Wind Socks

気軽に発信します。

ジェイソン・スター「嘘つき男は地獄に堕ちろ(NOTHING PERSONAL)」

2008-12-17 10:27:00 | 読書

              
 ギャンブル狂いの男と不倫相手の女に脅される男を、汚い言葉と露骨で卑猥な文章ではあるが、多くの男が持つ自分勝手な振る舞いを白日の下に晒す。
 思うに男は肉体に考える部位が二箇所あるようだ。一つは頭脳でもう一つは股間である。殆どの男は表向き理性的に見えるが、根はスケベである。チョット考えてみれば、男の痴漢はいるが女の痴漢なんて聞いたことがない。
 ギャンブル狂いの男ジョーイは、競馬でかなりの借金をこしらえている。妻のモーリンから再三ギャンブルを止めるように言われているが一向に効き目がない。広告代理店勤務のエリート社員デイヴィッドは、セントラル・パークが望める高級アパートメントに小柄で美しくいいケツをしている妻レスリーと可愛くて頭のいい娘ジェシカの三人で優雅な生活を送っている。
 何にも増して大事に思っている家族がありながら、同じ会社の社員中国系のエイミーと不倫を続けている。しかもみんなが帰った事務所の机がベッド代わりだった。想像しただけで、膝頭が痛くなりそうだ。
 この二人の男、典型的な男の見本にしたいくらいだ。妻たちは友人同士ということでお互いの事情は筒抜けだった。したがってレスリーは、ジョーイが大嫌いだったしモーリンはデイヴィッドのような男と結婚すればよかったと悔やんでいた。
 ジョーイは高利貸しに脅されて二日以内に金を返せと迫られている。一方のデイヴィッドは中国女に結婚を迫られ、これも脅迫されている。切羽詰ったジョーイは、こともあろうにデイヴィッドの愛娘ジェシカ誘拐を企む。デイヴィッドはといえば、中国女のアパートでひょんなことから殺してしまう。一時の浮気がこんなに高い代償を払うとはデイヴィッドも思わなかっただろう。
 おまけにジェシカの身代金に1万2千ドルを払い、妻からも見放される事態を予測しておくべきだった。その1万2千ドルは、ジョーイの高校時代の友人ビリーが実行犯として受け取り二人で山分けした。
 ジェシカが無事保護されてデイヴィッドのアパートにジョーイとモーリンが招かれた。レスリーによるとモーリンのおめでたのお祝いということだった。ジョーイはその心当たりがないので不思議に思っていたが、自分に言い聞かせた。“どうせ女ってのは分からないことだらけだ。妊娠八ヶ月で子供が生まれる場合だってあるのかもしれない。でなきゃ、あいつをはらませたのはあそこの中で腐りかけていた古い精液だったかも。しかしだ。それ以外は人生何もかもうまくいっているってのに、そんなことでぐじぐじ文句を垂れたって仕方がない。レースをいくつか当てたおかげで借金もキレイに清算したし今も賭けを楽しんでいる。これ以上を望んだら罰が当たろうというものだ”
 デイヴィッドの家庭はいまや崩壊の危機に瀕していた。ジェシカが生きて帰ってきたが、そのショックは彼女の人格を変え暗い表情だった。エイミー殺しの捜査は、別の方向に向かう気配がありそうな記事がニューヨーク・タイムズに出ていたが、デイヴィッドの人生からは、過ちとはいえエイミーを殺した事実を背負って生きていかなければならない。
 この本から教訓を得ようとすれば、股間の判断に従うな! もし従うとすれば、金で済む女にせよ!
 ほかに気がついたことといえば、“例によって理由のない乗車拒否が何台か続いた後、ようやく一台が止まってくれた”とあるようにタクシーの乗車拒否が日常茶飯事のニューヨーク事情が見える。
 “今夜は中華にするつもりだから、日本の美味しいビールのほうがいいと思うのよ”とレスリーが言う。で、どうやら著者は日本のビールがお好みのようだ。
 著者は(Jason starr)、1966年ニューヨーク・ブルックリン生まれ。ニューヨーク州立大学在学中から小説を書き始める。大学卒業後、演劇の世界に入っていくつかの脚本を手がけつつ、さまざまな職を転々とする。そのとき出会った不愉快な上司たちとの経験をもとに、1997年「あんな上司は死ねばいい」でデビュー、エドワード・バンカーなどから絶賛を浴びた。以後、ノワールの旗手として次々に不条理サスペンスを発表し続けている。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする