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小説 人生の最終章(7)

2007-04-16 11:35:54 | 小説



 香田は、妻の丸子と日光の半月山にドライブをした。この丸子という名前は、生まれたとき丸々と太っていたのを見た父親が丸っこいなあと言って、そのまま丸子になったとか。冗談のような本当の話しを聞いたことがある。
 香田はもともと登山が好きで、妻とはよく山歩きを楽しんだものだが、去年筑波山に登ったとき、妻の急病で筑波大付属病院に緊急入院してから登山とは疎遠になっている。
 緊急入院の原因は、ウィルスによる心膜症で、肩の痛みと胸が苦しくなる症状が出る。車の中で症状がひどくなったときの妻の表情は、香田にとって忘れられないものとなっている。
 香田の結婚は、友人に紹介された見合い結婚だった。香田の性格が短気でわがままなところがあって扱いにくい男である。そんな男に三十五年以上も連れ添った妻の忍耐には、香田も心の中で感謝以外のすべはなかった。
 妻が姉妹の家に行って留守の間、妻に先立たれればこの部屋で、二度と姿を見ることがないと思うと、いたたまれない寂寥感に襲われる。

 そのくせ今、浅見けいに異常な関心を寄せている。勝手な性癖は直っていないか。やはり、浅見けいのことはあきらめるのがいいのだろう。そう、もうメールはしないと心に誓った。
 半月山山頂から中禅寺湖を眺めながら、顔にしわが増えているが屈託のない笑顔を見せて、昼食の弁当を美味しそうに食べている妻に笑顔を返す。踏ん切りがついたので心からの笑顔だった。帰りの車中は、次の旅の話に費やされた。
「今度は一泊がいいかな」
「一泊でも二泊でも、美味しいものを食べて、きれいなお花があればいいわ」妻の頭の中は、食べ物と花のことで一杯なのだろう。

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