日本でこれだけ活躍した芸術家は岡本太郎と彼くらいのものではないか。
何しろ作家として「エーゲ海に捧ぐ」で芥川賞をとり、版画家としてベネチア・ビエンナーレで大賞を受賞し、油彩もやる、作陶もやる、書もやるー。
ご存じ池田満寿夫だ、その回顧展が東京オペラシティアートギャラリーで開かれている、チケットはないし、「ぐるっとパス」もないがこれはどうしても観たかった、正規の料金を払ってみる。
毎日新聞の主催だがよく考えられたいい展示だ。
作品解説もキチンとついており、カタログも力が入っており池田の全貌が見渡せる展覧会だ。
池田の真骨頂はエロチシズムと聖性の結びつきにあるといえる。
たとえばヴィーナスを版画にする時もポルノ雑誌から引用するといった具合だ。
最初の版画集は1956だが「バウル・クレーとマックス・エルンストをごちゃまぜにした」ような作品だったと自身語っている。
池田の作風はいろいろと動く、ピカソ風からシュルレアリスム風、抽象そして具象へと帰ってくる、日本回帰の作品もある。
それは四曲一双の屏風「宗達讃歌」で「天」「地」「銀」「金」の四点からなる作品だ、展示されるのは「天」。
どうやら池田の日本回帰の背景には陶芸が大きな影響を与えたらしい。
池田の作陶は1983から、焼成に生と死のサイクルをみたようだ。
晩年の池田は般若心経に熱中する。
しかしカタログによれば別に宗教的になったわけではない、頼まれて精いっぱいやっただけという。
面白いことに池田は画家であるから仏画は描けないと考えていたという。
しかし野焼きの体験から陶こそ般若心経にはふさわしいと確信をもったとか。
隠してお椀に般若心経の文字を一字ずつ入れた「心経椀」とか、佛画陶片とか地蔵とかいろいろ作陶していく。
1995には阪神淡路大震災の鎮魂に般若心経を揮ごうするイベントを清水寺で行ったりもする。
会場では昨年末に見つかったという、急死する一か月前の山梨の窯で仕事する池田満寿夫の映像も流れる。
この美術館は閉館一時間前から入館料金半額となるが一時間ではとても観きれない量の展示だ。
毎日主催としては久々のヒットといえよう。