ミャオの家より

今はいないネコの飼い主だった男の日常

ワタシはネコである(60)

2008-11-21 19:05:32 | Weblog
11月21日
 飼い主の話、「二日前の夕方遅くなってから、家に着いた。もちろんミャオがいるはずもない。外では雪がちらついていて、暗い誰もいない家の中は、それ以上の冷え込みだった。
 ひと片付けした後、懐中電灯で道を照らしながら、400mほど離れた所にある地区のポンプ小屋に行く。何度も、ミャオの名前を呼んでみるが、物音一つしない。
 あきらめて家に帰る。仕方がない、エサをあげてくれているおじさんの家に行って、ネコのことを聞くには、こんな夜になってからでは気がひける。
 しかし、いろいろと考えてしまう。何といっても、年寄りの猫だ、死んでいたらどうしよう。すべては私が悪い。ちゃんと傍にいてやれば、もっと長生きさせてやれただろうに。ネコが死んだからと言って、この後すぐに北海道へ戻るというわけにもいかない、などと・・・。ともかく明日また探しに行くしかない。

 翌日、夜が明けて、7時過ぎに、ポンプ小屋まで行ってみた。二声三声、私が鳴いたところで、すぐに鳴き声が聞こえ、小屋の金網の下をくぐって、鳴きながらミャオが出てきた。
 良かった、良かった、元気でいてくれて。それでも、少し警戒しながら、傍に寄ってきたミャオの体をなでる。十分にエサをもらっていたのだろう、太っているというよりは、少しがっちりとした体つきになっていた。
 しかし、毛並みは荒れていて、何よりも全体にくすんだ汚れた色になっていた。もともと雑種のシャム猫の、不自然な色合いとはいえ、部分的には焦げ茶と明るいクリーム色の対比がきれいだったのに、今は見る影もないのだ。
 それから、お互いに鳴き交わしながら、家に帰ろうとするのだが、長い間の住み家であるポンプ小屋の方を振り返り、なかなかまっすぐに帰ろうとはしない。そこで何度も抱きかかえて、家の近くまで運んだのだ。
 家に戻って、すぐにエサとミルクをやった。エサは食べないで、ミルクは皿を抱えるようにして(まさか)、ともかくよく飲んだ。
 それからはずっと、ストーヴの前にいた。夕方に、いつものコアジを一匹やり、後は、夜の間ずっとコタツの中に入って寝ていた。
 今日も、ずっとストーヴの前にいたが、午前中、一緒に散歩に出かけて、途中で私が一人で先に戻ってくると、しばらくして、ちゃんと家に帰ってきた。何というこの家への順応ぶりだろう、と嬉しくなった。
 前に私が帰ってきた時は、なかなかこの家に順応せずに、すぐにポンプ小屋に帰って行ったのに(6月4日、7日、8日、そして8月23日の項)、何という変わりようだろう。というよりは、おそらくそれほどまでにポンプ小屋が寒かったのだ。つまり、暖かいストーヴのあるこの家が、一番ということなのだ。」

 
 昨日の朝は、雪がうっすらと積もり、-4度。ここは山の中とはいえ、とても九州とは思えない冷え込み方だった。
 ワタシは、ポンプ小屋の温かいモーターや配管の傍で横になっていたけれど、隙間風だけでなく、コンクリートの床からも冷気が這いあがってくる。
 全くイヤになる。ネコはすべて、寒がりなのだ。というのも、その昔、ヤマネコにすぎなかった祖先のネコ族たちが、人間のペットになることに決め、そこで長い時間をかけて、自分の体を人間たちとともに家の中で暮らすように作り替えていったわけだから、いまさら、人間社会に頼らずに、全くの自然の中で、野性の山猫のように暮らすことなどできないのだ。
 それは、ノラネコでも同じことで、できることなら暖かい人間様の家の中で、ぬくぬくと暮らしたいのだ。まして、大半のネコ生を人に飼われて生きてきたワタシにとって、この寒くなる時期に、人間の住む家で暮らすことができないのは、その人肌が恋しいとかいう生半可なものではなく、ただただ寒くてイヤになるのだ。
 ノラネコの寿命が、飼い猫の半分もないという事実は、常に空きっ腹を抱えたエサ不足の問題もあるだろうが、何といってもこの寒さからくるのだと思う。
 ゴホゴホとせき込んで寝ていても、「おとうさん、お粥(かゆ)ができたわよ」と言って声をかけてくれる親孝行な娘ネコがいるわけでもない。年を取り、半ノラのつらい状態でいることが、どれほど年寄りネコにこたえることか、全く、あのバカたれ飼い主は、何をしているんだろう。
 そんな思いで、体を丸くして縮まっていたところ、懐かしい飼い主の呼び声、ワタシも思わず鳴き声を上げる。
 なんて長い間、ワタシをほおっておいたのだと、後ろを向いたりしてすねてみる(写真)。長い間暮らしたポンプ小屋も気になる。それでも飼い主は、私を抱えて走り出す。中高年オヤジの50mダッシュには、いつもワタシがハラハラさせられる。
 家に戻って来て、暖かいストーヴの前にいると、もうあの寒いポンプ小屋に戻りたいとは思わなくなる。エサ、暖かい家、飼い主…これですっかり前のような毎日が送れるのだ。
 ワタシは安心して、ひたすら眠る、眠る・・・飼い主があきれるほどに寝ている。今までの睡眠不足の日々を取り戻すように・・・。