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フェイ・ケラーマン「正義の裁き」

2008-12-13 11:05:16 | 読書

            
 タイトルからは、なにやら白馬に乗った騎士がばったばったと悪をなぎ倒すのではないかと思うが、ロサンゼルスのデヴォンシャー署殺人課のユダヤ系刑事ピーター・デッカーが、妻や子供たちに支えられて真相を掴むというお話。
 警察小説ではあるが、聡明で献身的な妻リナに加え、謎の高校生クリスとクリスの恋人テリーが絡みながら、人種や宗教が与える根深い偏見を背景に物語は展開する。読後感は、ただ退屈せずに読んだという程度だった。
 たとえば人物造形でも、確かにデッカーの妻のリナの言葉は、的を射ていて夫に対する情愛や誠意が感じられるが、リナ本人の心理描写が物足りない。こんな場面がある。捜査を終えて午前二時ごろ帰宅したデッカーが、キッチンで座っているところへリナが起きてくる。デッカーがなにやら悩みを抱えているらしいと察したリナが話を聞いているところへ暑から電話がかかってくる。
 その電話でデッカーは急いで出かける。ここでこの章は終わっている。しかし、妻は一人ぽつんと残されているのだ。その妻の心は、おそらく夫の仕事と割り切っているが、夫の健康もさることながら自身にとっても心に寒々としたものを感じているはずだ。そういう心理を短い文章ででも描出できないかと思う。著者が女性ならなおのこと。そういう深みが欲しかった。
 この本のもう一つの特徴は、人種偏見を微妙に描いていることだ。この人種偏見は、多民族国家アメリカならではという問題だろうが、日本人には今ひとつ判然としないかもしれない。とはいっても、日本人に人種偏見がないとはいえない。特に近隣の韓国や中国に対してだが。最近の世論調査でも中国を好ましいと思う人が少なくなったという報道があった。中国製品の食中毒事件やその対応に不満があるのだろうが、心の深いところで偏見がうごめいているのかもしれない。
著者は、1952年ミズーリ州セントルイス生まれ。UCLA卒
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