2024-04-28 23:29:58 | 徒然の記

  〈 第1章 祖父・岸信介 〉・・ ( 鳩山氏との関係 ? )

  ・昭和28年4月の衆議院解散・総選挙時、岸はドイツ視察から急遽帰国し、自由党・山口2区から立候補した。

  ・岸は4万票余りを得て当選し、念願の政界復帰を果たす。政界に復帰した岸は、保守合同と憲法改正に奔走していく。

  ・この総選挙で与党の自由党は過半数を大幅に割り、全議席466中の199議席にとどまった。当時保守勢力は自由党、改進党、自由党分派 ( 鳩山派 ) に分かれていた。

 当初GHQは日本弱体化政策の一環として、刑務所にいた共産党幹部と党員を釈放し、同党の活動を黙認しました。勢いに乗った彼らは武装闘争と暴力革命路線を採択し、血のメーデー事件や火炎瓶事件など多くのテロ・騒乱事件を引き起こしました。

 過激な闘争は国民の支持を得られずに、党勢は伸びず、逆に米国の対日政策変更によるレッドパージで、監視と締めつけを受けるようになります。同時に共産党の群衆動員力の大きさと全国的広がりは、保守政治家に警戒心を抱かせました。

 一方穏健な社会党は、保守勢力同様に内部で派閥を抱え対立していましたが、着実に党勢を伸ばし議席を獲得していきました。戦争反対を標榜する社会党は、再軍備反対、憲法改正反対ですから、岸氏には共産党以上に警戒を要する勢力でした。

 彼らと対峙するには保守が一つになる必要があると、氏はいっそう保守合同に奔走して行きます。

  ・保守合同に向け、民主党は岸幹事長、三木武吉総務会長、自由党は石井光次郎幹事長、大野伴睦総務会長と、4者会談が60回以上開かれた。

  ・紆余曲折の末に、昭和30 ( 1955 ) 年11月鳩山内閣の時、保守合同による自由民主党がついに結成される。

  ・ここに漕ぎ着けるまでの立役者は、一貫して新党結成・保守合同に奔走してきた岸だった。岸は当然の如く、自由民主党の幹事長に就く。

 ここまでの動きは何となく知っていましたが、知らなかったのは次の話です。「ねこ庭」でする「温故知新の読書」の効用に触れた瞬間とも言えます。

  ・保守合同以前の鳩山政権は、憲法改正と日ソ国交回復の二つを主な課題とした。昭和30年2月の総選挙でも鳩山は、「占領政策是正の手始めが、まず憲法改正である。殊に第九条の改正は必要である。」と訴えた。

  ・しかし獲得できた議席数は、憲法改正発議のために必要な3分の2に遠く及ばなかったのである。

 鳩山氏が「憲法改正」について正論を述べ、政策課題にしていたとは意外でした。岸氏が吉田首相を離れ、なぜ鳩山氏に近づいたのか、自分なりに理由が分かった気がします。

 吉田氏は軍の再建より経済を重視する政治家で、「軽武装」を是とし、「憲法改正」には岸氏と温度差がありました。吉田学校と言われる派閥にいる弟の佐藤栄作氏と池田勇人氏について、氏は洋子氏に語ったと言われています。

 「栄作も池田も、吉田さんと同じ経武装論で、本気で憲法改正に向かおうとしていない。」

 岸氏は栄作氏と政界では助け合う兄弟でしたが、政治家としては一線を引いて接していたようです。松田氏は説明していませんが、『絶頂の一族』の目次で佐藤栄作氏が取り上げられていない理由は、もしかするとここにあったのではないでしょうか。

 「日米安保改定」と「憲法改正」を終生の目的とした岸氏は、兄弟よりも政策を優先し鳩山氏と行動を共にしたのかもしれません。しかし一方で私は、江戸末期の勤王の志士のように、二人が目的を一つにして固く結ばれた関係でない気がしています。

 「温故知新」の読書は、鳩山氏を信念のある保守政治家として教えてくれませんでした。岸氏は東条内閣の商工大臣だった時、負ける戦争をやめるべしと諫言し、暗殺の危険を感じても意思を通した人物です。しかるに鳩山氏は犬養毅氏と共に、濱口内閣を「統帥権の干犯」と言う言葉で攻撃し、濱口首相狙撃事件の遠因を作った人物です。

 鳩山氏が使った「統帥権干犯」と言う言葉が、「軍部の独走」の正当化に使われ、軍の暴走に繋がったことを知らない者はいません。だからGHQは、鳩山氏を「軍国主義者」として政界から追放しています。そうして考えますと、鳩山氏の「日ソ国交回復」も熟慮の政策というより、反米思考の一環でなかったのかと思えてきます。

 岸氏が省内きっての辛辣なエリート官僚として、関東軍に乞われて満州へ渡ったのは、昭和11 ( 1936 ) 年でした。満鉄と並ぶ大コンツェルン「満州重工業開発株式会社」を設立し、満州国首脳の一人として、石炭、鉄鋼などの生産力増強を図った人物です。

 だから私は、氏が鳩山氏の過去を知らずに政治活動を共にしていると考えていません。「ねこ庭」を通して見える風景は、旧統一教会と似た関係です。

 「目的のためなら、利用できるものをなんでも利用する。」

 私は今、この言葉で岸氏を容認して良いのか、・・・結論が出せません。シリーズが終わるまでには結論を出そうと思いますが、惑いつつ、ためらいつつの「ねこ庭」です。息子たちと「ねこ庭」を訪問される方々には、松田氏の意見を紹介しながら、沈思黙考する時間を貸して頂けたらと思います。

 次回もまだ68ページで、氏が引用する『岸信介証言録』からの紹介です。

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