MEDINT(医療通訳研究会)便り+

医療通訳だけでなく、広く在住外国人のコミュニケーション支援について考えていきます。

医療通訳者に知識はいりますか?

2007-07-11 00:00:00 | 通訳者のつぶやき
7月7日、大津市でびわ湖国際医療フォーラムが開催されました。医療フォーラムなので、医療関係の専門学会と思われているかもしれませんが、医療人類学や外国人支援、言葉と医療など様々な研究発表がなされている学際的なフォーラムです。今回も様々なテーマで発表と議論がなされました。なかでも、みのお英語医療通訳研究会の新垣さんの発表は非常に興味深く拝聴しました。「外国人医療における通訳時の誤解発生のリスク-あるコロンビア人患者の事例を通して-」をテーマに、医療通訳者が通訳現場で犯すリスクについて具体的な例をあげてお話されました。新垣さんはスペイン語通訳者ですが、看護師でもあります。お話を伺いながら、リスクの場面が、私たち医療専門ではない通訳者と違うなあと感じました。看護師など医療従事者は医療に関する基礎的な知識があります。例えば、医師が間違った説明をしたり、いい足りないことは問い直したり、言い足したりすることができます。本来、通訳者は言葉を100%正確に訳すことが仕事ですが、たとえばその間違いが患者の命にかかわることであったり、今後医療者との関係を悪くする恐れがあるような場合は介入することもあるでしょう。逆に、医療知識のない通訳者は、そういう予見・偏見のない通訳ができます。
では、医療通訳者は医療のことをしらなくてもいいのでしょうか?私は、医療通訳者であっても、医療に関する最低限の知識は習得すべきなのではないかと思っています。誤解を招きそうなのできちんとご説明すると、この最低限の知識は、診断を下したりアドバイスをするための知識ではありません。知識があればこそ、自分の意見がはいるとまずいことに気づくことが出来るのです。
このケースでは、おなかを切る位置を医師がジェスチャーで説明して、医療知識のある通訳者が「へその下」と言語で通訳したのですが、医療の専門でないものにとってはそれが「へその下」という言語で表現していいものなのかどうかもわかりません。だから、医師と同じようにジェスチャーで表現すると思います。医療従事者である通訳者は、知識があるゆえに医師の言葉でない言葉を言い足してしまうことがあります。ただ、知識があるゆえにその危険性にも気づくことが出来るのです。
医療通訳研究会(MEDINT)で医療の基礎知識の講座をやっているのは、医療通訳者が何も医師のように診断やアドバイスをするためではありません。また、正しい言葉を選ぶためだけではなく、こうした医療通訳することの難しさ、やってはいけないことを知るためにも学習しているのです。