港区まち創り研究会(まち研)ブログ

港区まち創り研究会の活動の状況やまちづくりについての様々な情報をお伝えします。
海外の街あるきの報告もあります。

世界の街から12---オーストリアのハルシュタットに学ぶ観光地のありかた

2011-08-06 21:26:42 | オーストリアの街から
オーストリアのハルシュタットに学ぶ観光地のありかた


今日は、暑い東京の夏を離れて、涼しげなオーストリアの湖水地方小さな街ハルシュタットの話をしてみよう。
ハルシュタットは、オ-ストリアの湖水地方ザルツガ-マ-グ-トのハルシュタット湖のほとりにある小さなまちである。世界の湖岸の町で最も美しいまちであると言われている。有史以前から人が住みついて高い文明を築いていたという、長い長い歴史を持った村である。1997年世界遺産に指定されている。
ハルシュタットは、欧州では有数の塩の産地で、かって塩が金と同じ位価値があった時代にこの村やハプスブルグ家に大きな富をもたらした。
 バ-トイシュルから列車に乗って、ハルシュタットに向かう。車窓から見え隠れしている湖水の景色を楽しんでいると、30分程度でハルシュタット駅に着く。
 駅を降りると林があり、細い小道が続いている以外には、駅前には店もなければ何の標識もない。
 駅を降りたのは、わたしだけのようなので、人に尋ねるわけにいかず、細い小道をわけわからずに進む。
 少し歩くと、あっと驚く。美しい湖水の景色が突然現れ、はしけに一艘の舟が止まっている。 すでに、10人位の人が乗り込んでいる。わたしも、この舟にのるしかないと思い、料金を払って舟に乗る
 舟は対岸に向かって進むにつれ、対岸に家並みが見えてきた。ここでやっと理解してきた。
対岸の家並みが行こうとしているハルシュタットの村なのだ。


舟から見た村の景観
 振り返って、来た方向を見ると、湖水と樹林地と遠くの雪をいただいた山並みが見えるだけである。 つまり、わたしが駅に着いたあたりは、完全に自然が保護されている区域となっているようだ。


保護された自然景観
舟が岸に近づくにつれ、家並みが次第に大きく見えるようになる。映画の1シ-ンを見ているような演出である。
 舟をおりると、マルクト広場があり、広場に面して大きな教会がある。
 マルクト広場には、大勢の人が集まっており、やっと観光地らしい雰囲気となった。

マルクト広場あたりの建物

湖水のまわりには、平坦な土地の部分があまりなく、いきなり急斜面となっている。
この急斜面に沿って建物が重なるように建てられている。
 一戸一戸の家は、木造で3階建ての切妻屋根の建物が多い。建物の多くはバロック様式でパステルカラ-に外壁が塗られている。湖水に面している家には、舟を入れる舟屋がある。建物はかなり古そうに見えるものもあり、比較的新しく見えるものもある。日本の漁村集落に似ているようなところがある。

漁村集落に似た建物
 しかし、どの建物も同じような外観であり、違和感のある建物は見られない。
 以前ドイツの小さな歴史都市シュベ-ビシュ・ハルの役所を訪れた時、この都市で建物を新築、改築する際守らなければならない建物の色、形、材料などの詳細な規定を示す地区計画の図面を見せられたことがある
 多分ここでも、厳格な地区計画が定められて、それに合わせて建物が建てられているのであろう。建物の用途は、ここに住んでいる人たちの住宅だけかと思っていたら、どうもほとんどが民宿のようなホテルとなっているようだ。


木造3階の建物が多い。デザインは統一されている。
湖水沿いに遊歩道があり、美しい湖水の景色を見ながら歩くので、いくらあるいても苦にならない。
 湖水沿いもほとんど人通りがなく、ベンチに腰掛けて対岸の絵はがきのような景色をしばし眺める。
 湖水に面した瀟洒な建物があり、芝生の庭に、アウトドアのイスが置かれている。ホテルなら泊まって見たいと思い、通りかかった人に尋ねるとこれは、ホテルではなくプライベ-トな別荘だそうだ。

プライベートな別荘
こんなところで週末を過ごす人たちはどんな人たちなのだろう。うらやましさを感じる。
しばらく歩いた後、湖岸に面したレストランに入る。アウトドアのテ-ブルに席につく。素晴らしい湖水と山の景観が目の前に飛び込んでくる。湖水でとれる鱒料理を注文する。ここでは、何を食べてもおいしいように感じる。まさに、景色がごちそうになる。
昼食の至福の時間を過ごした後、さらに湖岸沿いを歩く。もちろん、車とは行き会わないようになっている。遠くにロ-プウェイが動いているのが見えたので、乗ることにしたが、乗り場がわからない。乗り場の表示を大きく示さないのが、こちらのやり方である。何となくその方向に歩き、乗り場を見つけてのる。ロ-プウェイは、結構長く、相当高いところにいく。
 上から見る湖水と山の景観はまた素晴らしい。遠く、アルプスの山々を遠望することができる。
 近くにあるレストランからハルシュタット湖の景色が一望できる。

ロープウェイの頂上から見た景観
自然環境の保全と観光
 日本の観光地の駅でまず思い浮かべるのは、広場がありタクシ-やバスが何台もとまっており、駅前にレストランや自動販売機があり、スピ-カ-などでいろいろな宣伝をしている風景である。
 ハルシュタットの駅前はまったく何もないのである。看板一つない。ここは観光地なのかと目を疑う。なにもない理由は、おそらくここが自然保全区域となっているからなのであろう。
 ハルシュタット湖の周辺で家が建てられる区域はほんのわずかで、ほとんどが自然保全区域になっているように思われる。そして、保全区域において厳格にル-ルが守られているのであろう。
 日本の場合は、観光振興が優先されるため、自然環境保全のル-ルの適用があまくなり、その結果貴重な自然資源を失い、観光地としての最も大事な魅力を失ってしまう。
 ハルシュタットは世界遺産であり、有力な観光資源であるにもかかわらず、最大限に客を呼び込み、だれも最大限に利益を得ようとしていないように見える。例えば、渡しの舟であるが、せいぜい50人位しかのれないように見えるし、しかも1時間に1本しかない。 宿泊施設も低廉な民宿形式が多く、大きなホテルはない。
レストランやコ-ヒ-ショップのようなものも要所、要所にあるが、決して数は多くあるわけではない。
 あちこちの家に花が飾られている。

道から見える手入れのよい花
ここにいて感じるのは、どうぞかけがいのない自然の景観と町並みを十分楽しんでくださいよという地域のもてなしのこころである。どんどん人を呼び込み、その場の経済性のみを考えるような日本の観光地のあり方はいずれ行き詰まってしまのではないかと思った。  文責 安藤 洋一   
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする