写真エッセイ&工房「木馬」

日々の身近な出来事や想いを短いエッセイにのせて、 瀬戸内の岩国から…… 
  茅野 友

鏡の間

2009年05月05日 | 木工・細工・DIY
 連休になって直ぐ、ウッドデッキの腐食していた2枚の床板を久しぶりの木工作業で張り替えた。暑さで思った以上に疲れたため、その日予定していた年に1度の塗装は先延ばしにしていた。

 3日後の今日、天気が良いことを確認して塗装作業を開始した。幅広の刷毛を用い手首を柔らかく使って塗っていく。毎年やっているので要領は良く、いっぱしの塗装工だ。

 塗装作業での唯一のポイントといえば、塗り終えたときに大海の孤島に取り残された状態にならないよう最後の逃げ道を考えておくことである。

 丁寧に塗り終え、部屋に入り汗を拭きながらアイスコーヒーを飲む。きらきら光る床面を眺めていた時、ある光景を思い出した。

 7年前のフランス旅行で、パリからバスに乗ってヴェルサイユ宮殿に出かけた。数々の部屋の中で最も光り輝く部屋があった。鏡の間である。

 鏡の間とは、幅10m、奥行き75m、高さ12mの巨大な空間。中央庭園に面した方には17の大窓があり、向かい合って反対側の壁面には17面の大鏡板がはめ込んである。

 大窓から差し込む太陽の光がこの大鏡面に反射して光り輝いており、夜には黄金の燭台とクリスタルのシャンデリアが煌めくという。

 塗り終えたばかりのウッドデッキは午後の陽を反射させ、私の眼には光り輝いて見えた。あの鏡の間とは比べるべくもないが、あたかも鏡を敷き詰めたような錯覚を覚えた時、ふと思いが至った。
 
 2年前までは、この光り輝く床面を水面と見間違えて、トンボが尾っぽをとんとんと打ちに来ていた。そんな光景はなくなった。激減した蜜蜂ともどもどこかへ行ってしまったのか。

 「ねぇ~」、その時耳元でマリー・アントワネットがささやくような甘い声が聞こえたと思ったが、コップの中で溶けた氷がコロンと半回転しただけの澄んだ甘い音であった。
  (写真は、わが家の一見「鏡の間」)