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アーロン・エルキンズ「骨の城」

2008-12-04 13:14:03 | 読書

          
 骨というとすぐ人体の骨格模型を思い浮かべる。猫や犬でない限り、魚の骨とか牛の骨を連想することはない。いや、今の猫や犬は、ペットフードに馴らされているので思いもよらないことかもしれない。
 それはともかく、まさに人骨から性別、年齢、身長を割り出し、事故や事件の真相が明らかにされる。人類学者で骨の権威と評価され、しかも歴史と食べることが大好きというギデオン・オリヴァーと妻のジュリーは、イギリス、コーンウォール州、ペンザンスにある古城スター・キャッスルに赴いた。
 “ER(エリザベス女王の治世)1593年”と刻まれた巨大な石門を擁するこの城の持ち主ロシア系のヴァシリー・ロズコフが環境保護を目的とした会議を主宰する集まりに出席するためだった。
 ギデオンとジュリーとは、普通では考えられない出会いだった。ジュリーは、ワシントン州のオリンピック国立公園のパークレンジャーであり、ギデオンは骨の専門家でどう見てもめぐり合うチャンスは殆どない。しかし、神の思し召しは事件の調査という機会を与えて、黒髪の美人にぞっこん引きつけられたギデオン。
 ジュリーも身長6フィート1インチ(約183cm)、広い肩、短い期間プロボクサーで格闘家らしい体格に加えボクサー時代に折った鼻は、チャーム・ポイントで、学者然とした風貌から程遠いギデオンだが、ジュリーから見れば街中で怪しげな男や強い北風の盾の代わりにもなるし、おまけに気心のやさしさに魅かれたというわけだった。さらに、この骨の権威ギデオンが妻のジュリーの尻に敷かれているのがほほえましい。
 スター・キャッスルで会った魅力的な50代の博物館館長マデリン・グッドウェローのたっての依頼で、博物館に保管してあった人骨を調べると古いどころかここ二年以内であることが分かった。地元警察のクラッパー巡査部長と部下のロブ巡査の協力を得て調べが進む。そのうちに会議参加者の転落事故が殺人事件に発展するという事態になった。当然骨の分析が犯人を探し当てるが、謎解きの醍醐味が骨の分析や死体の検死解剖という地味な展開に終始する。
 息抜きにレストランでの食事の場面に目を凝らすことにもなる。といって豪華なフランス料理を堪能するわけではない。例えば“屋外の庭で食べることを想定して、ありあわせの材料でつくった、いかにもイギリス風のメニューだった――クスクスサラダ(細かい粟粒状の世界最小のパスタといわれるクスクスをスープを混ぜて冷ましエビ、ささみ、たこ、トマト、きゅうり、レタスなどをあえたもの)、さいの目切りのピーマンがのったライスサラダ、三色のパスタサラダ。チーズとトマト、ハムサラダ、ハムとチーズ、きゅうりとバター、ツナをはさんだフィンガー・サンドウィッチ。
 ニンジンとセロリの野菜スティック。サワクリームとサルサソースを添えた個別包装のポテトチップス。切り分けられた冷えたピザ。フランスパン、ソフトドリンク、ビール、紅茶それと二瓶のピムズNo1とレモネード。
 このリキュールをレモネードで割ってつくるピムズ・カップの代用品は、正統派のイギリス式ピクニックには欠かせないカクテルだった”
 同じような味のものが並んでいるような気がするが。アメリカ人のようにレストランに出かけなければ、サンドウィッチやピザの類にビールをがぶがぶ飲むという風でもない。お国柄がでている。
 それにしてもつくづく思うのは、食に関しては日本人ほど恵まれている国民はないだろう。和洋中華のほかなんでもありだ。
 著者は、1935年ニューヨーク生まれ。ハンター・カレッジで人類学の学士号を、アリゾナ大学で同修士号を取得。現代アメリカを代表する本格ミステリ作家。
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