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大げさに言えば、瞬きもせず凝視し続けた映画「たかが世界の終わり」

2017-09-28 16:20:40 | 映画

           
 12年ぶりに実家を訪ねる決心をしたルイ(ギャスパー・ウリエル)。作家として成功しているルイではあるが、ゲイでもある彼はエイズに侵され、死期が迫っていることを家族に知らせる旅でもあった。

 タクシーから降りてドアを開ける。よくある風景は、家族みんなが笑顔で迎えハグの応酬という場面。ところが口元は微笑んでいるが目は凝視するという感じ。妹のシュザンヌ(レア・セドゥ)は、小さかったから兄ルイを覚えていないと言いながら飛びつくように抱きついた。長い抱擁。

 母マルティーヌ(ナタリー・バイ)は、フランス式の両頬にキスをする仕草。ルイの兄嫁カトリーヌ(マリオン・コテヤール)は、初対面。紹介されて握手。

 その夫ルイの兄アントワーヌ(ヴァンサン・カッセル)が渋面を作っている。心のこもった歓迎の言葉もなく気のないハグをするだけ。

 アントワーヌの態度にすぐ爆発するのはシュザンヌ。口数の多い母ともどもこの家族の感情の発露に馴れているのか表情も変えないカトリーヌ。そんな喧騒の中でルイの静謐な佇まいが異彩を放つ。

 いつ家族に告白すればいいか。「実は……」と言い始めても誰かの言葉で遮られる。母からは「お前は三言しか言わなかった。時には三言以上が必要だよ」と言われる始末。家族はルイがゲイであることにかなり気にしている様子だ。兄貴のアントワーヌが激しい。直接の言葉を投げかけないが、嫌味や感情をあらわにする。

 この映画の28歳と若い監督グザヴィエ・ドランの演出は、顔のクローズアップがびっくりするほど多い。ルイを見つめるカトリーヌ。カトリーヌを見つめるルイ。この時間が長い。二人が初対面で琴線に触れたのかと思うくらいだ。この二人に限らずすべての俳優に言える。こういう撮られ方をすると、演技力を試されているようだ。それでもみんな良くやったよ。

 家族のいさかいが絶えない中、鳩時計が4時を指す。鳩が部屋を飛び回り元の時計に戻る。ルイの今後を象徴するかのように……ルイは静かに去っていく。その背に投げかける歌詞は「果てしなく暗い闇 わずかな望みも朽ち果てて 誰にも届かない心の叫び ただ神だけが耳を傾ける どうしようもなく深い孤独……」

 感情をテーマとしただけあって何かと言えばいさかいだったし、心に思い重りを抱えるルイの対比がよかった。しかし、世間は甘くない。ウィキペディアには「カンヌ国際映画祭でのプレミア上映の際は観客及び批評家の反応は芳しくなく、『ヴァニティ・フェア』誌からは「カンヌで最も期待外れの映画」と評された。『ハリウッド・リポーター』からは「寒く、不満足」、『バラエティ』からは「しばしば耐え難いほど劇的な経験」と書かれた。一方で『ガーディアン』誌など高評価する批評媒体も存在した[。最終的にカンヌではグランプリとエキュメニカル審査員賞を獲得した」ではあるが私は素晴らしい映画だと思った。

 グザヴィエ・ドランの「わたしはロランス」とギャスパー・ウリエル出演の「サンローラン」を観てみたいと思う。2016年制作 劇場公開2017年2月
    

  


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