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読書「笑う警官」刑事マルティン・ベック・シリーズ

2019-04-14 15:28:47 | 読書

                 
 50年も前になる1968年に上梓したスウェーデンのマイ・シューヴァルとペール・ヴァールー共著になる警察小説。ストックホルム警察本庁殺人捜査課主任捜査官マルティン・ベックが中心となって地道な捜査が行われる。アメリカのドラマでよく見られるスワットのような銃装備の警官隊がドアを蹴破って突入するというアクションはない。

 関連する参考人への事情聴取の合間に、それぞれの捜査官の家庭や個人的事情も合わせて描写される。一言で言えば派手さはないが味のある物語が展開される。

 1968年はベトナム戦争でテト攻勢が始まったとされ、スウェーデンでは反戦デモが行われていた夜11時、ストックフォルム市内で8人が殺され1人が瀕死の重傷を負う事件が発生した。「赤いダブルデッカー(2階建てバス)は、曲がり角を曲がる途中で止まった。それから道の反対側に跳ね上がり、歩道を突き切って道路の反対側にある貨物列車用の貨物置き場とノラ・スタションスガータン通りを仕切るフェンスに大きな車体を半分突っ込んだ形で止まった」

 犯行はこの車内で行われ瀕死の乗客を除き、運転手を含めて8人が殺されていた。ところがその中に非番の捜査官オーケ・ステンストルムが拳銃を握り締めて真っ赤な血に染まっていた。オーケ・ステンストロムは、マルティン・ベックの一番若い部下だった。マルティン・ベックは、なぜ、この時間にこのバスに乗っていたのか。なぜ、非番なのに拳銃を携帯していたのか。疑問が浮かんでくる。

 氷が解けるように徐々に犯人が浮かぶと同時にオーケ・ステンストロムの疑問も解ける。普段、まったく笑わないマルティン・ベックにも笑みが漏れる。

 スウェーデンといえば、高負担高福祉の国として、満足度とか幸福度の調査ではいつも上位に入るが、外務省の海外安全ホームページにはスリや置き引きに注意が必要だし、夜の一人歩きは厳に慎むべきとある。犯罪発生率では、日本の約13倍にもなるという。世界で一番治安のいい国としてアイスランドがあるが、スウェーデンと同じような注意が必要らしい。ひどいのはスマホを見ている手から盗むというから油断ならない。あれこれ考えると世界で一番治安のいい国は、日本ではないだろうか。自画自賛過ぎる? 

 午後3時には、もう夕暮という陰鬱な風景やマルティン・ベックがクリスマスに食べる伝統料理の主役は自家製のハムで、調理のときに出る肉汁に黒い特製パンにつけて食べるものなど、家庭の生活が垣間見えるリアルな描写も心穏やかになる。

 著者のマイ・シューヴァルは、1935年ストックホルム生まれの女性で、雑誌記者、編集者を経て作家となる。街の様子や人々の暮らしをマイが表現したという。

 ペール・ヴァールーは、1926年スウェーデン南部西海岸ハランド県ツール生まれの男性。新聞記者を経て作家となる。1963年からマイと共同生活を始め男の子が二人いる。1975年没。

 この二人の関係について訳者あとがきの中で「1960年代は女性の社会進出が始まった時代でもあった。その背景には男女の教育制度が平等になったこと。国内労働市場で労働力が必要とされたことなどがある。それまで主婦の役割とみなされた育児や介護が、はっきり社会の家族政策として打ちたてられた。有名なスウェーデンの福祉政治は女性の社会参加を進めるための政策でもあった。同じ時期、男女の関係性も結婚だけがすべてではなくなり、リビング・トゥゲザーが社会的に認知されるようになった。のち、恋人同士の共同生活はサンマンボーエンデ、略してサンボと呼ばれるようになる。著者の二人もまたサンボの関係であることは広く知られている」とある。

なお、本作は1970年度のアメリカ探偵作家クラブが授与する優れた長編推理小説に与えれるエドガー賞長編賞受賞作品。

 


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