何とも怪しげな回文だ、「わたしいまめまいしたわ」
しかしこれも企画力の勝負ということになろう、今国立近代美術館で行われている企画展のタイトルだ。
まあ簡単にいえば「私とは何か」という古来からの問いかけに答えようとするとその「私」なるものの存在根拠があやふやになってしまうーそういう事態を芸術の場面に探そうとする。
たとえば圧巻なのは澤田知子の「ID400」という作品。
髪型や服装を替えて澤田は証明写真という手段で400枚もの写真を並べる。
それはどれが本当の私?と問いかけているようである。
ビル・ヴイオラの「追憶の五重奏」というビデオも流れる。
男女五人が極端なスローモーションで死を悼んでいるビデオだ。
しかしこれはキリスト教の世界に深く根差した発想が見られるとして、キュレーターはマックス・ベヒシュタインの版画とポール・ストランドの写真を上下に並べて展示するという仕方で、その発想を相対化しようとする。
牛腸茂雄の「self and others」の六十点の写真もすべて展示される。
六十点のうち五十七点の写真は普通にカメラのレンズを見つめている。
しかし1,34,60の写真だけは被写体はカメラのレンズに目を向けていない。
写真家はいったい何を言いたかったのか不思議な写真だ、しかも自己のセルフポートレートまでさりげなく入っている!
さてここいらへんで変な歌が聞こえるのに気づく。
行ってみると高嶺格という人の「God Bless America」だ。
男と女が粘土をいじって頭像を制作している、その頭像が「ゴッドブレスー」とうたっているのだが男と女は途中で寝たり、寝ながらいちゃついたりしている。
誰が見ても9.11後のアメリカを皮肉った作品であるのは明白だ。
最後は都知事選に二度立候補した秋山祐徳太子のポスターで締めくくられる。
そのほか絵画ではすさまじいばかりの麻生三郎の自画像や盲目の旅芸人を描いた斎藤真一の絵などが光る。
五人のキュレーターの合作だというがキュレーターそれぞれの特徴がみられないのが惜しい。
とはいえ常設展観覧料で観覧できるこの企画展なかなか面白い。