
久しぶりに上質のミステリーに堪能した。ジョン・グリシャムが初期にもたらしてくれた興奮を味わえた。というわけで、主人公は弁護士だ。
キングとまで言われた父の言いなりのジャクソン・ワークマン・ピケンズ。周囲からは、ワークと呼ばれている。頭は切れるが、父の支配下のせいか男らしい決断力に欠ける。妻のバーバラも、父の意向が強く働いた結果だった。ヴァネッサという恋人がいながら。
一年半を経て父の遺体が発見される。母の死の夜から始まった父の行方不明。数ページに一度の割合で、徐々に展開される謎解きに、だれたり眠気を催したりする暇はない。わたしという一人称で語られているが、難しいとされる一人称で、600ページにわたり読者を引きつけるのは並大抵ではないだろう。
特異な人物像として描かれる父親の死後、良くも悪くも父親の手から離れた優柔不断なワークの精神的成長を克明に描いてあり、一時精神を病んだ最愛の妹の顔にも笑顔が戻るという兄妹愛(きょうだいあい)に涙腺が緩む。