ねこ庭の独り言

ちいさな猫庭で、風にそよぐ雑草の繰り言

アラオを尋ねて

2013-01-15 11:51:35 | 徒然の記
 大震災の津波で流された膨大な量の廃材が広い太平洋を渡り、アラスカ、カナダ、アメリカへと漂着した。

 この中で名前の書かれたバスケットボールや漁具などが日本へ戻され、NHKがそれらの所有者を捜すと言うドキュメンタリーがあった。何気なく見始めたのに、画面に釘付けになってしまった。所有者の名前と住所を探し当てやっと訪ねたら、そこは誰も住めない荒れ果てた土地となっていた。知人らしき住民を探し消息を聞くと、流された家の所有者は夫婦ともに行方不明となったままという。対話する住民は誰も夫や妻、あるいは娘や息子、祖父や祖母といった大切な家族を失っている。

 何気ない表情で番組スタッフに対応しているが、やがて言葉を詰まらせ涙ぐんでくる。津波にさらわれた家屋やビルや車の残骸、港に打ち捨てられた無数の漁船などが無惨な災害の傷跡を生々しく伝える。一年が経つというのに、被災地の現状がまだこんなにも荒涼としたままであること、人びとへの支援の手が行き渡っていないこと、それでも現地では、男も女も大人も子供も、自暴自棄になっていないし、笑顔さえ見せようとしていること。

 自分がこんな境遇におかれたら果たしてどうするのだろうと、そう思うだけで涙が流れてきた。原発反対のデモのニュースも大切だろうが、こうしたドキュメンタリーの方がその何倍もの訴えをすると私は感じた。福島がというより、被災地のすべてが復興するまで、NHKはこうした番組を全国に報道し続けてもらいたい。民放のように感情移入過多の報道でなく、ごく普通に、ごく自然に、名もない人びとが凛として生きている姿を津々浦々に伝えて欲しい。

 そうすれば、霞ヶ関の官僚たちが被災地への復興予算を流用したことの罪深さが私たち国民にシッカリと伝わる。同時に、それを止めることの出来なかった政治家たちの無能さが嫌という程分かる。原発を即座に廃止すると言うのは、たしかに賢明な方法ではないだろうが、それでもこの番組をみれば、全廃の方向へと舵取りをする必要性が自然と理解できるでないか。久しぶりにNHKらしい番組だったと感動し、久しぶりに爽やかな気持ちになり、久しぶりにNHKに感謝する。

 だからきっと私は、自分で考えている以上に素直な人間なのかもしれない。
コメント
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