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「ボンジュール、アン」ワインと料理とモーツァルトそれにルノワール、大人の女と男のロードムービー 

2018-03-19 16:10:09 | 映画

            
 フランシス・フォード・コッポラの妻エレノア・コッポラが80歳にして作った初長編。自身の体験が基になっているそうで、情熱は年齢と関係がないのがよく分かる。ようやく男と女を理解したと言ってもいいかもしれない。

 アン・ロックウッド(ダイアン・レイン)は50代。子供たちは成人し著名なプロデューサーの夫マイケル(アレック・ボールドウィン)とカンヌ国際映画祭からバカンスに出る予定だった。
 が、マイケルに急用が入りブタベストに行くことになった。ところが同行する予定だったアンの耳の状態が良くない。飛行機はムリとなって列車でパリへ。そこに口を出したのがマイケルの仕事仲間ジャック・クレマン(アルノー・ヴィアール)。「私も車でパリへ帰るから、一緒に乗って行きましょう。送りますよ」女性関係でフランス男を信用していないマイケルは、一瞬考え込むがOKを出す。

 マイケルとアンの夫婦関係はやや古風。忙しさにかまけてアンをお手伝いさんのように扱うこともある。このホテルでも手荷物の運搬を「ポーターに頼んでくれ」とアンに指示。自分はさっさと階下に降りる。内線電話は「回線が混んでいます」と言う。仕方がないからアンは自分で運ぶ。この辺はエレノア・コッポラの10代のころ、女は夫のために家庭を維持して自分を犠牲にしていたと言って不満を述べている。それを具象化したのだろう。

 さて、おんぼろの車のエンジンをかけモーツァルトが流れる中を出発したアンとジャック。パリまで7時間の行程が、ジャックの強引な寄り道もあってパリには翌日の夜に着くと言う結果になった。

 その寄り道の行程でワインや料理を堪能。「美人だね」「一緒にここへ来れて嬉しいよ」フランス男のお世辞。ジャックの歯の浮いた褒め言葉に観る私はうんざり。アメリカ人のアンはどう思っているのか。

 しかし、ワインや料理の豊かな話題はやがてアンの気持ちにも変化が。セザンヌで有名はサント・ヴィクトワール山、映画を発明したリュミエール兄弟の研究所、ローマ人が残した城や水道橋、ラベンダー畑、織物博物館、地元の市場を見て回り極上のチーズを試食。

 その合間にレストランでの食事には必ず供されるワイン。シャトーヌフ・デュ・パプ、甘みと酸味がほどよいバランスを保つ世界で最も多く栽培されている品種グルナッシュの赤。日本では1本14,000円ぐらいで売られている。

 コンドリュー、地方の名前のコンドリューで生産されるワインは非常に美しい黄金色が特徴だ。フルーツ、ハチミツ、リンゴなどの甘い香りを楽しむとともに、ほんのりとした酸味とボディが後から広がる。この感覚はコンドリューワインでしか味わうことができない。 日本では7,000~8.000円。

 コート・ロティ、このワインは主に赤ブドウ品種のシラーと、白ブドウ品種のヴィオニエで作られている。この2品種のうち、シラーをメインに製造されており、ヴィオニエの比率は20%以内と定められている。しかし最近では、ヴィオニエをあまりブレンドせず5%程度にとどめ、ほとんどシラーだけで作られているワインが多い。

 タンニンが多く含まれ、味わいは力強くて濃厚。色濃く、香りも力強いため、男性的なワインだと表現される。色味は黒く見えるほど深い赤色で、スパイシーな香りが特徴。若いワインは飲みづらくもあるが、長期熟成することでタンニンがまろやかになって飲みやすくなり、余韻漂う味わいに変化していく。日本では20,000円前後。

 ポンコツの車がついにファンベルトが切れる故障、YouTubeで見たと言うアンの方法がパンストを代用するというもの。映画では動いたが、本当かな。

 途中友人から貰ったという大量のバラの花も、ルノーの新しい車に積んでいよいよパリへ。パリへもう少しというところで空に半月が見える。
 「暮れなずむ空にかかる 細い月 一度だけ出会った娘の くっきりとした眉を想う」俳句よと指を折りながら言うアン。

 どこにも寄らないでパリへ行こうと言っていたアンが「ヴェズレーよ! 標識を見た? あの大聖堂を見たい」あの大聖堂とは、1979年にユネスコの世界遺産として登録された「サント=マドレーヌ大聖堂」のこと。

 リチャード1世が十字軍遠征の前に訪れたし、マグダラのマリアの遺骨も納められている。アンは聖母マリアの前で39日間しか生きなかった息子デヴィッドを想って 涙を流す。このときはジャックも真剣な面持ち。

 レストランでの食事の後、突然ジャックはアンと踊り始める。踊りながら「ルノワールのブージヴァルのダンスだよ」たとえジャックがどこにでもいるおじさんでも、美味しいワインと洗練された料理それにウィットとユーモアで心地よい雰囲気に包まれれば、たいていの女性はふわふわと雲に乗った気分のなるではないだろうか。エレノア・コッポラは、女を落とすにはこういう風にしなさいと言ってる気がする。

 パリの友人のアバートに落ち着いたアンにジャックはバラの花10本から12本を抱えて戻って来た。そして愛を告白する。アンにしても好ましく思うジャックだがマイケルがいる。やんわりと引き離して「ダメよ」

 ジャックはフランス男、簡単にあきらめない「今度アメリカに行く。その時会おうよ」。帰って行ったジャックのキスの余韻は、夢見るような表情と笑みが浮かぶ。幾つになってもこの新鮮な気分は捨てがたいもの。アンはジャックに会うのだろうか。それは分からない。

 夫婦で同じ旅をしても記憶には残るが、刺激的な思い出とはならない。夫があろうと妻があろうと、ほかの男や女に興味が向くのはこの刺激に魅力があるからだろう。ジャックが持ってきたバラの花10本から12本には花言葉がある。「私とつき合ってください。これ以上ないほど愛しています」なのである。

 おそらく大方の女性は、こういう体験をしてみたいと思うだろう。それほど魅力的な観光ガイド映画でもあり、大人のラブ・ストーリーである。

 それでふと思ったのである。黒人やアジア人が演じたら……。残念ながらフランスが舞台ということもあって、欧米人でないとこの雰囲気は出ないように思う。欧米人の肌の色、髪の色、体つきに挙措はDNAだから仕方がない。

 もう一つじっくりと見ていたのは、ワインの飲み方。レストランでワインを注文する。ウェイターは注文した人にテイスティングを求める。この映画でジャックが注文するがテイスティングをアンに振ることもあった。そのテイスティングの仕方もかなりラフだった。教科書通りのグラスの持ち方とか味わい方などではない。家庭で日常的にワインを飲む国の人の作法は参考になる。2016年制作 劇場公開2017年7月
  

  
監督
エレノア・コッポラ1936年5月カリフォルニア州ロサンゼルス生まれ。

キャスト
ダイアン・レイン1965年1月ニューヨーク州ニューヨーク生まれ。
アルノー・ヴィアール出自未詳 テレビの仕事が多い。
アレック・ボールドウィン1958年4月ニューヨーク州ロングアイランド生まれ。
コメント
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