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映画「彼が愛したケーキ職人」静謐な映画といえばいいか

2019-06-26 16:07:32 | 映画

              

 この題名を見たときゲイの映画を連想した。確かにそれなんだが、イスラエル人の彼オーレン(ロイ・ミラー)は、帰国後交通事故で死んでしまう。

 ドイツ、ベルリンでグレデンツ・カフェ&ベーカリーのケーキ職人トーマス(ティム・カルコフ)をオーレンは愛した。イスラエルとドイツの合弁事業、鉄道敷設の仕事で両国を往来するオーレン。一時帰国時にはトーマスの作るケーキを手土産にする。オーレンに妻と子供があることもトーマスは知っている。

 トーマスは、オーレンが帰国のとき、妻とどのような時間を過ごすのか気になって仕方がない。トーマスは聞かずにはいられないらしく、それにオーレンは答える。
「彼女を横たえ、まずキスを」
「どこに?」とトーマス。
「首筋から口へ、目にも」それを言い残してオーレンは帰国した。

 寂しい日が続き、十数回携帯に伝言を残した。返事がないので業を煮やし、ベルリンにあるオーレンの会社に出向いた。そこの受付嬢からオーレンが交通事故で亡くなったことを知る。その現実を容易に受け入れられないトーマスは、少しでもオーレンが存在した空気に触れたいという思いで、イスラエルのオーレンの妻が営むカフェに向かう。

 機会を見てオーレンの妻から、オーレンの一部始終と事故の模様も知りたいとも思う。そのカフェに入って行くとお客は誰もいない。コーヒーとサンドイッチを注文。料金を支払った後「ここでは従業員を募集していませんか?」と聞く。「人手が足りていますから、募集はしていません」という返事。

 トーマスは、オーレンの妻と話せる機会を求めて毎日のようにカフェに通う。そんなある日、オーレンの息子を学校へ迎えに行く義兄のモティ(ゾハール・シュトラウス)が行けなくなる。困ったのはオーレンの妻。たまたま居合わせたトーマスに声をかける。「今も仕事を探しているの? そうなら、少し手伝ってほしい」オーレンの妻は、アナト(サラ・アドラー)と名乗った。

 厨房の棚にクッキーが作れる材料を見つけて作った。義兄のモティは、非ユダヤ人はオーブンが使えないので、彼が作ったものは食物規定に反するから捨てろという。しかし、アナトはモティがいなくなると、美味しいから店で出すという。その目論見は当たり客が増えた。

 義兄のモティは、しゃくし定規だがトーマスにアパートを紹介する。白い壁で部屋全体が明るい。モティは次のように説明する。「乳製品と肉用に分かれている。こっちが肉用で下は乳製品用の皿だ。流しも肉と乳製品は別々に洗う。君は非ユダヤ人だが、このアパートに入れる。俺のコネさ」

 イスラエルは面倒くさい国だなと思う。宗教的戒律の厳しい国なのだ。「安息の日」を街のスピーカーで放送する国なのだ。カフェの経営は順調に進む。大口の注文があり、トーマスはアナトに生地の作り方を教える。

 肩も触れんばかりの立ち位置から、アナトはトーマスにキスをする。寡黙ではあるが誠実なトーマスに、女が好意を寄せるのは時間の問題だった。しかし、トーマスは、驚きどうしていいのか戸惑っている。彼はゲイだから女性との交わりは未知の世界なのだ。辛抱強く待つアナト。

 トーマスは、オーレンの言葉を思い出していた。「首筋から……耳、口…」彼はその通りの行為を行った。翌朝ニヤニヤ笑いのアナトの表情が変化する。亡き夫オーレンの愛撫と同じではないか。女の直感は恐ろしい。オーレンの遺品の中から携帯電話の音声通話を再生した。やっぱり、トーマスの「愛している」という言葉もある。夫オーレンが離婚してベルリンに移住すると言っていた相手がトーマスだった。

 義兄のモティが険しい顔でやってきて「航空券だ。4時間後だ。これで帰れ」これは多分、アナトがモティに相談した結果なのだろう。

 冷却期間を置いた結果になった3ヶ月後、アナトはベルリンでグレデンツ・カフェ&ベーカリーを遠望していた。やがてトーマスが出てきて、自転車で去って行った。それを眺めるアナトの口元に笑みが浮かぶ。そしてエンディングロールへとつなぐ。

 この映画の良さは、こういうエンディングで締めるところだ。多くのラブ・ロマンス映画では、アナトがトーマスに飛びついて激しいキスとともに「愛しているわ」を連発するだろう。

 それに表情の演技を要求されている場面が多く、演じる俳優もかなり苦労したかもしれない。トーマスが作る上質のケーキのように、後味のいい余情の残る映画だった。2017年制作 劇場公開2018年12月

   

   

監督
オフィル・ラウル・グレイザー1981年イスラエル生まれ。

キャスト
ティム・カルコフ1987年11月ドイツ、ハイデルベルク生まれ。

サラ・アドラー1978年6月フランス、パリ生まれ。

ロイ・ミラー出自未詳 

ゾハール・シュトラウス1972年3月イスラエル生まれ。

サンドラ・サーデ1949年10月ルーマニア生まれ。

 

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