MEDINT(医療通訳研究会)便り+

医療通訳だけでなく、広く在住外国人のコミュニケーション支援について考えていきます。

見えない傷を言葉で表現する難しさ

2006-11-29 00:00:00 | 通訳者のつぶやき
医療通訳が特に必要な場面のひとつに、見えない傷や心の傷を医師に伝える時があります。
明らかに高い検査値やぱっくり開いた傷口、骨折した腕などは誰が見てもこの人は患者だとわかります。痛いだろうなとか早く治療しなければと理解できます。もちろん、薬に対するアレルギーだとか既往症だとか問診しなければいけない項目はありますが、とりあえず医師も見れば理解できる病気や怪我の治療は今までも、今でも多くの診療機関で通訳なしでおこなわれているのが現状だと思います。医療現場は少ない資源の中でいつもベストを尽くして治療にあたってくれます。
でもいつも切ない思いをするのは、見えない傷を抱える患者です。
Aさんは交通事故の被害者です。左折してきた車に巻き込まれて自転車でこけました。事故から2年近くたつのですが、まだ右足が痛みます。保険会社からは症状固定を強く勧められ、詐病の疑いまでかけられています。でも痛いのです。それを伝えるために様々な表現を駆使して痛みを訴えます。外から見てもわからないし、通常同じような怪我は数ヶ月で症状固定といわれますが、なんといっても患者本人が痛いのです。患者本人の意思をどれだけ表現できるか、わかってもらえるか、通訳者も必死です。
Bさんは年齢的には更年期障害にはまだ少し早いかなと思います。でも慢性の体調不良で治療を希望しています。医師は検査結果には何も異常がなく、病名がつけられないので治療ができないといいます。でも本人はつらいので、いろんな医師のところで検査を繰り返します。当時はうつやストレス性疾患などがまだ一般的ではなかった時代でした。結局、自分のつらさをわかってもらえないもどかしさが通訳者にもつたわってきて、とても気の毒でした。
目に見えない、言葉でしか症状を伝えられない場合、通訳は絶対に診断・治療に必要です。大丈夫といわれて、その言葉を信じて帰ってきて症状を悪化させてしまったこともあります。もっと症状を具体的に表現できていれば、早く病気が見つかったかもしれないケースもあります。自分の症状をつたえきれないもどかしさは、実は患者自身が一番感じているのです。