写真エッセイ&工房「木馬」

日々の身近な出来事や想いを短いエッセイにのせて、 瀬戸内の岩国から…… 
  茅野 友

ミステリーツアー

2014年01月20日 | 旅・スポット・行事

 高山の町の散策を終え、集合場所に向かおうとしたが、ひと休みもすることなく長時間歩き続けたせいか、さすがに少し疲れを感じていた。この町には、至る所に「Cafe」の看板を掲げた店がある。

 小さな間口で、カットガラスの四角の窓がかわいい「ボガ」というカフェを外から覗いた。優しそうな60年配の女性が笑顔でカウンター越しに客と話をしている。「よしっ、この店にしよう」。妻と一緒に入った。カウンターには常連客らしい女性が2人、隅のテーブル席には75歳くらいの品の良い夫婦がコーヒーを飲んでいた。

 カウンターを前にした席に座ったとき、先客の女性2人は店を出た。しばらくすると、飲み終わり黙って向かい合って座っていた夫婦も席を立ちレジの方に向かった。奥さんの後ろを付いて行く旦那さんが私の方を向いて、愛想のよい笑顔で話しかけてきた。「高山に来るのも、もう3回目なので見物する所がなく、この店でお茶を飲んでいたんですよ」。一瞬何のことか分からないので、私もただ愛想笑いを返しておいた。

 すると続けて「女房が、ミステリ-ツアーが好きで、参加するたびに同じ所に連れて行かれるんですよ。長野の善光寺にはもう4回も行きました。行きたいところに行く旅行を申し込めと女房に言うんですが、どうしてもミステリー・ツアーにするんですよ」と笑いながらこぼす。

 ミステリーツアーとは、団体旅行に新鮮さ、驚きを与えるために、敢えて出発まで目的地を知らせない、または目的地に到着するまで目的地が解らないようにする旅行である。旅行会社は、募集パンフレットには宿泊地を明示することが義務付けられているが、ミステリーツアーのみはその例外として認められているようである。

 旦那さんの辟易とした顔を見ると同情はするものの、こんな旅行を好んで選ぶ人も世の中に入ることを知った。それにしても、同じ所に3度や4度も連れて行かれるとは、旦那さんにとってはミステリーツアーならぬミスツアーということか? 旅は気分任せ、風任せ。他人任せは似合わない。「ミステリー ツアーといえば 人生だ」(仲畑流万能川柳)。