写真エッセイ&工房「木馬」

日々の身近な出来事や想いを短いエッセイにのせて、 瀬戸内の岩国から…… 
  茅野 友

根深(ねぶか)節

2013年06月04日 | 生活・ニュース

 「何だか根深節だなあ」、テレビで若いタレントが即興で歌っているのを聞いて、こう言った。こんな言葉を使ったのは本当に久しぶりであった。そう思いながら奥さんに聞いてみた。「根深節っていう言葉、知っている?」。「知ってるわよ」「じゃあ、どんな意味?」「音程の狂った歌い方のことでしょ」「じゃあ、根深って何のこと?」「……、知らないわ」。質問をした私も私も知らなかった。

 「お前の歌い方は根深節だなあ」、飲み屋のカラオケで上司からよく言われた台詞であったが、根深という言葉の意味は知らないまま、ただ頭を掻いて歌の下手さを恥ずかしがってやり過ごしていた。今日、改めてこの「根深」という言葉をネットで調べてみた。

 「根深」とは、植物のネギの異名。下手な浄瑠璃のこととも書いてある。ネギには節がないことから、歌の節回しにかけて節のない歌のことや、音程どおりに歌えない様をいうようである。近畿、中京、北陸、越後、羽後、中国四国、豊前、筑前での言い方とあるから、結構広い地域で使われている。

 少し理解できないところがある。「下手な浄瑠璃」というところが分からない。なぜ浪花節などではなく、「浄瑠璃」でないといけないのか。調べてみて少しわかった。浄瑠璃の詞章は単なる歌ではなく、劇中人物の台詞やその仕草・演技の描写をも含むために、語り口が叙事的な力強さを持っている。このため浄瑠璃を口演することは「歌う」ではなく「語る」といい、浄瑠璃系統の音曲は語り物(かたりもの)と呼ぶという。

 やっと分かってきた。下手な歌は、歌のようで歌でない。歌のようであって、ただ単に語っているだけに聞こえる。だから下手な歌のことを「下手な浄瑠璃」=「根深節」という。「根深」の意味、そして別な意味、別な意味の中にある言葉が使われるわけを学んだ。日頃なんとなく使っている言葉も、このように語源をたどってみると新しい発見につながる。

 昨日に続き今日も梅雨の中休みで、かんかん照りだ。図書館に向かう前に発した言葉の語源を調べていると、おっと、12時のサイレンが聞こえてきた。奥さんは「水を得た魚」さながら、毎日スイミング通い。私といえば家の中でのひとり遊びも、最近は磨きがかかってきている。