ミャオの家より

今はいないネコの飼い主だった男の日常

飼い主よりミャオへ(31)

2008-09-27 17:05:54 | Weblog
9月27日
 拝啓 ミャオ様
 今朝は、5度と冷え込んだ。初霜の日もそう遠くはないだろう。冬型の気圧配置で晴れてはいるが、風が強い。山側には雲が連なっていて、その間から見える幾つかの峰々は白くなっている。
 つい数日前までは暑いと言っていたのに、今日はもう暖房がほしいくらいだ。この劇的な変化が北海道らしくもある。それでも、外の陽だまりにいるのは心地よく、秋の季節もいいものだと思う。

 ところで前回の続きなのだが、9月22日に、紅葉が盛りの高原温泉沼めぐりのコースを回った後、まだ時間も早かったので、もう一つのコースである緑岳へと向かった。
 登山口のすぐのところから、樹林帯の急な登りになる。エゾマツやトドマツの間に、鮮やかなモミジの赤い色が見えてきて、さらにミネカエデやダケカンバの黄色が道の両側に続いている。
 登りきると、開けた高原台地の第一花畑に着く。手前にチングルマの紅葉がうねり続き、その果てはウラジロナナカマドやダケカンバの赤や黄色の尾根で、彼方に緑岳が見えている(写真)。
 その中の道を歩いて行く。青空の下、明るい高原の、彩の道だ。振り返ると、石狩、音更連峰からニペソツ山、然別の山々などが、逆光になった午後の空に、淡い山波を見せている。
 大賑わいの沼めぐりコースに比べれば、はるかに人も少なく、静かな山歩きを楽しめる。所々で立ち止まり、紅葉の風景をカメラに収めていく。ああ、山はいいよなあ、山は。
 奥の花畑のところで、眼下の沢を隔てて、緑岳とそれに続く東岳への迫力ある山稜が見える。そこからは高く伸びたハイマツの山腹を回り込んで、いよいよ岩塊帯の最後の登りになる。
 しかし雲が出てきて、辺りの景色はその雲の影を映してまだら模様になり、トムラウシ山の姿もその雲に隠れていた。帰りのシャトル・バスの時間もあるし、今回はここまでにして、大きな岩の上に上がって、緑岳の裾野を彩る紅葉を楽しむことにした。
 先ほど、小屋泊まりらしい大きなザックの若者たちが、頂上へと登って行った。明日から数日間、天気は崩れて、高い山では雪になるとの予報も出ている。しかし、その天気の悪い間でも、青空がのぞく時もあるだろう。紅葉と初雪の織り成す光景は、今の時期にしか見られないものなのだ。
 さて、ゆっくり休んで眺めを楽しんだ私は、さらに帰り道でも、行きとは違う紅葉の風景を眺めながら下りて行った。花畑の間の緩やかな道で、左右の景色に目を移していた私は、思わずアッと叫んでしまった。
 ギクッといやな音がして、左の足首が裏返っていた。痛いと思うのと、やってしまったと思うのとが一緒だった。
 前にも書いていた通り、私は一年ほど前に同じように右足首を捻挫して、それはもしかしてヒビが入るほどの重症だったかもしれないのだが、今になって山登りの時などには痛みが出てきて、もう無理なことはできないなと思っていたのに。
 今度は左かよー。痛みでケンケン歩きをしながら、深刻なケガにもかかわらず、私は思わず笑ってしまった。
 だるまさんがころんだ、の姿を思い浮かべたからだ。ミャオ、山登りの好きなオレの両足がダメになったら、オマエは台座に座ったオレを、綱をくわえて引っ張って行って・・・くれたりはしないよなあ。
 しかし、ものは考えようで、あの北京パラリンピックでの選手たちの活躍は、健常者である私たちが、むしろ励まされるくらいのものだった。その時はその時で、彼らを見習ってがんばればいいのだ。
 ともかくなんとか歩けるから、骨折ではないのだろうが、それにしても情けない。あんな平坦な道で、それも疲れていたわけでもないのに。十年ほど前に、まだ元気だった私は、北アルプスの立山から笠ヶ岳への長い道のりを縦走して、新穂高に下るその道の最後の二時間ほどのところで、同じように小石に乗り上げて、もんどりうって転んだことがある。
 あの時は無理なスピードで歩き、長い山旅で疲れていたし、今回とは状況が違う。つまり、今回は年ということか・・・。これからは、年なのだから、十分に気をつけるようにという神のお告げなのか。
 少し痛みを感じながらも、他の登山者などを抜いたりして、40分ほど歩いて、登山口に戻ってきた。やれやれだ。 
 そして、満員のバスの中、400円のバス代を払うついでにザックの中を探したところ、何とクルマのキーがない、家のドアの鍵もつけてある。いくら探してもない。どこで落としたのか。合鍵は、家にはあるけれど、どうして家に帰るか。バスで層雲峡に戻り、さらに都市間バスに乗り換え、そして家の近くまで行くバスに乗って・・・今日中には無理だ・・・などといろいろなことを考えてしまう。
 レイク・サイトに着き、ともかく車のところに行ってみると、ハッチ・バック・ドアの下のところに、キーは落ちたままだった。9時間もの間、他に数十台もの車が停まっていたのに。
 余りにも、教訓の多い一日だった。素晴らしい紅葉を見られた幸せ、不注意による足首の捻挫、不注意によるキーの紛失、そのキーがあっけなく見つかった幸運。
 あの名優、大滝秀治さんのセリフではないけれど、こんな出来事など、「くだらん、じつにくだらん」と、吐き捨てるように言われるかもしれないけれど。私にとっては、実に考えさせられる出来事の一日だった。

 その後、6日がたった。足首の痛みは残っているが、湿布薬のためかハレもひいて、なんとか普通には歩ける。病院に行くべきなのだろうが、ギブスをされると何もできなくなってしまう。こんな田舎の一軒家で、のんびりと一人で暮らしていることの大きな代償だ。病院に行くからには、相応の覚悟がいる。ミャオ、なんとかしてくれ。
 そう言いつつも、撮ってきた山の紅葉の写真を、きれいな液晶画面で見ながら、思わず、ニタリと笑う鬼瓦権三の姿がそこにはありました。(浪花節調で)・・・あーあ、あんあん、馬鹿は死ななきゃー直らーないー・・・。まずは、お粗末の一席。
                       飼い主より 敬具


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2 コメント

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はじめまして♪ (ポロにゃん)
2008-09-27 18:13:16
先日、フランシス・ジャムを検索してたらコチラへ参りました。
ミャオをはじめ、写真と文章、楽しく興味深く拝見拝読いたしております(まだ、途中なんですが・・・)。
ネコの暖かさが身に沁みる、季節です。
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ジャムの季節ですね (ミャオの飼い主)
2008-09-28 14:36:53
ポロにゃんさん、秋には、やはりジャムの詩でも読みたくなりますね。
もうひとつのジャム作りにも、いい季節です。コクワにノイチゴにヤマブドウに・・・さて、この秋は。
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